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火曜日, 11月 29, 2022

誰もやらなかった、点字ブロック×QRコードによる駅のデジタル化。視覚障がい者の移動に資する「shikAI」|リンクスと東京メトロのオープンイノベーション事例

テクノロジーが急速に発展する現代で、なぜ「視覚障がい者」の駅ホームからの転落事故はなくならないのか――。世界には2億8500万人、日本には164万人の視覚障がい者がいると言われているが、安心して外出できる環境が整えられているとは言えない。この、平等ではない社会を変えるために、スタートアップの「リンクス株式会社」は、東京メトロとのオープンイノベーションをきっかけに視覚障がい者ナビゲーションシステムアプリ「shikAI(シカイ)」を開発した。具体的にどのようなサービスで、社会実装までにどんな壁を乗り越えたのか。リンクスの取締役副社長・小西享氏に話を伺った。

高精度な屋内ナビゲーションシステム「shikAI」を開発

ハードルの高い「社会実装」を超えるために

―視覚障がい者向けナビゲーションシステム「shikAI」を開発するに至った背景を教えてください。

社会はすべての人にとってフェアであるべきなのに、視覚に障がいを持つ人が駅のホームから転落する事故や、巻き込まれてしまう痛ましい事件は後を経ちません。

弊社会長の小西がそんなニュースに触れるなかで、この領域のデジタル化は未着手であることに気づいたんです。気づいてしまった以上、テクノロジーに明るい我々がやらないという選択肢はない。それが、視覚障がい者向けナビゲーションシステム「shikAI」プロジェクトにつながりました。

ただ、スタートアップである我々だけでシステムを開発しても、鉄道会社や国土交通省、東京都などいろんな関係者を説得し、社会実装するのはハードルが高い。そんなとき、東京メトロのアクセラレータープログラムを知り、「shikAI」プロジェクトを提案しました。2016年のことです。

アクセラレータープログラムで加速

―東京メトロのアクセラレータープログラムに採択されて以降、どのような実証実験を繰り返したのでしょうか?

東京メトロが持つ模擬駅を使った実験を繰り返しました。最初は自己位置を特定するためにBluetooth Low Energy Beacon(ビーコン)テクノロジーを追求して、自分たちが立っている位置の精度を高めていたのですが、どうしても精度が実用レベルにはならなかったんですね。ホームドアのあるホームでのみ使用すること、また点字ブロックに沿って移動して頂くことを前提としていたので、危険はないのですが、どうしてもナビゲーションの精度を上げられない。転落防止についてはAIを使用した研究を行いました。モバイル環境でのホーム端の検出はやはり精度に限界がありました。東京メトロはすべてのホームにホームドアを設置する予定もありましたので、転落防止のためのAIツールの方は棚上げしました。

視覚障がい者向けナビゲーションについては、何かもっと良い方法がないのか悩み続けました。WiFiやUWBなども検討しました。比較的ローコストで展開出来るという制約も考慮しなければなりませんでした。そうして悩み続けた結果、辿り着いたのがQRコードを使ったソリューションでした。もともと点字ブロックに沿った移動を前提に考えていましたが、点字ブロックには分岐地点や階段前などの危険な箇所に警告ブロック(点ブロック)があり、そこにQRコードを貼って検証したところ大きな手応えを得られたんです。

東京メトロの方も同様に手応えを感じられたようです。模擬駅での検証を経て、実際の駅(有楽町線辰巳駅)で実証実験を行うことになりました。そこから検証を重ね、一つの駅の点字ブロックに約1,000〜2,000枚のQRコードを貼り、地面に向かって雑にスマホをかざすだけで行きたい場所や出口を音声でナビゲーションしてくれるシステムを完成させました。つまり、駅全体をデジタル化して自分の位置や向いている方角が正確にわかるようにしたのです。

たとえば、「shikAI」に駅のトイレを指示すると、「右5メートル」「下り階段です。10段あります」「直進5メートル」「トイレに着きました」といった具合に、ポイントごとに正確にナビゲーションしてくれます。ルートから外れると、「誤った方向に進んでいます」と教えてくれるので、迷うこともありません。

しかも、QRコードの読み取り精度は非常に高いので、早歩きでもQRをしっかりと認識して読み取れるように開発されています。我々がテストで目隠しをして歩いても、行きたい場所にたどり着けましたし、実際に400人以上の視覚障がい者の方に参加してもらってテストをしたところ、ほとんどの方たちに高い評価をいただきました。

