同プログラムを主催する広島銀行の法人営業部 金融サービス室の栗栖 徹氏と野村 武司氏に、これまでの経緯や課題、銀行がオープンイノベーションに取り組む意義、そして今後の展望について伺いました。
目次
新規事業立ち上げへのニーズが顕在化
ーーまず最初に広島銀行のご紹介をお願いします。
栗栖:広島銀行の前身は、1878年尾道で創業した第六十六国立銀行です。広島を中心に、岡山、山口、愛媛の4県を地元と定義づけて活動しています。広島県の主要な産業は自動車や造船、鉄鋼であり、名目県内総生産は、約2.1%のシェア。全国で12位前後を推移しています。
2020年10月に株式会社ひろぎんホールディングスを設立し、持株会社体制に移行しました。傘下に広島銀行など金融系の会社を5社、非金融系の会社を3社置き、活動しております。
ひろぎんホールディングスは「未来を、ひろげる。」というブランドスローガンのもと、直近の中期計画においては、産業育成を重要な戦略として掲げていますので、本日ご紹介させていただくCrewwとの取り組みに関しても、重要な施策として力を入れていきたいと思っています。
ーー広島銀行のオープンイノベーションに関わる取り組みについて教えてください。
野村:私どもは「広島オープンアクセラレーター」を開催しておりますが、まずはこのアクセラレータープログラムに取り組むことになった背景についてお話しします。
基本的な銀行の業務は、「お客様から預金をお預かりして、融資を行う」というものですが、近年お取引先のニーズは多様化しています。
例えば、事業承継の問題や、DX化、人材不足などがありますが、そういった中で「新規事業を立ち上げたい」というニーズも顕在化しています。
事業承継という課題であれば、法人営業部の専門チームがソリューションを提供します。DX化についてはHD子会社の一つである「ひろぎんITソリューションズ」が、また人材に関しては、人材紹介やコンサルティング、研修支援を主業とする「ひろぎんヒューマンリソース」が、ソリューションを提供しています。
このように、ソリューションを提供する部署や会社がある程度明確化されてるニーズが殆どですが、新規事業創出というニーズについては、どの部署が担当し、そしてどのようなソリューションを提供すれば良いのか定まっていませんでした。
ただ、日々お取引先とコミュニケーションをとる中で、新規事業創出に関するニーズはかなり高いと感じており、そこに対する打ち手としては、スタートアップとの連携によるオープンイノベーションこそが一番の近道ではないか、と考えるに至りました。
そのタイミングでCrewwと出会うきっかけがあり、「一緒に広島でアクセラレーターを開催してみようか」という話になったわけです。
「広島オープンアクセラレーター」の初回は2019年度で、昨年度が二回目、そして引き続き今年度も「広島オープンアクセラレーター2021」として三度目の開催を行っており、広島の企業6社様にご参加いただいております。

広島オープンアクセラレーターから事業化へ
野村:それでは、2019年度、2020年度の実績をご紹介します。

野村:2019年度は広島の企業5社、青山商事様・エネルギア・コミュニケーションズ様・ダイクレ様・広島ガス様・マツダ様にご参加いただきました。ありがたいことに、スタートアップの皆様から160件を超えるエントリーをいただいて、事業案のブラッシュアップを重ね、最終的には8件の協業案が採択となりました。
実例としては、ダイクレ様とスタートアップのカンバイ様の連携による、「広告型止水プランターの開発」は、その後実証実験を経て、昨年の7月に事業化に至っております。
2020年度は、中国新聞社様、中国電力ネットワーク様、広島ホームテレビ様、ヤマネホールディングス様の4社にご参加いただきました。2019年度同様に160件を超えるスタートアップの皆様からエントリーいただき、最終的には12件の協業案が採択となりました。
2020年度のプログラムにおける協業案12件のうち半数程度は、現在、事業化検討のための実証実験が行われている状況です。私共としても状況をフォローしながら、ダイクレ様の例のように、各協業案が事業化につながるよう支援したいと思っています。

参加企業及び銀行にとってのメリットとは
野村:2年間アクセラレータープログラムを開催した経験に基づき、参加企業様にとってどんな効果があるのか、あるいは銀行にとってどんなメリットがあるのか、ということをまとめました。
まず参加企業にとっては、スタートアップと連携することで、当然ながら新規事業創出、DX化につながる可能性があることが挙げられます。また、副次的な効果として、オープンイノベーションの進め方、手法、新規事業の立ち上げ方などを体系的に学べるため、そのプログラムに関わる人材の育成にもつながる、ということが非常に大きなポイントだと感じております。本プログラムにご参加いただくことで、「新たな取り組みにチャレンジする企業」というイメージの発信にもつながります。

