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木曜日, 3月 23, 2023

サーキットを舞台に、社会課題や地域活性化、交通安全につながるアイデアを募集

一般社団法人トヨタ・モビリティ基金は「もっといいモビリティ社会」の実現に向けたアイデアコンテスト「Make a More PROJECT」をスタートした。本コンテストの特徴は、多様な分野で活動する個人や団体がアイデアやソリューションで競い合い、取り組み次第では活動支援金を増加させられる仕組みがあること。さらに、参加者同士がつながって持続的にイノベーションが生まれるコミュニティも醸成している。今回の募集テーマは「Fun & Safety 〜安全かつ最高に楽しい体験を〜」だ。サーキットを舞台にさまざまなアイデアやソリューションを求めるにあたり、トヨタ・モビリティ基金の福田氏と福島県のエビスサーキット代表の熊久保氏に話を伺った。

Fun & Safety 〜安全かつ最高に楽しい体験を

トヨタ・モビリティ基金とは

福田 トヨタ・モビリティ基金(以下、TMF)は、2014年にトヨタ自動車が設立した基金です。モビリティを通じてより豊かな社会を実現するため、幅広いプロジェクトで世界中の移動課題の解決に取り組んでいます。

具体的には、事故や渋滞、環境汚染など「クルマの負の要素の解消」と、就業・職業選択機会の拡大、学校に行ける・緊急医療を受けられるといった「機会の実現」、公共交通の不足など「不便の解消」、初めて見る景色や多くの人と出会う「夢、驚き、喜びの実現」に向けた活動をしています。

なかでも今回のアイデアコンテストで求めるのは、「夢や驚き喜びの実現」に向けた取り組みによって、社会課題や地域活性化、交通安全につなげるアイデアやソリューションです。

バスや電車がなくなり、さらに人も少なくなって経済性が担保されない地域では、いくら先端技術を導入してもサステナブルな取り組みにはなりません。 サーキットは人口の少ない地域にあるので、サーキットを舞台に「移動の喜び」を前面に出した取り組みで、訪れてくれる人を増やしたいと考えています。

アイデアコンテストの概要について

「もっといいモビリティ社会を作る」をコンセプトに、多くの人と一緒に社会課題を解決し、笑顔で暮らせる未来を作りたいと考えています。

コンテストの第一弾は「Mobility for ALL 〜移動の可能性をすべての人に」をテーマに、誰もが自由に移動でき、自分らしくいられる世界を目指したアイデアを募集しました。一次選考を通過した、障がいのある方がレースを楽しむためのアイデアは、岡山国際サーキットで開かれるレースでの実証実験を実施します。

そして第二弾である今回のテーマは「Fun & Safety 〜安全かつ最高に楽しい体験を」です。モータースポーツを楽しみながら、モータースポーツの技術やノウハウを交通安全に生かす提案、今回の舞台となるエビスサーキットがある福島県の地域の魅力を高める提案を募集します。

8月上旬にかけて一般公募して社会課題に取り組むチームを醸成し、最終的には最大4チームに対して事業実行資金を提供します。これぞ、というアイデアやソリューションに対して我々も一生懸命に取り組みたいと考えています。

応募者同士がコラボレーションしたチーム形成もあり!

福田 応募者がミックスされたチーム形成もあると思います。たとえば、先端技術を持つ方と市場調査ができる方、発信力のある方などがチームになれば、より社会実装に近づきます。臨機応変なチーム編成によって、社会課題に取り組むコミュニティづくりにも寄与したいですね。

イノベーションの舞台は、福島県の「エビスサーキット」

エビスサーキットの特徴

熊久保 エビスサーキットは福島県の田舎にある小さなサーキットで、1988年にアスファルトのサーキット場としてオープンしました。特徴は、「くるまの遊園地」をサブタイトルに、海外のモータースポーツを日本に持ち込んだり、畑違いのモータースポーツ同士を組み合わせたりしていること。

長年、モータースポーツの研究を重ねたことで、国内外のさまざまなサーキット関係者が訪れています。また、大きなレースを開催するのは物理的に難しいため、10のコースを生かしてドライバーを育成するような、“くるま遊び” をする方のトレーニングジムへと変化させている最中です。

コンセプトは、くるま遊びをする方のトレーニングジム

熊久保 もともとエビスサーキットは、外国の方で毎日あふれかえる珍しいサーキットとしてメディアに取り上げられていましたが、2011年3月の東日本大震災によって売上は8割減まで下がり、継続が難しい状況まで陥ったんです。

その後の地震による土砂崩れでコースの一つが使えなくなったり、コロナ禍で影響を受けたりして、資金的にもやりたいことができない状況になりました。だから柔軟に方向転換しながら、現在はくるま遊びをする方のトレーニングジムとしてさまざまな取り組みを実施しています。

今回のアイデアコンテストでは、我々だけでは実現できないことを含めて、サーキットとしてできることを模索し、また福島県のモータースポーツ・ツーリズムにつなげられたら嬉しいなと思っています。

TMFがエビスサーキットと組んだ理由とは?

