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「地域のモノづくり企業」と「新しいアイデアを持つスタートアップ」との融合を目指す

浜松市産業部 スタートアップ推進担当部長 加藤 路子 氏
現代は、SDGS、アフターコロナ、カーボンニュートラル等を見越した変革が求められる時代であり、多くの企業が新規事業の創出といった新たな挑戦に取り組まれています。
その一つの手法として、オープンイノベーションがありますが、本事業は、中でも「地域のモノづくり企業」と「新しいアイデアを持つスタートアップ」との融合に焦点を充てるものです。プロジェクトを進めるにあたって難しさも多様にある中で、それをどう感じ、どの様に次のステップに進めたのかお話を伺うことで、皆様が取り組むイノベーションへの一助になればと思っています。
「浜松アクセラレーター2021」とは
Creww株式会社 OI Dept.Partner Team Senior Account Executive 田中 健策
本プログラムの目的は、浜松市内のものづくり企業とスタートアップとの協業の先行モデルを作り、浜松市の産業の活性化に繋げることです。本プログラムは、昨年に続き二回目の開催になります。
スキームは、事業会社からは、顧客基盤や資金などの経営リソースの提供。スタートアップからは、協業アイデアや特徴的なサービスを提供していただき、マッチングを図るというものです。
マッチングの方法としては、協業の可能性を最大にするため、段階的に選考を重ねるプロフラム形式を取っており、昨年の12月に実証実験に進むことが可能な協業案を採択しています。現在は、事業化に向け実証実験の結果を踏まえた上で、さらに次に進めるかどうかの判断をするフェーズに入っています。
ものづくり企業は自社製品や技術の新たな活用がメインであったのに対し、スタートアップは、ハードウェア企業とDX関連のテック系企業が選ばれる傾向が見られました。
ものづくり企業が、スタートアップのと想定外の協業案によって、自社の製品技術のユニークな活用方法を見出せたことは、非常に有意義であったと思っています。
ものづくり企業1▶朝日電装株式会社

朝日電装株式会社 技術部 開発設計課 水野直紀 氏
会社概要:各種モビリティ向けのスイッチ・ロック・電装部品の開発・設計・製造・販売を一貫して行なっています。日本以外にも、台湾・ベトナム・インドネシア・タイ・インドに製造拠点を展開。
プログラム参加の背景:朝日電装の経営ビジョン「AD 2030 VISION」の実現に向け、持続可能な社会の実現に貢献する会社に変革していく重要な十年と捉えていました。ビジョンを具現化するきっかけを掴むため本プログラムに参加しています。
<朝日電装株式会社×株式会社ICOMA>
協業案:「EV用HMI(ヒューマンマシンインターフェイス)× タタメルバイクの開発」

ICOMAは、“タタメルバイク”という今までの二輪車の概念とは全く異なる新たなモビリティを開発しているスタートアップ企業です。タタメルバイクは、畳んでコンパクトにすることで駐車場が不要になり、限られたスペースの有効活用が期待できます。ICOMAは、朝日電装の「次世代モビリティの発展・普及に貢献したい」を解決するために、 タタメルバイクとのコラボを提案しました。ICOMAにとっては、信頼性のあるバイクへの完成度向上が、朝日電装においては、部品搭載による評価やアピールのメリットがあり、双方のメリットが重なったため実証実験を行う運びとなりました。
朝日電装の課題は、EV車両向けの新しい製品の使用実績や使用感を知っていくことです。そのため、実証実験では、朝日電装が作製した車両インタフェース部品の試作品をICOMAに提供し、ICOMAが試走や実際の使用感の確認を行いました。今後は、そのフィードバックをもとに、今回提供した部品以外でも検討を進めていきます。
<朝日電装株式会社×株式会社ProsCons>
協業案:客先受注展開AIシステムの開発

ProsConsは、朝日電装の「自社DXを推進したい」という課題を解決するために、AI活用したシステムを提案しました。朝日電装においてはDX化による工数削減が見込まれ、ProsConsにとっては、実証によるデータ蓄積といったメリットがあり、互いのビジョンが重なったことから実証実験を行う運びとなりました。
人的工数多大で、見直しが必要とされる受発注業務の課題において、生産計画展開の自動振り分けを対象とし、汎用性のある受注展開AIシステムの実証実験を行います。現在、仕様設計に時間を要しているものの、7月中の完成をめどに協業を推進しています。
ものづくり企業2▶株式会社アスキー