野村:ただ一方で、相応のコストやマンパワーはかかりますので、熱い思いを持って取り組んでいただくことが非常に重要です。
銀行にとっても、「新規事業を創出したい」という取引先のニーズに対応したソリューションとして、このようなプログラムをご案内できることは、一つの強みになると思っています。

野村:また、広島銀行は、事業性評価に重点を置いて日々活動しているのですが、お取引先の経営方針や将来のビジョンを聞く機会はそれ程多くはありません。このようなプログラムに関わることで、お取引先がどういったことを考えて、今後どういう方向性に進もうとしているのかを知ることができ、よりお取引先のことを理解できるということも、銀行にとっての副次的な効果だと感じています。
広島県との連携がキーポイントに
ーーアクセラレータープログラムに取り組む際の銀行内の反応は?また実施する上での推進方法について押さえるべきポイントなど教えてください。
野村:初年度に広島オープンアクセラレーターに取り組んだ際は、私どもとCrewwに加え、広島県が力を入れているSANDBOXの予算からもご支援をいただき、開催しました。2020年度に関しても、同じ座組で実施しております。
当初銀行内での反応は、「お取引先のニーズに基づいた取り組みなので、考えていること自体は悪いものではないよね」という感じでした。一方で、相応の予算も必要になるので、どのように工面するのかという課題がありました。そういう中で、広島県からご支援いただけたことは、プログラムの開催実現に近づく大きな一歩となりました。

野村:また、銀行内では以前から「広島県との連携をより強化したい」という考えがありましたので、「SANDBOXから予算をいただき、かつ広島県と連携して取り組むことができるプログラムです」ということをアピールできたことが、銀行内部の良い反応につながったのだと思います。
銀行に限らず、新たなことをやろうと思うと、部署間の横串を通すことの難しさが障壁になるケースがあります。今回の取り組みでは、お取引先のニーズを聞いてソリューションを提供する法人営業部、自治体との連携を推進する公務営業部、法人向けの施策や企画の立案を担当している法人企画部の3部が、企画の段階から連携していたことが非常に良かったと思います。
当初は、毎週1回のペースで3部合同にて打ち合わせを行い、方向性などを定めていきました。
ーー県との連携強化というのがポイントのひとつだったと思うのですが、その辺りをもう少し詳しく教えていただけますか?
野村:広島県は湯﨑知事のリーダーシップのもとで、イノベーションの実現に非常に注力されています。実際、「イノベーション立県」を掲げてさまざまな施策を行っており、「もっと連携すれば、より地域のためになる取り組みが実現できるのではないか」という想いを持っていました。

