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資産運用を民主化するためのオープンイノベーション第一歩
―今回、アクセラレータープログラムを導入された背景を教えてください。
中村 三井住友トラスト・アセットマネジメントは、2018年10月に三井住友信託銀行の資産運機能を統合し、新たなスタートを切りました。初年度から、オープンイノベーションに積極的に取り組むことを戦略に掲げており、その一環として弊社単独ではできない領域への挑戦として、アクセラレータープログラムを実施しました。
募集したテーマは、「資産運用をより身近にすること」と、「新たな投資アプローチを発掘して資産運用自体を高度化する」の2つ。日本における資産運用は、まだまだすべての人に身近な存在ではありません。それを、新しいアイデアやテクノロジーで、すべての方々に身近な存在にしたいと考え、STOCK POINTさんを採択させていただきました。
―STOCK POINTの事業について、具体的に教えていただけますか?
土屋 金融商品や値動きするものに連動してポイントの価値が変わる、株価連動型ポイント運用システムを提供しています。事業を立ち上げたきっかけは、人生100年時代と言われるなか、多くの方が年金不安など金銭面での不安を抱えているにも関わらず、資産運用に一歩を踏み出せない人がとても多いことを課題に感じていたからです。
そこで、一歩を踏み出すための背中を押す役割として、現金を使わずにポイントで資産運用をお試しできる「株価連動型ポイント運用」システムを開発。株価に連動するポイントとしては特許を持っており、資産運用の一歩手前、証券口座を開くに至っていない方に向けたサービスとして提供しています。

―現金ではなくポイントを使うのはユニークですね。
土屋 現金を100円投資して0円になるのは嫌だけど、商品の購入やサービスを受けたときに おまけ でもらうポイントなら心理 的ハードルが下がりますよね。これなら資産運用“”のお試しとしても最適ではないかと考えました。
中村 まさに、我々 もポイント連動の仕組みに 惹かれました。あらゆる業界のサービスには、お試し期間 が設定 されていたり、無料 で使える期間 があったりしますが、資産運用や投資信託にはそれがありません。そのため、どうにかお試しいただける環境を作れないかと模索していました。STOCK POINTさんの 仕組みを使えば、それが可能になるので、すごく斬新なサービスを展開されているなと思いました。
「TRY!投資信託キャンペーン」で裾野を広げる
―具体的な実証実験について教えてください。
中村 8月下旬 から 約1ヶ月半の「TRY!投資信託キャンペーン」をスタートさせました。具体的には、特設ページを経由して、新たにSTOCK POINTアプリのアカウントを開設した先着1000 名に200ポイントを付与します。

そのポイントで、弊社が用意した5つの ファンドから好きなものを選んでいただき、その場でポイント運用をスタートできるというものです。
ポイント付与者には、投資に対する 意識調査や、実証実験中に発信される投資情報等に対する反応を調査し、キャンペーン後の展開につなげたいと考えています。
実は、採択したのが2020年2月なので、本来なら3月や4月にはキャンペーンを始める予定 でした。しかし、新型コロナウイルスの影響によって、緊急事態宣言が解除されるまでSTOCK POINTさんにはお待ちいただく形になったんです。
緊急事態宣言が解除された後、キャンペーンを実施するにあたって関係各所への説明に約1ヶ月を要したため、8月下旬からのスタートになりました。
土屋 コロナの影響 で、この取り組み自体がなくなるとは思ってなかったので、待ち時間はあったけれど心配ではなかったですよ。
―新しい価値観のサービスを社内に理解してもらうまでの苦労はありましたか?
中村 弊社は所謂昔ながらの会社ですので、簡単ではありませんが、もともと金融庁から「ポイント運用は金融商品ではない」という確認 を土屋さんが取ってくれていたので、社内の説明 は進めやすかったです。また、2次プレゼン時に土屋さんから弊社の役員向けに直接説明いただき、その場である程度理解されていたため、まっさらな状態から社内を回るよりも早い段階で理解は得られたと思っています。
アクセラレータープログラムで大事なのは「誰」とやるか
―初めてのアクセラレーターで学んだことや気づきはありましたか?

