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水曜日, 9月 28, 2022

収穫後に食品に薬剤は使わない! 世界のフードロス問題と、途上国の環境問題を解決したい

2020年に佐賀県が実施した「SAGAN BEAUTY & HEALTHCARE OPEN ACCELERATOR 2020」。その参加企業の1社であるサガテレビにエントリーしたスタートアップが躍進を続けている。プラズマ殺菌装置で世界のフードロス問題の解決に取り組む、九州大学発ベンチャーの株式会社タベテクだ。同社の技術は、薬剤を一切使わず、農作物の常温での長期保存が可能になるというもの。冬場は不可能だったみかんの海外輸出に成功するなど、さまざまな実績を出しているという。具体的にタベテクはどのようなスタートアップで、どんな未来を描いているのか。代表取締役の田苗眞代氏に話を伺った。

薬剤を使わず、器具を殺菌する技術

「タベテク」を創業のきっかけとは?

―フードロス問題に取り組む「タベテク」を創業されたきっかけを教えてください。

タベテクは、2018年に設立した九州大学発のベンチャー企業です。もともと私は歯科医院を運営しており、2016年に九州大学から「薬剤を使わずに器具を殺菌できる技術がある。これを歯科で応用できないか」とお声がけいただいたのがきっかけになりました。この技術を使って起業しないか、と。

ただ当時は、技術的な知識を全く持っていないから、起業はとても迷いました。そんなとき、歯科医院のバックヤードで器具を殺菌するための薬品をこぼしてしまったんですね。薬品は、鼻や目を刺激する劇薬です。案の定、こぼした薬品を拭いていたら気分が悪くなってしまって。

そのとき、「そうか、薬剤を使わずに器具を殺菌できる技術なら、私のような医療従事者の役にも立つのかもしれない」と思い、起業を決めました。

―技術とは縁がなかったけれど、実体験で腹落ちした。

そうです。だから最初は医療器具を殺菌する装置の開発からスタートしました。でも、医療の分野は規制が多く、開発に膨大なコストが必要だったんです。そこで大学の先生から「農作物の殺菌技術なら実用段階に来ている。先にそちらを社会実装しないか」とお話をいただき、社名をタベテクに変えて現在に至ります。

プラズマ殺菌装置で、長期保存したみかんのロス率が大幅減少

実証実験を重ね、社会実装を目指す

―農作物の殺菌技術に舵を切ってからは、実証実験を重ねて社会実装を目指したのでしょうか。

そうです。大学で開発されたのは、空間でプラズマを発生させて果物の表面を殺菌する装置なのですが、初期のものはとても複雑で、農家さんが導入できる金額ではなかったんですね。そこで1年近くかけて改良し、佐賀県公設の柑橘研究機関に持ち込んで実証実験を始めました。

佐賀県はハウスみかんの生産量が日本一で、みかんが通年で生産されている唯一の地域です。だから1年を通して何度も実証実験を重ねた結果、常温倉庫で長期貯蔵されているみかんは、プラズマ殺菌装置によって鮮度が保持されることを証明できました。

―具体的に、プラズマ装置で殺菌することで、どのような効果があるのでしょうか。

2020年の実証実験では、貯蔵して3ヶ月後のみかんのロス率を複数回調べました。すると、装置を置かなかった場所のロス率は25%でしたが、設置した場所のロス率は7%という結果を得られたんですね。

つまり、プラズマ殺菌装置を活用すれば、これまで長期保存でカビが生え、やむなく廃棄していたみかんが3分の1以下に減るということ。大規模に農作物を生産している地域や農家さんと一緒に、事業を成長させられると実感しました。

サガテレビの子会社の大規模農園で、実証実験を開始

地域アクセラレータープログラムへの参加がきっかけ

―2020年から2021年にかけて実証実験を繰り返していたタイミングで、佐賀県のアクセラレータープログラムをみつけたのでしょうか。

研究開発の最大の課題は、開発資金をいかにして獲得するか、です。2020年に東京都女性ベンチャー成長促進事業に選ばれて、その助けを借りながら事業の連携先を探していたときに、佐賀県のアクセラレータープログラムを見つけました。

しかも、参加企業のサガテレビさんが、スタートアップと狙いたい領域に「地元果樹園(ミカン等)の6次産業化により、佐賀の良質な農産物から美と健康に貢献できる商品を開発、販売促進を実現したいと考えています」と掲げていたので、すぐに応募しました。

―サガテレビとはどんな協業をされたのでしょうか?

実は、サガテレビさんからの出資は叶わなかったのですが、子会社の大規模果樹園での実証実験を進めることができました。現在も取り組みは続いており、今年は装置を4台置かせてもらって、大手旅行会社のシンガポール拠点へのみかんの輸出が実現。ようやく事業が走り始めました。

今後は、地域の電力会社と連携することで、農家さんに初期費用で負担をかけず、儲かる農業を実現できるよう、ビジネスを構築していきたいと考えています。

食品の長期輸送でロスをなくし、環境問題にも貢献する

国内流通に閉じられていたハウスみかんの海外展開の可能性

―なぜシンガポールに輸出したのでしょうか?

