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このプログラムにより、佐賀の老舗製茶会社の三栄興産と、東京で女性のデリケートゾーンのお手入れブランドを展開するスタートアップ「トレスマリア」の協業が実現。赤ちゃんからお年寄りまで美味しく飲める、新しい健康茶を誕生させた。その協業について、三栄興産代表取締役社長の緒方哲哉氏と、トレスマリア代表取締役社長のバルドゥッチ淳子氏に話を伺った。
・“おばあちゃんの知恵袋”を現代版にアレンジ
・開発は1年以上。お茶は0.1グラム単位で味と香りが変わる
・妥協を許さず作った2種類のお茶。ついに10月8日販売開始
・お客様に喜んでいただくために。2社の協業は続く
・お客様が欲しいものを形にし、社会課題を解決する
本当にお客様が欲しいお茶を作りたい

――三栄興産が佐賀県主催のオープンイノベーションプログラム「SAGAN BEAUTY & HEALTHCARE OPEN ACCELERATOR 2020」に参加した背景を教えてください。
緒方 佐賀県は、嬉野や唐津を産地とした「緑茶」がとても有名ですが、実は日本一の大麦の産地でもあります。そのご縁から、昭和40年に私の祖父が「麦茶の焙煎工場」として三栄興産を創業しました。
以来、美味しい麦茶を中心に、緑茶と相性の良い玄米茶の素、自然の野草を火入れ加工して仕上げる健康茶、仕入れ担当者が現地で吟味した中国茶など、さまざまなお茶を取り扱ってきました。
そのなかで課題だったのは、幅広いターゲットに向けたお茶作りは得意でも、ターゲットを絞った商品作りがなかなかできなかったこと。お客様が本当に欲しいお茶をゼロベースで作りたい、お茶の新しい可能性を見出したいと思い、佐賀県のアクセラに参加しました。
――トレスマリアが三栄興産にエントリーした理由を教えてください。
バルドゥッチ トレスマリアは健やかに美しく輝く女性を応援する、日本発デリケートゾーンのお手入れブランドです。女性はホルモンが揺らぐときに、心や身体に変調を感じやすくなります。その揺らぎに寄り添った商品として、主に化粧品を開発・販売してきました。
ただ、朝晩の美容ケアや、インナーケアとしての美容ドリンク・サプリメントは世の中にたくさんあります。違う切り口で、もっと幅広いお客様に寄り添えないかと考えたとき、着目したのが“お茶”だったんです。
普段から飲むお茶なら手軽に続けられますし、健康や美容の裾野を広げることにもなるはず。そう考えていたとき、偶然見つけたのが佐賀県のアクセラでした。
緒方 バルドゥッチ社長の応募に書かれていた文章からは、お客様の悩みを解決するために事業に没頭されていることが感じられました。私も、お客様が本当に心から求めるお茶を作り、多くの人に喜んでいただきたいと思っていたので、すぐに連絡を取りました。
“おばあちゃんの知恵袋”を現代版にアレンジ

――お茶をキーワードに、2社がつながったのですね。
バルドゥッチ そうですね。佐賀県は中国やインドに近くて、厳選したケツメイシ(ハブ茶)などの漢方を仕入れられる地の利があり、三栄興産はそれらを自社で焙煎や調合ができるという強みがあります。
それに、佐賀県は豊臣秀吉の時代に遡り、たる磁器「有田焼(伊万里焼)」を日本で初めて誕生させた世界的な名窯でもあり、古来よりお茶の文化が形を変えながら受け継がれてきたという歴史もあるんですね。
たとえば、野草や樹木・穀物を煮出すなどして作っていた健康茶、いわゆる“おばあちゃんの知恵袋”もその一つ。それを現代風にアレンジして、毎日の生活に簡単に取り入れられたら、健康に貢献できるのではないかと考えました。
ただ、健康茶は飲みにくいという課題があります。実際、お客様200人にアンケートを実施すると、多くの方が「健康茶は体にいいと思うけれど、苦い、渋い、飲みにくいから、続かない」と回答されました。
どんな健康茶だったら続けられるかと、再度アンケートで調査すると「美味しくて体にいいならぜひ飲みたい」という前向きな回答をたくさん得られたんです。
だから、三栄興産とのコラボレーションで、美味しくて健康になれる、さらに“美”にもつながるお茶を作れたら素晴らしいと思いました。
緒方 三栄興産は、お茶の原料選別、浄化・断裁、焙煎、加工など、製茶製造に関する技術やノウハウ、設備があり、健康茶や中国茶、焙煎品・穀物など約80種類の原材料を仕入れるルートがあります。
さらに、“おばあちゃんの知恵袋”ならぬ、さまざまなお茶のレシピも持っている。
この、代々引き継いできた財産を生かし、バルドゥッチ社長から提案された「世界中の女性の健康と美をサポートするお茶」に挑戦したいと思い、協業が始まりました。
開発は1年以上。お茶は0.1グラム単位で味と香りが変わる