中村 スタートアップの柔軟なアイデアやスピード感は勉強になりました。今までは、保守的な考えからこうした新しい取り組みはできないと思われていたけれど、実績を作れたので社内の空気感も少し変わってきたように思います。
個人的には、コロナ禍で世の中が加速度的に変化していく中で、外の会社とコミュニケーションを取りながら緊張感を持っていられたのは良かったです。
土屋 大企業は、いろんな方にご理解 いただいた上で一緒に進めていく必要 があります。そのためには、担当 の方がどれだけ社内で動いてくださるかが重要 。なかには「社内調整ができませんでした」と終わってしまうケースもあるんですね。アクセラレータープログラムやオープンイノベーションは「誰とやるか」がすごく大事で、先に進むか 進まないか、成功 につながるかどうかは、お互いの担当 同士の一体感、チーム感の 有無で変わります。その点、今回は本当に一つのチームとして取り組めたと思っています。
中村 まさに、アクセラレータープログラムは、私が社 内に持ち 込んだ 企画なんです。そこに、やりたいと手を挙げてくれた仲間 と一 緒に動いたから、それがチーム感や一体感につながったのだと思います。これが、トップダウ ンで 担当者 を指名していたら、きっとうまくいっていなかったでしょう。
少額でも投資を始めるきっかけを作りたい
―実証実験後の展開はどのようにお考えでしょうか?
中村 キャンペーンから次につなげられるよう、いろんなデータを取っているところです。今回はSTOCK POINTのアプリ内で展開していますが、投資のアプリを作る方向性もあると思っているので、キャンペーンの結果を見ながら検討していきたいです。
土屋 そうですね。もっと大規模 な取り組みをすることで、投資の裾野 を広げたい。少額でもいいから投資を始めるきっかけを作りたいです。
そもそも投資は生活とは 無縁 だと 思われがちですが、誰もが 購買 行動をしますよね。企業が作った商品がお店に並べられ、私たち 消費者 は商品を選んで 買っている。買うという行為自体が 企業を 応援 する一つの投資手段であると言えるので、投資は身近な存在であることを広く伝えたいです。
この想いが、今回の協業をきっかけに広まることで、日本人の金融リテラシーが上がり、投資運用のハードルは下がることにつながると嬉しいですね。また、STOCK POINTはサービスの提供の仕方次第で、いろんな 働きかけができると思っています。たとえば企 業を応援 する ファ ンマー ケティングとしても使えると思うので、いろんなことを試しながら事業を広げたいです。
―これから、オープンイノベーションでどんな社会を作りたいでしょうか。
中村 弊社は長年資産運用に関わってきたという自負がございますが、単独では「貯蓄から投資へ」という流れを広く浸透させることはできないと思います。広く資産運用を身近に感じていただくためには、今回のようなSTOCK POINTさんのアプリなどのツールや、私たちの持つ情報、例えば金融リテラシーの向上に資する情報を分かりやすく伝えられるアイデアを持つ企業と協業する必要があります。そのため、資産運用に一歩踏み出すための仕組みをオープンイノベーションで作り、誰もが資産運用を身近に感じられる社会を作っていきたいと思います。
オープンイノベーションは、保守 的な会社であればある ほど、社内に話を 通すのは難しく、エネルギーも使います。でも新しい取り組みによってポジティブ な変化が出ることを信じてやれば、きっとゴールにたどり着けるはず。今回のアクセラレータープログラムによってそれは実証できたので、引き続き他社との協業に注力したいと思っています。

2009年三井住友信託銀行入社。資産運用部門の企画業務等を経て、2013年よりポートフォリオマネジャーとして欧米アジアの株式投資に従事。その後渡米し、2018年にミシガン大学でMBAを取得。現在は、三井住友トラスト・アセットマネジメントの経営企画部にて、デジタルテクノロジーを活用した戦略の立案、推進に携わっている。

2006年に金融ソリューション事業、不動産システム開発事業などを展開するSound-Fintechを設立。2008年のリーマン・ショックを乗り越え、最先端の新技術とサービスの提供で顧客を拡大。2016年にSTOCK POINTを設立。世界初となる「誰もがいつの間にか株主になれる」株価連動型ポイント運用システムを開発した。
