機会とソフトウエアの融合によるイノベーションの実現
参加企業:株式会社エヌエスティー/エントリースタートアップ:株式会社アラヤ

⚫︎参加企業紹介
松浦:株式会社エヌエスティーは1985年に創業し、今年で36期目になります。資本金5,000万円で従業員は90名弱という中小企業です。
事業内容は、検査・計測システム、機械制御システム、専用コントローラの設計及び製造など、工場で使われる自動化設備の開発を主に行っています。現在は、電気自動車に使われるモーターやバッテリー、インバーターなどEV関係の検査装置が事業の売上の半分を占めています。

⚫︎エントリーから採択までのプロセス
松浦:最初に20件エントリーいただき、書類選考で半分の10件に絞り、その後zoomでミーティングを行い、1次選考で2件に絞りました。うち1件は、このアクセラレータープログラムを進めている間に、その課題が社内で解決してしまったため、最終的に1件を採択しました。
私どもは小さな会社ですので、全然違うところと手を組んで新たなビジネスを創造するのは難しいため、「我々の持っている課題を解決する」という点を重視し、それをお手伝いしていただけるところと手を組みたいと考えました。

⚫︎採択に至ったスタートアップとの協業案
松浦:今回採択したのは、株式会社アラヤといって、主にAIのソフトを作っているベンチャーです。
我々の行っている画像処理に、アラヤさんの持っているAIの技術をピンポイントで適用できるのではないかと考え、協業を決めました。現在は画像データを集めて、それをAIで処理したらどうなるかということを検証しているところです。
⚫︎プログラムを通じて学んだこと
松浦:良かったことは大きく3つあります。まず今回募集ページをつくるにあたり、自分の会社が何をやっているのか、外部にわかりやすく伝えられるようになったことです。
また、10社とオンラインで面談させていただいたのですが、我々とまったく違う考えを持っている会社が多く、興味深いお話をいろいろ聞くことができました。
3つめは、これからAIを学んでいきたいと思っているので、そこにぴったり合う会社に出会えて良かったです。それが最大のメリットですね。
⚫︎これから参加する会社へのアドバイス
松浦:これからアクセラレータープログラムに参加する場合、まずは予算措置をしておくことが大切だと思います。「面白いから」と始めても、費用が足りないと続けられませんので。
2つめは、方針を明確にしておくこと。担当者の考えが会社の方針と合わないと無駄になってしまうため、「やること・やらないこと」を事前に決めておくと良いと思います。
3つめとしては、長期的なテーマは方向性を決めにくいので、短い期間で結果を出した方が良いということです。今回は「現状課題になっていることを解決する」という点にフォーカスして行いました。
最後は「協力関係を続ける」ということです。「この会社とならいっしょにやっていけそうだな」という感覚を大切にした方が良いと思います。
製造技術とデザインの融合
参加企業:株式会社エフ・シー・シー/エントリースタートアップ:有限会社アネラ
登壇者:株式会社エフ・シー・シー稲橋氏・青島氏

⚫︎参加企業紹介
稲橋:我々は設立が1939年、資本金47億で、生産拠点が29拠点、従業員は約8,700名ほどおります。主たるビジネスとしては、クラッチの開発・製造販売を行っています。
また社内に新事業開発部がありまして、そこではEV製品やペーパー応用製品の開発、さらに新領域など、SDGsを念頭において、モノだけでなく、コトの提供を目指しています。
今回我々は地域課題の解決を掲げて本アクセラに参加しました。浜松はガーベラの出荷が日本一なのですが、コロナの影響もあり、昨今フラワーロスが深刻化しております。
そこで、地元の花農家さんの新たなビジネスチャンスを生み出し、花産業の回復を目指すことを課題と捉えました。

⚫︎採択に至ったスタートアップとの協業案
稲橋:我が社が協業を決めたのは、東京・麻布台にある有限会社アネラです。アネラさんは、フラワーアレンジメントをメインに、スワロフスキーとの協業や芸能人のウェディングのアレンジメントなどを手掛けている会社です。
青島:ここから協業案について、私がご説明します。アネラさんと組むにあたって、我々は“バイオフィリック”に注目しました。バイオフィリックとは、オフィスに自然を感じる要素を取り入れることで、生産性の向上や、ストレスの軽減などの効果が期待できるというものです。
怒りや緊張といったネガティブな要素に対して、花があることで抑制できる、またオフィスが活気づくという効果が実証されています。
そこで、アネラさんのフラワーアートのノウハウと表現力、エフ・シー・シーのものづくり力と化学の知見を合わせて、内装デザインの新たな選択肢として、「不燃の簡単交換フラワーウォールパネル」を提供したいと考えております。

