12.8 C
Japan
土曜日, 7月 11, 2020

社長秘書をしながら、3つの新規プロジェクトを牽引。松竹を変える起爆剤へ

演劇や映像をはじめ、総合エンターテインメントを提供する松竹。銀座にある歌舞伎座が象徴的だが、伝統を継承しつつ、実は長年新しいコンテンツや新しい体験を追求してきた、「進化し続ける企業」の一つだ。そんな松竹がグループ各社を巻き込み、2019年に初めてアクセラレータープログラムに挑戦。そのプロジェクトメンバーの公募に自ら手を挙げ、本業がありつつも3つのプロジェクトを推進したのが、秘書室・政策秘書の平岩英佑氏だ。平岩氏はどんなことを考え、どのようにプロジェクトを進めていったのか。話を伺った。

映像現場と社長秘書の経験から見えた課題を解決したい

―平岩さんのこれまでのキャリアを教えてください。

僕は小さい頃から映画を作るのが夢で、8年前に新卒採用で松竹に入社しました。入社後は映像部門に配属されて、最初の1年は旧作映画の二次利用を促進する営業を担当。放送局に販売したり、柴又にある「寅さん記念館」の展示品をリニューアルしたりしていました。

その後、映画宣伝部で新作映画の宣伝を担当し、テレビ局への番組内宣伝の交渉や、完成披露試写会の運営などをしていましたね。それから4年が経ったタイミングで、秘書室に異動することになり、現在は社長担当の政策秘書をしています。 仕事内容がガラッと変わったので、最初は転職したような感覚でしたが、経営に近いポジションで仕事をするうちに、徐々に事業全体をマネジメントすることや仕組みづくりの面白さに目覚めました。映画は担当する作品のことだけを考えますが、もっと広い視点と大きな予算規模で事業全体を見るのは面白いなと。

―それがアクセラレータープログラムへの参加につながったのですね。

そうです。松竹はエンターテインメントの会社なので、それぞれの部署がそれぞれに日々新しいことに取り組んでいますが、そうではなく会社全体として新しくできることを模索するために導入したのがアクセラレータープログラムです。 政策秘書として3年間経験を積む中で感じた、現場と経営陣との間に少なからずある乖離と、そこから発生する課題を解決したい。現場も経営視点もある程度理解している僕なら、両者の間をうまく取り持って松竹を変えられるかもしれない。そう思って、プロジェクトメンバーの公募に自ら手を挙げました。

ボトムアップとトップダウンをうまく使うための社内調整

―平岩さんは今回3つのプロジェクトを担当されていたと伺いました。具体的にはどのようなことをされたのでしょうか?

今回のアクセラレータープログラムで実証実験に進んだスタートアップは5社あり、僕はそのうちの3社を担当しました。1社目は、訪日外国人旅行者に1分の動画で観光情報等を「DIVE JAPAN」で提供しているレアリスタ社との取り組みです。

DIVE JAPAN社は動画の質を高めるために松竹の撮影技術を求めており、松竹はインバウンド向けにPRしたいけれどできていないという課題がありました。実証実験では、松竹映像センターと組んで訪日外国人旅行者向けに高品質な観光動画を4本作成しました。

2社目は、世界最大のVRライブプラットフォーム「VARK」を提供しているActEvolve社との取り組みです。松竹が持っている映画館や劇場などのリアルな場と、ActEvolve社のVR空間をつないで新しい体験価値を生み出せないかを検討しました。

そして3社目は、最先端のAI技術で、人が数時間かけて行っていたクリエイティブの編集作業を10秒で遂行できるラディウス・ファイブ社との取り組み。松竹は、フィルムに傷がついたりした旧作映画を手作業で修正していたので、それをAIに代替できないかを実証実験で検証しました。

―3つのプロジェクトを同時進行するのは大変そうです。

政策秘書の仕事を持ちながら、3つのプロジェクトのフロントに立って進めるのは、正直ものすごく大変で、現場にはかなり無理を言ったと思います。

なかでも大変だったのは、「インバウンドのPRができていない」「旧作映画の修復作業が大変」といった課題は現場も持っていたので、話をするとすぐに「いいね、やろう」と共感してもらえるものの、現場は既存業務がとても忙しく、このプログラムに時間を割いてもらうのは簡単ではありませんでした。

スーツを着た男性
自動的に生成された説明

丁寧に話をして協力してくれる人を探し、現場の人たちのモチベーションを上げつつマネジメント層を納得させていくことで、ボトムアップとトップダウンをうまく活用できるよう社内調整に走り回りました。

その結果、実証実験を進めることができて、最終的には「引き続きやりたい」と言ってもらえたのは嬉しかったです。僕は、スタートアップの熱さやスピード感を現場に伝えるだけでもアクセラレーターをやる価値があると思っていたので、それが伝わったのは良かったですね。

受発注ではなく「協業」を見出す

―プロジェクトを進める上で難しかった点や、ぶつかった壁はありますか?

