課題は、子育て世代へのアプローチ手段がなかったこと

――南日本新聞社の事業や強みと、アクセラレータープログラムを実施した背景について教えてください。
伊藤 南日本新聞社は、昨年創立140年を迎えた鹿児島県に根付く新聞社です。県内南北600キロに156の販売店があり、毎日約24万6000部の新聞を発行・お届けしています。
当社の強みは、鹿児島県内での圧倒的なシェアと、140年間記録し続けてきた記事や写真などの膨大なデータ、県内19カ所の取材拠点と156の販売店による戸別配達網、外部ネットワーク、そして時代を超えて愛され続けてきた企業としての信頼だと自負しています。
一方で課題だったのは、新聞の購読者層は比較的年齢が高く、若い層や子育て世代に対してアプローチできる手段がなかったこと。変化が激しく先が見通せない時代に、地域メディアとして培った情報力を次の世代にどう生かし、還元していくのか、スタートアップと共に考え進みたいと思い、アクセラを実施しました。
――今回、HONEYTHING(以下、ハニシング)を採択した決め手は何だったのでしょうか?
山下 子育て世代のアプローチ方法を開拓すべく、“子ども”を切り口に数千社の会社を見ていたのですが、そのなかでハニシングさんが開催している「キッズフリマ」が素晴らしいと思ったんです。キッズフリマは小学生の金融リテラシーの向上やSDGsに寄与するコンテンツで、私からハニシングさんにお声がけさせてもらいました。
――山下さんからお声がけしたのですね。
山下 そうです。「売るのも買うのも子どもだけのフリーマーケット」というコンセプトに純粋にワクワクし、自分の子どもにも体験させたいと思いました。ただ、キッズフリマは主に大型商業施設の販促イベントとして開催されており、そもそも大型施設がない地域では開催が難しいという課題があるのではないかと思ったんですね。
そこで我々のネットワーク等を駆使すれば、企業の協賛を募ったり、自治体の協力を得たりして、商業施設がなくても鹿児島県内全域でのイベント開催が可能になるのではないかと考え、積極的に話を進めました。
お金のリテラシーを向上させる「キッズフリマ」