浜松で採れたガーベラの色素を抜いてから染料で色付けし、水やりやアレルギーの心配のないプリザーブドフラワーに加工します。これを不燃に加工することで、美しさはそのままに、建材としても使用することが可能となります。
具体的には、何枚も組み合わせることで、店舗等の壁一面に取り付けられ、簡単に脱着できるようなパネルを考えています。
店舗だけでなく、タワーマンションのエレベーターやデパートの入り口のガラス面、レストランの夜景の窓枠などに用いると華やかさが演出できますし、歯科医院や納骨堂などに用いると温かみを感じる演出ができると思います。
今は実証実験として、設計事務所やクリニックなど10社にニーズの聞き取りをしたり、プリザーブドフラワーの不燃実験を行っております。
⚫︎今後のビジネスフロー
青島:アネラさんから浜松の花の魅力を最大限活かすデザインを考えてもらい、その仕様書を納品してもらいます。その後、エフ・シー・シーが材料の調達やプリザーブドフラワーの加工、製品の組み立てをして、エンドユーザーへ届けます。
ロードマップとしては、まず、浜松で不燃花フラワーウォールの販売を行うと同時に、季節ごとに花を入れ替えるサブスクリプション展開も考えています(春にはガーベラ、夏にはひまわり等)。そして日本から世界へグローバルに展開し、生花の入手が困難な地域へ日本の花の価値を届けます。
エフ・シー・シーとアネラがタッグを組んで、浜松から世界へと、人の心に花を咲かせたいと考えています。
⚫︎プログラムを通しての気づきと次回への要望
稲橋:良かった点は3つあります。まず、異分野への第一歩につながったこと、2つめはスタートアップさんのさまざまなビジネスの手法に触れることで、我々の視点が変化したこと、3つめは、我々が価値を見出せていなかった自社技術に拡張性があることを、第三者からの目線により発見できたことです。
新事業開発部としては、未踏の分野にも挑戦していきたいと考えていますので、我々と新しいビジネスをつくりたいと思われる方がいれば、ぜひ直接ご連絡ください。
デジタルQ&Aで快速アンサー
参加企業:SHODA株式会社/エントリースタートアップ:株式会社コンシェルジュ
SHODA株式会社杉山氏と赤木氏

⚫︎事業紹介
杉山:SHODA株式会社は、浜松市内に本社及び工場、関東と関西に営業所、中国に上海SHODAがあります。創立は1926年で、今年で創業96年になります。木材や樹脂といった、鉄より軽い素材の切削加工を行う機械「NCルータ」の製造販売を行う産業機器製造メーカーです。

⚫︎アクセラレータープログラムに参加した目的
杉山:当社が本プログラムに参加した目的は、工作機械からDIYまで、“創る・つながる”を支援したいというものです。この思いを4つの視点で細分化しますと、1つめは、あらゆる人々が自らの手で快適なモノ、空間をつくれるようにしたいということ、2つめはNCルータのオペレーションを自動化したいということ、3つめは補修予知、遠隔保守点検サービスの実現、4つめはつながるサービスを実現したいということです。