社会的意義の高いシステム実装を都内9駅からスタートさせた東京メトロとのオープンイノベーション

―長い年月をかけて実証実験をするのは、スタートアップの体力としても厳しいものだったと思います。諦めずに続けられた理由は何でしょうか。

まず第一に、視覚障がい者の皆さんが私たちの開発したアプリを本気で気に入ってくれたことを感じたからでしょうか。血を流しながら進んでいるので、ダメなモノなら正直に言ってくれた方が本当にありがたいと事あるごとに問いかけてきたのですが、当事者の皆さんから、これはいいものだから頑張って欲しいと言われました。加えて、社会実装される可能性が徐々に高まっていったのと、味方が少しずつ増えていったからです。

東京メトロとの協業ですが、このプロジェクトは東京メトロからの信頼を得られたらいいわけではありません。当事者である視覚障がい者の団体をはじめ、他の鉄道事業者や国土交通省など関係するステークホルダーに新しいテクノロジーを受け入れてもらうのは簡単ではなく、地道にロビー活動を続ける必要がありました。

だけど、少しずつ興味を持ってくれる人や賛同してくれるが増え、実装前の体験会には東京メトロの役員の方や国土交通省の方などたくさんの人が来てくれました。その甲斐あって、現在は明治神宮前駅や西早稲田駅、新木場駅など都内9つの駅での実装が始まっています。

―まずは9駅とのことですが、いずれは都内全駅での実装を目指しているのでしょうか?

もともとは、2020年の東京五輪を皮切りに複数の駅で実装し、いずれは全駅に展開する勢いでした。それが、新型コロナウイルスの影響で、状況が一変しました。これも我々からすると一つの大きな壁でした。

ただ、shikAIプロジェクトは社会に必要な存在であることは間違いないので、これからどこまで広げられるか、関係各所との協議を続けたいと思っています。

鉄道だけでなく、道路やバス停、タクシー乗り場も。本当に困っている人の助けに

―東京メトロ以外の鉄道会社や、それ以外の機関との協業も考えていますか?

JR西日本とは新神戸駅で実証実験を実施しました。また、視覚障がい者向けとは異なるのですが、JR東日本とは東京駅で海外から来た人や地方から来た人が駅構内を迷わず移動できるよう、QRコードを読み込むと案内してくれるWebアプリの実証実験を実施しました。

ほかにも、地方の鉄道会社や東京23区のいくつかのお役所からもお問い合わせをいただいており、豊島区では最近、東池袋駅から区役所までを案内するQRナビゲーションシステムを実装をしたばかりです。

バスを使用する視覚障がい者の方も多いので、駅からバス停までの点字ブロックは是非デジタル化したいですね。駅からタクシー乗り場までも同様です。

ただ、ここまでスタートアップとしてできる精一杯の努力をしてきたので、ここから先の展開のためには、資金力がある組織や大企業のサポートが必要になってくると考えています。社会貢献性の高い「shikAI」に賛同してもらって、今後も少しでも本当に困っている人たちの助けになれたらいいなと思っています。

オープンイノベーションの活用には、企業の課題を見極めることがポイント

―これから大手企業と協業したいと考えるスタートアップに向けてのアドバイスをお願いします。

大手企業が本当に課題や目指したい場所があって、それに真剣に向き合おうとしている人たちなのか?はとても大切だと思います。単にスタートアップに新規事業のアイデアを求めていたり、時流に乗っかりパフォーマンスだけで結果にコミットしようとしない人たちがいると感じることも多いので、スタートアップタイムライン(結果を出さなければ会社が無くなる)で生きている僕らと向き合う覚悟を持ってくれる人たちと一緒にやるべきかと思います。そうではない人たちと協業する場合、やってるいる感はあるかもしれませんが残念ながら何も生まれません。

上手く組めた場合には、自分たちだけでは成し得ないことができるのは間違いありません。僕らも東京メトロが持つリソースをうまく活用させてもらうことで、社会に対してあるべき姿を実現していくことができ、大々的にアピールできたことはとても価値あることだったと思っています。

(執筆日:2021年5月25日)

社名リンクス株式会社(英:LiNKX, Inc.)
設立2020年7月15日
所在地東京都港区西新橋2-19-5 カザマビル5F
代表取締役会長小西 祐一
事業概要プロダクト及びソリューションコンサルティング
ソフトウェア・ソリューション: クラウド、モバイル、 AI
ハードウェア・ソリューション: 協働ロボット、IoT
URLhttps://www.linkx.dev/
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田村 朋美
2000年雪印乳業に入社。その後、広告代理店、個人事業主を経て、2012年ビズリーチに入社。コンテンツ制作に従事。2016年にNewsPicksに入社し、BrandDesignチームの編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集として活動中。
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