株式会社アスキー 代表取締役 齋藤 孝司 氏
会社概要:株式会社アスキーは、繊維機械部品・プラスチックマグネットの開発・設計・製造・販売を行う会社です。繊維機械部品事業は、テンプルという製品を取り扱っています。テンプルには、横糸を左右に織り込むことで縮む力が働く布に対して、縮まないように保持する働きがあります。
また、プラスチックマグネットには、複雑な形状も実現可能であること、用途に適した材料を選択できること、優れた耐久性があるという特徴があります。エンジン・ミッション・船外機・フィルター・センサー等に組み込まれて使用されるものです。
プログラム参加の背景:既存領域以外にてビジネスを展開し、プラスチックマグネット事業を核とする第一歩を踏み出すため参加しました。
<株式会社アスキー×株式会社OKYA>
協業案:新しい風力発電設備で社会課題解決に貢献

株式会社OKYAは、風力を利用した機器設備を開発する会社です。OKYAの交差軸風車とは、風車の回転軸と風向が交差する新しい形のものです。農業従事者の高齢化や、後継者不足という社会課題にアプローチするため両社の協業に至りました。
風車を利用した独立電源に監視装置を設置することで、現地に行かずともリアルタイムに農地の状況を把握し、作業の効率化・生産性の向上を実現するものです。
2021年 12月から実証実験を行っており、今後の事業化に向け、2023年1月まで検証を重ねる予定です。
ものづくり企業3▶株式会社アツミテック

新規事業企画室 BRBL ブロックリーダー 三輪 竜実 氏
会社概要:株式会社アツミテックは、主に自動車関連部品の開発から製造までを行っており、日本を含め8か国 10拠点で事業を展開しています。
プログラム参加の背景:自動車産業はいま大きな変革期を迎えており新たな分野への事業拡大を模索しています。アツミテックでは2030年企業ビジョンとして「ひらめきとチャレンジでときめく会社になろう」というビジョンを掲げており、今回のプログラムでは”新しい価値の創造”と”地球環境への貢献”という2つのテーマを設定しました。
<株式会社アツミテック×EWP株式会社>
協業案:装着するだけで健康になる新しいフィットネスギアの開発

EWPは、自社のヘルスケア分野への知見を活かし、生活習慣病予防に向けて運動効果が得られるアイテムを作れないかと提案。一方、アツミテックには、70年の歴史の中で培ってきた開発提案型メーカーとしての技術があり、その開発から完成までの一貫した技術で、新しい価値を創造したいとEWPへ声をかけ今回の協業に至っています。
目的は従業員の健康維持や生活習慣病の予防をすることで、健康被害による個人や企業への損失を減らすことです。日常生活の中であえて適度な負荷を与え、生活習慣病予防に効果のある運動効果を狙う今までにない新しい価値を持ったフィットネスギアの提供を目指しています。
実際の実証実験では、アツミテックの既存事業で培った自動車シフトレバーの操作荷重制御技術を使い、サポ―ターなどの装身具に適度な負荷を与え、健康効果を得ようと検証を進めています。
<株式会社アツミテック×スパイスキューブ株式会社>
協業案:植物工場でSDGsに貢献

スパイスキューブは、植物工場の事業化支援や農業装置の設計開発などを行う会社です。植物工場では、植物の成長を促進するためにCO2を利用しています。そこで、アツミテックの工場で排出されるCO2を植物工場で有効活用することができれば、2050年のカーボンニュートラル実現に貢献できるのではないかと両社の協業に至っています。
実証実験では、CO2の回収・分離・貯蔵の技術検証を重ねています。水素貯蔵の技術研究を行っている基礎研究部門からもアドバイスをもらいながら、最適な方法と組み合わせを模索しています。
また、植物栽培の検証では植物育成装置1ユニットを本社工場事務所内に設置し、実際に植物の栽培をスタートしました。
植物工場による”水使用の削減”や”食品の安定供給”などのメリットも踏まえながら、今後は海外展開も視野に、SDGsと地球環境に貢献していきたいと思います。
※後編に続く