松竹が解決できていない課題と、スタートアップが持つ課題をどうしたら一緒に解決できるのか、協業ポイントを見出すのは難しかったです。特に、レアリスタ社の場合、単に松竹が観光動画を作ってしまうと、それをDIVE JAPANのプラットフォームに載せてもらうだけの受発注関係になりかねません。そうなると、アクセラレーターの意味がない。

どうすればお互いの良さを活かして協業できるのかを模索しましたが、映像は作らないと結果がわからないので、“まずは作ってみよう”という考えで実証実験をスタートしました。

そもそも、段取りが一番大事と言われる映像部門で、とりあえず撮影してみようという考え方自体が斬新です。それでも現場の人に協力してもらいながら、たどり着いたのが「歌舞伎の見方や楽しみ方を紹介する動画」でした。

DIVE JAPANは場所を紹介する動画は作っていましたが、劇場内に入り込んで見方や楽しみ方を説明するところまではできていませんでした。だから、DIVE JAPANが持つインバウンド向け動画のノウハウと、松竹が提供できる歌舞伎の見方や楽しみ方を掛け合わせたら、お互いの強みを活かせると考えたんですね。

そこで、実際に動画を制作して公開したところ、約30万人にリーチして約9万回も再生されるという結果を得られました。しかも、それまでDIVE JAPANがリーチできていなかった複数の国でも再生されていた。実証実験によって、協業ポイントと両社の新しい可能性を発見できたのは嬉しかったです。

―今回の取り組みでスタートアップとの協業の実績を作れたのは大きな価値ですね。

まだ、実績と言えるものはありませんが、120年以上同じ事業を続けてきた松竹にとって、スタートアップと一緒に新しいものを生み出すこと自体がとてもチャレンジングです。その必要性や重要性を現場や経営陣が認識してくれたのは大きな変化なので、これが松竹の文化になるまで続けたいと思っています。

新しいものを生み出し続ける文化を作りたい

―平岩さん自身、スタートアップとの取り組みは初めてのことですが、このプロジェクトを通して成長したことや学んだことを教えてください。

成長したと思うのは、人を巻き込んでプロジェクトを進めることです。これまで、自分のプロジェクトに人を巻き込み、熱量を伝播させるような仕事はしたことがなかったので、新しいスキルを得たように思います。

それから、スタートアップの皆さんと一緒に取り組むなかで、限られたリソースを何に注力させるかを絞る、面白そうだけど事業化の可能性が低く、先が見えづらい案は検討もしないという、取捨選択の仕方は勉強になりました。

また、予算と時間が限られていても、自分たちの中に上限を作らずに「本当に良いものを作ろう」というスタートアップの志の高さにも刺激を受けましたよ。

―最後に、平岩さんが仕事をする上で大切にしている考え方を教えてください。

何事にも妥協しないことです。これは映画の宣伝を担当していたときに学んだのですが、その作品をどれだけ好きか、どれだけ熱量があるかで、宣伝できる場の獲得数も、宣伝できる時間の長さも変わってくるんですね。妥協しないで泥臭くやることが大事なのは、今回のアクセラレーターの取り組みでも痛感したので、今後も大切にしたいです。

当初は、映画を作りたい気持ちで入社した松竹でしたが、今は仕組みづくりや新しい取り組みにチャレンジしたい気持ちでいっぱいです。今後は、まず自分が担当しているプロジェクトを事業として成立させることで、「松竹もこんなことができるんだ」と社内の人に知ってもらいたい。スタートアップとの協業を続けていくことで、松竹に新しいものを生み出し続ける文化を醸成したいと思っています。

執筆
田村 朋美 
2000年雪印乳業に入社。その後、広告代理店、個人事業主を経て、2012年ビズリーチに入社。コンテンツ制作に従事。2016年にNewsPicksに入社し、BrandDesignチームの編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集として活動中。

世の中を驚かす新しいコンテンツと体験価値を生み続けるために。松竹の挑戦。

2020年1月6日

松竹とスタートアップで創出する新たなエンタテイメントとは!?

2019年10月8日
オープンイノベーションプログラム
アクセラレーターについての詳細はこちら
田村 朋美
2000年雪印乳業に入社。その後、広告代理店、個人事業主を経て、2012年ビズリーチに入社。コンテンツ制作に従事。2016年にNewsPicksに入社し、BrandDesignチームの編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集として活動中。
- Advertisment -

Featured

資金調達額9億円のユニロボットのファウンダーが語る「日々立ちはだかる失敗の壁との向き合うコツ」

新型コロナのような不測の事態でも、極力スタートアップの成長速度は落とさない為に、数々の荒波を経験し乗り越えてきた先輩スタートアップから失敗事例や成功事例、リリカバリーしてきた経験やノウハウをシリーズでお届け。第一回目は次世代型ソーシャルロボットの開発で知られるユニロボット株式会社代表 酒井拓さん...

「イノベーション立県」広島のオープンイノベーションによる地域課題解決

数年前より、国をあげての「オープンイノベーション」に関する取組が活発化してきており、各自治体においても、イノベーションを加速させるべく様々な施策が練られている。今回は広島県の象徴的なオープンイノベーション事例について広島県を代表して商工労働局イノベーション推進チーム担当課長の金田典子氏と「広島アクセラレータープログラム」の仕掛け人で広島銀行法人営業部 金融サービス室シニアマネージャーの栗栖 徹 氏にお話を伺った。

新しい仕事と「STARTUP STUDIO」に同時にコミット。何歳になっても挑戦し続けたい

社会課題を解決するためのアイデアと、その事業を作り出したい個人をつなぎ、6ヶ月でプロダクトを作って事業会社に売却することを目指す「STARTUP STUDIO」。第一回目のプロジェクト「スマホでありがとうを届けるチップサービス『petip』」の立ち上げに参加したのが、Reproで働く金卓史氏だ...

社長秘書をしながら、3つの新規プロジェクトを牽引。松竹を変える起爆剤へ

演劇や映像をはじめ、総合エンターテインメントを提供する松竹。銀座にある歌舞伎座が象徴的だが、伝統を継承しつつ、実は長年新しいコンテンツや新しい体験を追求してきた、「進化し続ける企業」の一つだ。そんな松竹がグループ各社を巻き込み、2019年に初めてアクセラレータープログラムに挑戦。そのプロジェクトメンバーの公募に自ら手を挙げ、本業がありつつも3つのプロジェクトを推進したのが、秘書室・政策秘書の平岩英佑氏だ。平岩氏はどんなことを考え、どのようにプロジェクトを進めていったのか。話を伺った。