福田 震災で大きな被害を受けても、コースを大胆に改造したり、モータースポーツを通じてさまざまな人の育成をしたりなど、幅広い取り組みや改革をされている最先端のサーキットだからです。ぜひ我々も一緒に取り組みをしたいと思いました。

事故原因、追求し続けたプロの知見を一般の運転技術向上に活かす

どんな個人やスタートアップと協業したい?

福田 たとえば、「上手な運転」を評価できるような技術を持つ個人やスタートアップが考えられます。プロドライバーは「車の楽しさを知ることが交通安全につながる」ことを理解していますが、そのノウハウを一般道に反映する技術がありません。だからそれを社会実装できるような技術やソリューション、アイデアがあるといいなと思います。

熊久保 サーキットでは事故が起きるとその原因を追求して解決するので、サーキット経験者は一般道を走っていると「交通事故予備軍」が見えるんですね。そういったモータースポーツのノウハウをデータ化して「交通事故予備軍を探し出せるアプリ」などが開発できたら、広く運転技術の向上につながるのではないかと思います。

運転技術向上の側面で言うと、「北海道の人は雪道運転が上手」「ヨーロッパの人はハイスピードの運転が上手」といった具合に、地域で受け継がれている車の走らせ方もあります。それらをデータ化することで、事故を起こさない上手な運転につなげられたらいいですね。

また、事故を起こさない車や車酔いをしない車はまだ開発されていませんが、事故のメカニズムと車酔いのメカニズムは似ていることがわかっています。そういった我々モータースポーツが持つノウハウや知識を生かして、「同乗者を酔わせないクールドライビング」を広められるような技術やアイデアがあると嬉しいです。

いずれにしても、サーキットに足を運んだことのない人からのアイデアや、我々とは全く違う視点からの意見、自分たちには想像もつかないようなサーキットの使い方などを提示してもらえることに期待しています。

福田 エビスサーキットはエクストリームスポーツとも連携して地域活性化に取り組んでいらっしゃるので、エクストリームスポーツ×地域活性化の領域でもアイデアをいただきたいですね。

熊久保 そうですね。エビスサーキットのある福島県はエクストリームスポーツの集積地でもあり、エアレースやジェットスキー、スケボー、モータースポーツ、スノーボードなどができる環境が整っています。

実際、エクストリームスポーツの世界トッププレイヤーたちが福島県に本拠地を構えてトレーニングをしているので、福島県は1時間圏内でエクストリームスポーツの世界トップを体験できる稀有な場所でもあるんです。

この強みを生かして福島県の観光につなげるアイデアや、それらと交通安全をつなげるアイデアをお待ちしています。

社名株式会社エビスサーキット
設立1986年
所在地福島県二本松市沢松倉1番地
代表者代表取締役社長 熊久保信重
事業概要安達太良山の麓に広がる高原地帯に10のコースを所有。さまざまなイベントを開催
URLhttps://www.ebisu-circuit.com
社名一般財団法人 トヨタ・モビリティ基金
設立2014年8月
所在地東京都文京区後楽1丁目4番18号(トヨタ東京本社内)
代表者理事長 トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 豊田 章男
事業概要人や物の移動に係る領域において、豊かなモビリティ社会の実現とモビリティ格差の解消に貢献することを目的に、国内外において各種活動を実施
URLhttps://toyotamobilityfoundation.jp
インタビュイー
熊久保 信重 氏 株式会社エビスサーキット 代表取締役社長
1970年生まれ、52歳。小学生からモトクロスレースを始め、1992年エビスサーキット入社。入社と同時にドリフトに目覚め、2006年&2012年にはチャンピオンを獲得。2000年からは日本発祥のドリフトを世界に発信するため、世界中でドリフトのショーをして周知に努めている。現在はドリフト運転技術を活用した多カテゴリドライバーのトレーニングに注目し、エビスサーキットをモータースポーツ総合トレーニングジムにすることが目標。
インタビュイー
福田 勝 氏 一般財団法人トヨタ・モビリティ基金 プログラム・ゼネラル・マネージャー

54歳。1990年トヨタ自動車株式会社入社。2017年より現職。モータースポーツが趣味で、長年サーキットのドライビングスクールに通い、入門レース出場も経験。

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田村 朋美
2000年雪印乳業に入社。その後、広告代理店、個人事業主を経て、2012年ビズリーチに入社。コンテンツ制作に従事。2016年にNewsPicksに入社し、BrandDesignチームの編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集として活動中。
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