――目的が合致してからは、研究開発を重ねてきたのでしょうか。
緒方 そうです。今回のベースとなったレシピは2種類あり、1つは祖父母が昭和50年代後半に開発した健康茶の「麗健茶(れいけんちゃ)」。これは、ドクダミにハブ茶や鳩麦をブレンドしたお茶です。もう一つは、スパイシーな風味でダイエットに合うお茶。
この2つのレシピを軸にして、それぞれに7〜8種類の植物原料を調合しながら進化させていったのですが、研究開発には1年以上かかりました。
――難しかったのは、現代版の配合ですか?
バルドゥッチ おばあちゃんが自分で炒ったり煎じたりして飲んでいたお茶を、どうすればティーバックの商品にできるのか。マグカップやタンブラー、水筒でも飲みたいとなると、茶葉の大きさや配合はどうすればいいのかなど、本当に何度も試しました。
茶葉の配合は0.1グラム単位で味も香りも変わりますし、お湯出しをした後も、時間が経過するにつれて味も香りも変化します。だから、緒方さんには相当数のサンプルを出してもらいましたし、検証にはお客様や料理研究家の方にも協力してもらいました。
私たち美容業界は細かいところに厳しいため、食品業界の緒方さんは大変だったかもしれません。
緒方 いえ、お客様に満足いただける商品やサービスを作りたいという思いは同じだったので、ブレンド比やグラム数を変えて納得いくまでサンプルは作らせてもらおうと最初から決めていました。
今回の協業はとても気付かされることが多くあり、たとえば「水筒」の容量を一つとってもイメージが違ったんですね。私は麦茶を主に作っていたことから、イメージした水筒は1リットルや1.5リットルの大きなサイズでしたが、バルドゥッチ社長がイメージしていたのは250ミリから500ミリのタンブラーサイズ。
ターゲットによって求める容量に違いがあることに気づき、少しずつ容量を少なくしながら、一番ニーズのあるサイズでサンプルを作りました。
実は、この気づきを得てから、我々の既存商品も容量を少なくしてリニューアルしたんです(笑)。新商品を協業で開発しながら、同時にそのノウハウを本業に活かせたのはありがたかったですね。
妥協を許さず作った2種類のお茶。ついに10月8日販売開始

――試行錯誤を重ね、いよいよ2種類のお茶を販売されると聞きました。
バルドゥッチ 本当は、9月9日に発売予定だったのですが、大きな壁にぶつかって一度延期しました。初回の商品を納品してもらったところ、思っていた味ではなかったんです。
原因は、「一袋40グラム」と書いてあると40グラムを0.1グラムでも割ることができないため、ほんの微量ですが茶葉を調整したこと。そして、販売用の袋によっても茶葉やスパイスの熟成度合いが変わっていたこと。誤差レベルのグラム数の差や熟成度合いによって、サンプルとの味の違いを生んでいたことに、本当に驚きましたね。
でも、その最終調整を終えて、一切妥協せずに作った2つの「美・健康茶」を10月8日に販売できることとなりました。
今回作った2つのお茶の良さは、香料や甘味料など無添加なので赤ちゃんからお年寄りまで誰もが美味しく飲めることと、お湯出しでも水出しでも楽しめて、さらにお湯や水を足して繰り返し何度も飲めること。
8種類入っている漢方は、それぞれに味や香りの出方に時間差があるので、お好みの味や香りのタイミングでティーバックを取り出してもいいし、変わり続けるお茶を楽しむのもいい。また、冷やすと甘くなるので気分によって味を変えられます。
その漢方茶の楽しさを、多くの方に実感いただきながら、美と健康に貢献したいと思っています