野村:そんな中で、本プログラム開催前の2019年4月、広島県・広島銀行・広島大学を中心として、「各機関で横串を通してイノベーションの実現を目指す」という5団体連携協定を締結しました。本連携協定が締結されたことで、「連携協定の施策の一つとしての広島オープンアクセラレーター」という形で、本プログラムの位置づけがより明確になりました。
お取引先のニーズに応えたい
ーー3年目となる今回は県の事業から外れ、広島銀行さんのプログラムとして実施するに至った経緯・背景を教えてください。
野村:引き続き広島県には協力という形で参画いただいています。2019年の当初から、「最初は予算面で支援を行うけれど、将来的には自走することを目指して、運営体制とノウハウを蓄積してほしい」ということでした。
過去2年間本プログラムを行う中で、お取引先のニーズにしっかりと応えられるプログラムという実感がありましたので、予算がつかないことを理由に開催を止める必要はないと考え、引き続きCrewwも含めて自分たちで開催していこうという判断に至りました。
ーー今回3回目となるわけですが、過去2回と比べて、事業会社からの印象や参加地域など、何か変化はございますか?
野村:大変ありがたいことに、毎回広島を代表する様々な企業様にご参加いただいています。今回は、より参加企業の裾野を広げたいという強い思いをもって、参加企業様の募集活動を行っておりました。
「うちでは無理だろう」みたいに思われてしまうのが一番もったいないので、オープンイノベーションの取り組みが、県全体に波及していくことを意識しました。その結果、様々な業種・業歴の企業様にご参加をいただくことができ、大変嬉しく思っております。
ーー今までの業務では知ることのできなかった、お取引先企業の深い情報を知ることができたタイミングはどのような場面でしたか?
野村:一番印象的なのは、プレゼンテーションですね。参加企業の担当者の方が、「こんな新事業をやりたいんだ」という想いを自社内の経営層向けにプレゼンし、それに対して経営者の方から様々な質問や意見が出る。このような場に銀行員が同席できる機会は、このプログラムでなければ、まず無いのではないかと思います。
そこで経営層の方の話を聞いていると、お取引先が目指している方向性がダイレクトに分かります。銀行と企業の間柄だと、どうしてもお互い構えてしまう部分があるのですが、その枠を超えてリアルなやりとりを間近で見られるのはすごく新鮮で刺激的であり、本当に貴重な情報を得られる場でした。
後継者不在など地域が抱える課題を解決
ーー銀行がオープンイノベーションに取り組む目的・意義について教えてください。
栗栖:皆さんご承知かと思うのですが、銀行の中でも地域金融機関というのは、非常に厳しい環境にあります。
人口の減少や少子高齢化など、いろいろな問題がありますが、広島県は特に後継者不在率が高いと言われています。その中で新規事業の創出は、課題を解決する有効な手段になると思っています。だからこそ、銀行がこのような取り組みをするべきだと常々考えています。
社内でのリソースが限られていて、かつ「もう一歩先へいこう」と思えるような、背中を押してくれる要因がない状況下の企業様が、いろいろな外部の力を借りてオープンイノベーションに取り組むというのは、今の時代にすごくマッチしていると思いますし、地場の経済の中に、こういった環境を浸透させていことが、銀行の仕事ではないかと感じています。
ーー「事業性評価」の視点からオープンイノベーションの活用方法についてお聞かせいただけますか?
栗栖:事業性評価とは、その企業の財務面だけではなく、強みや弱み、事業構造、商流などの定性面を理解する中で、どういったソリューションを提案することが有効なのか考える取り組みのことですが、その中にイノベーションの要素を取り入れていくべきだと思っています。
それにより、事業性評価の付加価値の部分に幅が出てきますので、企業様への提案の一つとして、こういったオープンイノベーションをお薦めしたいですね。それが企業様にとっては、新しい気付きや展開につながるかもしれません。今は様々な企業様において、オープンイノベーションのエッセンスを取り入れることは、非常に大事だと思います。
オープンイノベーションが浸透するまで続けたい
ーー今回3年目ということで、全国的に見ても、かなり先進的な取り組みだと思うのですが、今後はどのような形でオープンイノベーションをやっていくのか、構想があれば教えてください。
栗栖:この取り組みは続けることに意義があると思っていますので、5年、10年先を目指して今後も継続していきたいです。
オープンイノベーションの取り組みが各企業様に浸透し、自社の中で当たり前のようにできるような環境を整えていければ、その時は銀行の仕事ではなくなるのかもしれないですね。究極をいえば、そこまで続けていきたいと思っています。
アウトプットが事業化されるという成功のサイクルができれば、私どももより取り組みやすくなりますので、引き続きCrewwにサポートしてもらいながら、時に厳しくディスカッションをしつつ、楽しくやっていきたいと思っています。
社名 | 広島銀行 |
設立 | 1945年5月 |
所在地 | 本店:広島市中区紙屋町一丁目3番8号 |
従業員数 | 3,439名 |
店舗数 | 国内本支店 151 (うち振込専用支店 1 インターネット支店 1) 出張所 10 上海駐在員事務所 バンコック駐在員事務所 シンガポール駐在員事務所 ハノイ駐在員事務所 |
URL | https://www.hirogin.co.jp/ |
広島銀行入行後、営業店、ベンチャーキャピタルへの出向を経て、法人営業部に在籍。現在はベンチャー企業支援、産学官連携業務を中心に従事しており、広島オープンアクセラレーターの運営責任者として、立ち上げ当初から本プログラムに関わっている。
野村 武司氏 広島銀行 法人営業部 金融サービス室 マネージャー
広島銀行入行後、支店勤務を経た後、広島大学に出向し産学連携業務に従事。法人営業部帰任後、助成金やファンドを活用したベンチャー企業支援に携わる他、広島オープンアクセラレーター担当として、立ち上げ当初からプログラム運営に関わっている。
