ものづくり企業 × スタートアップ

――浜松市がスタートアップ施策に注力し、実証実験サポート事業を実施されている背景について教えてください。
浜松市はもともと、スズキやホンダ、ヤマハなどものづくりに強い企業が数多く生まれた、起業家精神あふれる地域です。現在、地域のものづくり企業は自動運転やカーボンニュートラル、デジタル化などさまざまな課題に直面しており、大きな転換期を迎えています。
しかし、それらの課題を地域企業だけで解決するのは難しいのが現状。浜松市が未来に向けて持続的に発展していくには、地域が持つ高い技術力と、全国のスタートアップの革新的なアイデアや技術がコラボレーションすることで、新しいビジネスを創出していくことが必要と考えました。
そこで、浜松市は2016年に「浜松バレー構想」を提唱し、外部のスタートアップ誘致や地域内スタートアップの創出によりスタートアップを集積させる取組を進めてきました。
そして、スタートアップの革新的なアイデアと浜松を支えてきたものづくり企業の技術を融合させて、革新的なイノベーションを生み、時代の変化に対応していこうと考えています。
全国のスタートアップの皆さんに浜松に注目していただく事業として、4年前に実証実験サポート事業を立ち上げました。
事業の目的は、浜松市が抱える社会課題の解決や市民生活の質の向上につなげることと、産業振興を図ること。
スタートアップの皆さんには、全国で2番目に広い面積を持ち、山や海、湖、川といった多様な自然環境と、人口80万の都市環境が共存した、浜松市を実証実験の場としてフル活用いただき、新しいサービスや事業の創出を実現してほしいと考えています。
浜松市が実証実験から事業化まで全面サポート

――この事業に応募すると、スタートアップは浜松市からどのようなサポートを受けられるのでしょうか?
具体的には、
・実証実験の必要経費の補助(補助上限額200万円、補助率1/2以内)
・市内公共施設、協力企業が有する施設などの実証実験フィールドの斡旋
・実証実験モニター募集支援
・実証実験に係る地元調整
・法制度に関するアドバイス
・実証事業のPR支援
・その他、必要と判断する支援
これらの項目で実証実験を全面サポートします。さらに実証実験後の出口支援として「トライアル発注認定制度」も設けており、実証実験サポート事業で開発された新製品や新サービスを浜松市が認定し優先調達することで、事業成長を後押ししたいと考えています。
全国の自治体で同じような取り組みがされていますが、浜松市は、職員が実証実験プロジェクトに伴走し、率先して汗をかく覚悟で取り組んでいます。私たちスタートアップ推進課の職員だけでなく、実証実験のテーマに関係する担当部局の職員も一緒に「オール浜松市」で支援させていただきます。
地域との調整や実証実験フィールドの斡旋は自治体にしかできないので、実証実験の開始から事業化まで、全力で伴走したいと考えています。
社会課題を解決する幅広い提案に期待
――どのようなスタートアップが応募対象でしょうか?
応募枠は2つあり、1つは浜松市が収集した“解決したい課題や実現したい未来”に対応した「ニーズ対応型」の実証プロジェクト。2つ目は浜松市の社会課題を解決する「フリー提案型」の実証プロジェクトです。社会課題は産業や健康福祉、環境など多岐に渡るため、さまざまな分野のスタートアップからの、幅広い提案に期待しています。
――今回は4回目の実施となりますが、過去3回でどのような成果が出ていますか?
これまで、スタートアップからの幅広い提案を受けて、17社の支援をしてきました。たとえば、中山間地における自動運転のプロジェクトやSNSを活用した健康診断の受診勧奨、VR技術を活用したバーチャル動物園など、多様な実証実験の実績があります。
本市での実証実験により、新製品を世に生み出したスタートアップや、市のトライアル発注認定制度を活用したスタートアップも出ています。また嬉しいことに、拠点を浜松市内に構えてくれたり、移住してくれたりするスタートアップもいらっしゃいます。
今後も引き続き、浜松市でしっかりとビジネスができて成長できるよう、支援していきたいと思っています。
――スタートアップとのオープンイノベーションによって、作りたい未来を教えてください。
浜松市はものづくり企業が集積した地域で、現在、地域企業はさまざまな課題にぶつかっています。その課題を地域企業だけで解決するのは難しいので、オープンイノベーションで課題の解決を目指し、スタートアップと地域企業とが一緒に成長していただきたい。それが、浜松市の持続的な発展につながると思っています。
これは浜松市に限らず、ものづくりを中心に成長してきた日本全国の課題でもあります。浜松市の取組が、課題解決の先進事例となるよう、今後もスタートアップ施策にしっかりと取り組んでいきたいと思います。


浜松市出身。1998年浜松市役所入庁。税務部門を経たのちに国際課にて多文化共生施策を推進。その後、産業部門にて、経済対策、雇用促進、中小企業の海外展開支援に従事し、2021年4月より現職。スタートアップが生まれ、集まり、育つエコシステムを持つ都市「浜松バレー」の実現を目指す。