お客様に喜んでいただくために。2社の協業は続く

――今後も2社の協業は続くのでしょうか?
バルドゥッチ すでに、新たに2種類のお茶を提案していますし、お客様に喜んでいただくためにも、緒方さんとの協業はこのまま続けたいと思っています。
緒方 そうですね。商品数を増やしていくだけでなく、協業で開発した商品を世界各国に持っていき、その反応を見ながらグローバルにも展開したいと考えています。
三栄興産は海外15カ国(イギリス、フランス、ロシア、ポーランド、シンガポール、タイ、ベトナム、中国、香港など)に販路を持ちますが、海外のお茶事情は難しいんですね。
日本でも地域によって緑茶の産地や味が違うように、たとえば一括りに「アジア」と言っても、国によってお茶の飲み方や嗜好が違う。どこまでできるかわかりませんが、チャレンジしたいと思っています。
バルドゥッチ 私は最初に世界展開するのは緒方さんの麦茶がいいと思っていて。スリランカ人の商社経営者に、ドバイで麦茶の調査をしてもらったところ、評価がとても高かったんです。
麦茶は冷たく飲めますし、カフェインが入っていないから赤ちゃんからお年寄りまでみんなで飲める“すごい”お茶です。緒方さんが作る麦茶は世界的にポテンシャルが高いので、そこも協業できればいいなと思っています。
お客様が欲しいものを形にし、社会課題を解決する
――今回の協業を振り返り、あらためてオープンイノベーションに取り組む価値を教えてください。
緒方 弊社には「日本の心を育み、豊かで生き生きとした生活を創造する」というビジョンがあります。
ただ、海外でビジョンを聞かれたときに、そのまま話しても伝わらなかったので「私たちのお茶を飲んでいただいて、世界中の人が幸せになると嬉しい」と翻訳していたんですね。それがそのまま、今回の協業テーマになりました。
今は簡単にものを作れて売買できる時代ですが、本当にお客様が欲しいものを作らないと意味がありません。その意味でも、今回の協業はものづくりに対する姿勢を学ぶ良い機会になりましたし、「お客様の声には必ず答えがある」ことを証明できたと思っています。
今後も固定観念にとらわれることなく、ゼロベースでの挑戦を加速させたいですね。
バルドゥッチ 緒方さんとは、オープンイノベーションを通して、おばあちゃんのレシピにモダンな風を吹き込み、「お客様の欲しいもの」を形にできたと思っています。
お客様の需要は時代と共に変わります。それに応えていくための、答えを導き出せるのがオープンイノベーションの価値。
これからの社会は、人口減少や少子化で、女性たちはもっと活躍する世の中になると思いますし、女性も男性も健康で幸せに生きていくことが重視されるようになるでしょう。
今回の協業がその社会課題解決のきっかけになれば嬉しいですし、ストレス社会を生きるすべての人を癒し、健康と幸せの応援につながればと思っています。
社名 | 三栄興産株式会社 |
設立 | 1965年4月 |
本社 | 佐賀県唐津市相知町相知2635番地1 |
代表者 | 代表取締役社長 緒方 哲哉 |
事業概要 | 健康茶・麦茶・健康食品の製造業 |
URL | http://www.skk-sanei.co.jp/ |
社名 | 株式会社バルドゥッチ |
設立 | 2014年8月 |
本社 | 東京都渋谷区富ヶ谷2-34-21 |
代表者 | 代表取締役社長 バルドゥッチ 淳子 |
事業概要 | 日本発デリケートゾーンのお手入れブランド「トレスマリア」の商品開発・運営 |
URL | https://www.tresmaria.com/ https://tresmaria.shop-pro.jp/ |

学校卒業後ホテルマンとしてバンケット、ブライダルの仕事に従事。2000年三栄興産株式会社入社。社内で焙煎、包装等の製造工程を経験した後、国内外の営業活動に従事。お得意先様のご意見(ニーズ)を活かした商品開発に取り組む。2014年代表取締役に就任。日本では麦茶を誰もが知っているが、海外でほとんど知られていないことに着目し、MUGI-CHAがSUSHI、TEMPRAのように世界で伝わる飲料になれるように精進中。

米国UCバークレーエクステンション卒業後帰国。商社、大手国産化粧品会社の国際部に所属し、世界の有名百貨店におけるブランドローンチや育成に従事。グローバル体験を通じて日本の美容の盲点に着目し、2017年日本発デリケートゾーンのお手入れブランド『トレスマリア』を設立。現在、伊勢丹新宿店など著名百貨店を中心に15店舗にて展開中。『心や身体と向き合うことで、女性をもっと健康で幸せに』をモットーに活動中。