夏場に生産されているハウスみかんは、海外に輸出中に傷んでしまうため、国内でしか流通していませんでした。でも通年で輸出できるようになれば、農家さんも儲かるようになりますよね。

プラズマ殺菌装置の強みは、柑橘を長期で常温保存できること。だから、長期の輸送領域で、事業開発を進め、プラズマ殺菌装置を設置した農家さんと旅行会社が契約する形でみかんをシンガポールに輸出したんです。2022年2月からの実績を踏まえ、夏場でもロス率を圧倒的に下げることができることが見えてきました。

ただ、これだけでは事業がスケールしないので、JICAと一緒に、途上国で大規模に柑橘系を生産している地域の調査を進めました。すると、やはり長距離輸送時の柑橘のロス量が課題であることがわかったんです。

しかも、途上国の皆さんも長期輸送によるフードロスをなくしたいと思っているけれど、そのための方法が殺菌剤や防腐剤に頼る以外に無い。やむなく薬剤を使うものの、それでもロスは出てしまいます。だから、今後は柑橘系の生産量が多く、かつ生産人口が増加している途上国にも、タベテクの技術を広めたいと考えています。

―薬品を使えばいいわけではない。

その通りで、途上国で話を聞いて驚愕したのですが、食品に使われている薬剤の中に、私が歯科医院で器具の殺菌用に使っていた薬剤と同じものがあったんです。つまり、多くの食材を輸入に頼っている日本人の生活は、途上国の人たちの健康と環境を壊した上で成り立っているということ。

もともとは、冷蔵庫がない地域でも常温で鮮度保持ができる装置の開発を目指していましたが、途上国の実態を知って、途上国の人たちの健康と環境を守ることにも貢献したいと思っています。

国内外の企業と提携し、グローバルで事業を成長させる

歯科医院からスタートアップへキャリアチェンジ

―歯科医院とは全く違う領域での起業で、大変だったことは何でしょうか?

基礎的な知識から技術的な知識まで、大学の先生に指導を受けるところからのスタートだったので、最初は本当に大変でした。先生と真正面から向き合うので、意見がすれ違ったり大げんかになったり(笑)。

それでも、先生が見ている世界と私が見ている世界は同じだとわかってもらえて、徐々に仲間が増え、JICAや弁護士さんを含めて支援の輪が広がりました。

新領域での事業化を動かした原動力とは

―知識のない領域でも諦めずに事業化された、その原動力は何だったのですか?

それは、私が歯科医院で使っていた薬品を農家さんも使っていると知ったからです。私がプラズマ殺菌装置を社会実装すれば、環境問題や人の健康に貢献できると信じていたので、続けられたのだと思っています。

今は、途上国の人の健康や環境を犠牲にして私たちの生活が成り立っていることを、この事業を通じて多くの人に知ってほしい、いち早くこの課題を解決したいという思いで取り組んでいます。

―今後は、対象を柑橘以外にも広げる予定はありますか?

現在、柑橘よりも皮の薄い果物にも横展開できるよう、開発を始めたところです。3年以内に技術を確立させて、ゆくゆくは食糧全般の長距離輸送や長期保存に貢献したいと考えています。

特に途上国では、生産者が大型の冷蔵庫を購入するのが難しいので、蔵などの冷暗所にプラズマ殺菌装置を設置して、食料の鮮度を保ったまま長期保存できる状態を作りたいと思っています。

オープンイノベーションによる事業加速についてどう考えていますか?

今はアクセラレータープログラムによる実証実験フェーズではなく、タベテクの想いに共感してくださる企業との協業フェーズに入ったと考えています。国内外の企業との事業提携の話が出ており、資金調達の準備も進めているので、このまま事業を成長させていきたいです。

インタビュイー
田苗 眞代 氏 株式会社タベテク 代表取締役

1971年生まれ九州大学経済学府産業マネジメント専攻(MBA)事業再生やM&Aの実務経験有。宅地建物取引士・歯科衛生士。夫(歯科医師)息子(高校生)3人家族。趣味は読書

社名株式会社タベテク
設立2018年2月
所在地東京都千代田区富士見1-3-11
代表者田苗 眞代
事業概要常温で農作物の鮮度保持を行うプラズマ殺菌装置の開発
URLhttps://tabetech.com/index.html
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田村 朋美
2000年雪印乳業に入社。その後、広告代理店、個人事業主を経て、2012年ビズリーチに入社。コンテンツ制作に従事。2016年にNewsPicksに入社し、BrandDesignチームの編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集として活動中。
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