――あらためて、キッズフリマについて教えてください。
赤池 キッズフリマは、売るのも買うのも子どもだけのフリーマーケットです。出店できるのは小学3年生から6年生で、未就学児から小学6年生までがお買い物に参加できます。
特徴は、大人が立ち入り禁止のエリアで、実際のお金を使って物の売り買いができること。スタッフからの収支計算のレクチャーを受けた後、自分たちで物の売り買いをすることで、物やお金の価値、接客や交渉によるコミュニケーション、売り買いの意思決定が学べます。
清野 キッズフリマは主に商業施設の販促イベントとして展開しており、コロナ禍でイベント制限はあったものの、年間約100回を開催。現在の累計参加者は約18万人、開催数は750回の実績があります。
――実際、イベントに参加した子どもたちや親御さんからは、どのような反響を得られているのでしょうか?
赤池 最初は親御さんを含めて「自分にお店ができるのかな」と不安を持ちながら参加する子どもが多いのですが、開始から20分も経てば自分たちで売り方を工夫したり、ディスカッションしたり、コミュニケーションを取ったりするようになるんです。
親御さんからは、自分の子どもの意外な一面を見られたという反応が多く、子どもたちからは「また出店したい」といった声が多数挙がるなど、総じて良い反響を得られています。
――今回、南日本新聞社の山下さんからお声がけされて、どんな印象を受けましたか?
赤池 先ほど山下さんがおっしゃっていた通り、今まではどうしても商業施設でしかイベントを開催できなかったので、今回の話は絶好のチャンスだと思いました。
我々が目指しているのは、金融教育を通して地域格差や家庭の経済格差をなくすこと。都心でも地域でも関係なくお金を学ぶ機会を提供したいと考えていたので、南日本新聞社さんからのお声がけを受けて、二つ返事でパートナーシップを提携しました。
地元メディアが取り上げ、キッズフリマは大盛況
――具体的な協業の取り組みについて教えてください。
清野 南日本新聞社さんと目指しているのは、鹿児島県内で多数のキッズフリマを開催することです。キッズフリマは小学生向けコンテンツですが、将来的には中学生向け、高校生向けのコンテンツも一緒に開発することで、鹿児島県民のお金のリテラシーの底上げを図りたいと考えています。
今回の具体的な取り組みとしては、2022年3月にパートナーシップを提携し、4月にオープンしたばかりのセンテラス天文館という施設をお借りして、こどもの日である5月5日に1回目のキッズフリマを開催しました。
会場の一部のスペースに南日本新聞社の協賛企業にも入ってもらって、キッズフリマだけでなく、協賛企業のアクティビティも体験できるコンテンツにしました。
――反響はいかがでしたか?
山下 総参加者は805名と大盛況で、参加者はもちろん会場側にも喜んでいただけました。年に1回と言わず定期的に開催してほしいとも言われており、我々としても大満足です。また、イベントには弊紙以外にも地元TV局の取材が多数入り、その日の夕方のニュースでキッズフリマが放送されました。
それだけでなく、一部のテレビ局では別日でも、金融に関する特集を組んでキッズフリマを取り上げてくれるなど、かなり反響は大きかったですね。
当社としても、お得な情報などをお届けしている「みなみパス」という会員サービスを、出店した方々に登録してもらえたことで、これまで接点が少なかった貴重な子育て世代の会員を得られました。
――大盛況ですね。イベント告知は新聞広告やメディアを利用したのでしょうか?
山下 キッズフリマの魅力は、教育委員会を通じて近隣の学校にチラシを1万部配布するスキームがあること。弊社も新聞広告での告知をしましたが、それだけでは子育て世代には届かないので、学校にチラシを配布するスキームはとても貴重でした。
――ちなみに、今回は山下さんのお子さんも参加したのでしょうか?
山下 小学1年と3年の子どもが参加しました。印象的だったのが、家にある人形と同じ人形を買ってきたこと。大人と一緒なら「家に同じのがあるでしょ!」と大人が買わない選択をしたと思いますが、子どもは”同じ人形同士で遊ばせたい”と思っていたんです。
ほかにも、2人が買ってきたものにはそれぞれの個性が出ていて、子どもの感性や好きなものに気づく、とても良い機会になりました。何より子どもたちが楽しんでいたので、参加させて本当に良かったと思っています。
また、出店していた知り合いのお子さんは、物がたくさん売れたのは良かったけれど、自分も買い物を楽しんだ結果、お金が残らなかったそうなんです。出店料として300円を支払っているから、結局赤字なんだよという親子の会話も生まれ、子どもたちがお金の価値を学ぶ機会になってすごく面白かったと言われました。
定期的なイベント開催を目指す
――今後、検討している取り組みについて教えてください。
赤池 南日本新聞社さんとは、小学生だけでなく中学生、高校生、社会人に至るまで、お金の教育を継続できるようなプランを一緒に考えて、定期的なイベント開催を目指します。
弊社としては、現在自治体との提携を進めており、自治体と提携することでキッズフリマを1回のイベントで終わらせるのではなく、定期的に子供たちが学び合う環境を提供していきたいと考えています。
――南日本新聞社は今後もスタートアップとの協業を考えていますか?
山下 もちろんです。今後もハニシングさんとはキッズフリマを定期的に開催していきますし、多様なプラン、土地に合ったプランを一緒に作っていきたいと考えています。それ以外でも、さまざまな企業から直接ご連絡をいただくケースはよくあるので、間口を広げて協業の可能性を探っていきたいです。
それから、嬉しいことにイベントの開催直後、ある自治体から早速声がかかり、イベント開催に向けての調整が始まりました。これこそ我々の介在価値で、県内全域で子どもたちが楽しくお金を学ぶ機会を提供することで、経済格差をなくし、鹿児島県のより良い未来を作れたら嬉しいです。

社名 | 南日本新聞社 |
設立 | 1881(明治14)年「鹿児島新聞」が前身 |
所在地 | 〒890-8603 鹿児島県鹿児島市与次郎1-9-33 |
代表者 | 代表取締役社長 佐潟 隆一 |
事業概要 | 新聞発行業 |
URL | https://373news.com |

社名 | 株式会社HONEYTHING(日本語表記:ハニシング) |
設立 | 2020年1月6日 |
所在地 | 〒151-0053 東京都渋谷区代々木3-1-11 パシフィックスクエア代々木3F |
代表者 | 赤池 慶彦 |
事業概要 | イベントの企画、立案、設営、運営業務、及び、教育事業に関する企画、調査、運営、受託、コンサルティング業務 |
URL | https://honeything.jp |