⚫︎エントリーから採択までのプロセス
杉山:昨年10月26日よりエントリーを募集し、16社からご応募いただきました。うち6社と11月18日から約1ヶ月かけてオンラインで協業案のブラッシュアップを行いました。12月25日にコンシェルジェ様との協業を決定し、今年1月5日より協業案をさらにつめて、社内プレゼンの準備を進めました。
1月26日に協業案の社内プレゼンを実施し、実証実験を行うことを決定しました。3月から実証実験への準備に入っております。
⚫︎採択に至ったスタートアップの紹介
赤木:協業相手となる株式会社コンシェルジュのご紹介をします。コンシェルジュ様は2015年創業で、東京に本社を構え、「kuzen(クウゼン)」と呼ばれるチャットボットを提供している企業です。
チャットボットとは、お客様と会話形式で行う無人のカスタマーサポートツールです。お客様が抱いている疑問や問題点を、自動応答で解決へと導いていきます。インターネットを通じ、スマートフォンやPCなどのデバイスを用いて利用することができます。
⚫︎協業の目的について
赤木:現在当社には、NCルータを販売しているお客様から、月々200件近くのサービスコールがあり、その半数は、電話対応が必要ないような軽度な問い合わせとなっています。そのような問い合わせに対し、チャットボットで自動応答し、いつでも、気楽に迅速に解決することで、お客様が満足するアフターサービスを提供したいと考えております。
例えば「操作板のスイッチがわからない」といった軽度な問題は、チャットボットに聞くことにより、迅速に解決いたします。また、「機械が動かない」といった重度な問題には従来通り電話対応をいたします。本協業にて使用する、コンシェルジェ様のチャットボット「kuzen」は、AIを搭載しており、プログラミングなしで行えるシナリオ作成、柔軟な外部システムやカスタムデータベースとの連携、多国語対応、自然言語処理によるユーザーへの快適な自動回答が行えるものです。
これらの特徴は、本協業の目的をチャットボットで行う上で大変頼りになると考えています。
⚫︎協業案の中身とメリットについて
赤木:弊社側のメリットとしては、NCルータの取扱説明書を「kuzen」でチャットボット化することで、アフターサービスにおける軽度な問題への迅速解決、お客様への情報インフラの提供、電話対応の待ち時間の削減を実現できると考えます。また、コンシェルジュ様側のメリットとしては、自社プラットフォームの普及や、製造業における知見の獲得があると思っています。
⚫︎未来像へのロードマップ
赤木:最終的には、取扱説明、トラブル対応、資料検索、多国語対応の機能をチャットボットに入れていきたいと思っています。今現在、実証実験の準備を行っていますが、ここから5年スパンで計画を立てています。直近の実証実験では、取説のチャットボット化を一部機種にのみ対応させて、社内テストを行います。
⚫︎実証実験の詳細について
準備段階では、取扱説明者の登録やチャットボットの導線であるシナリオ構想を考えております。また、コンジェルジュ様側にはシナリオの補佐を行ってもらっています。準備が終わったのちのテスト段階では、弊社ではチャットボットによる効果測定やシナリオの検証、コンシェルジュ様側にはアフターフォロー等を行ってもらう予定です。
協業案であるチャットボットを導入することにより、アフターサービスを充実させ、お客様から安心と信頼を勝ち取り、さらにお客様に求められる企業をめざしていきます。
⚫︎本プログラムへの感想
杉山:自社の強みについて再認識する機会となり、新たな視点で商品開発に取り組むことができました。またスタートアップ企業様と弊社の技術の接点を創造することを高めていかなければならないと感じました。
赤木:ベンチャー企業との連絡方法であったり、ミーティングの進行を学ぶことができました。反省点としては、そうした連絡やオンラインミーティングにおいて、積極的に活動することが大切だと学びました。
浜松アクセラレーターの今後について
スピーカー:浜松市 産業部次長兼産業振興課課長 江間氏
江馬:浜松市は、5年ほど前からスタートアップ支援に注力しており、現在多くのスタートアップの皆様に興味を持っていただいている状況でございます。また、浜松市内のスタートアップ企業間においてもコミュニティが生まれつつあります。
そのような状況をさらに押し進めるべく、「新たな活力をもたらしてくれるスタートアップとものづくり企業の高度な技術を融合させてイノベーションを生み出す」という風土をこの浜松でつくっていきたいと思い、本プログラムを今年度新たに実施しました。
本日ご紹介いただきました3件につきましては、既存事業の延長線上では考えられないような、びっくりするような組み合わせもあり、様々なオープンイノベーションのカタチがあるのだと感じました。協業がスタートしたこれからが本番だと思いますので、ぜひ、ものづくり企業とスタートアップとの協業による、地域の先駆的なオープンイノベーションとして、ビジネス化を進めていただければと思います。
本プロブラムにつきましては、次年度も実施する予定です。スタートアップとのオープンイノベーションにより、新事業創出や自社課題の解決に繋げる意志をお持ちの事業者の皆様のご参加をお待ちしております。
