目次
・一流ブランドの在庫が、アップサイクルで生まれ変わる
・若手クリエイターが一流ブランドの背景に、新しい価値を乗せる
・若手社員全員が「サステナブルに取り組むべき」と回答
オープンイノベーションで世界中に感動を与えるような体験や新しいライフスタイルの創造に挑戦
―2社が出会うきっかけとなったのは三喜商事のアクセラレータープログラムでした。どのような背景で導入されたのしょうか。
田尾 三喜商事は1956年の設立以来、ヨーロッパやアメリカの一流ファッションブランドを、日本に輸入・販売・ブランディングすることで、ブランドが持つメッセージや文化を広くお届けしてきました。
しかし、コロナ禍で人々の生活様式や価値観の多様化は加速しています。そこで、オープンイノベーションで世界中に感動を与えるような体験や新しいライフスタイルの創造に挑戦すべく、今回初めてアクセラレータープログラムを導入しました。

―ストーリーアンドカンパニーが三喜商事のアクセラレータープログラムに応募した理由を教えてください。
細川 弊社はいろんな企業とのコラボレーションで、共感でつながる体験のシェアリングサービス「AND STORY(アンドストーリー)」を展開しています。その一環で、東急不動産と商業施設を活用した新しい取り組みを模索していたときに、着目したのがファッション業界の課題でした。
コロナ禍で大きな打撃を受けた洋服専門店や百貨店が、改めて問われたのは「リアルの価値」。リアルで遠慮されたのは「エンタメ型の消費」ですが、止めてはいけないのは「生産型の体験」です。
つまり、新しい価値を生み出すこと、その価値を提供することは止めてはいけない。そう考えていたときに見つけたのが、三喜商事のアクセラレータープログラムでした。
三喜商事の取り扱うファッションブランドは、本物の一流ブランド群なので、その洋服を活用して新しい体験を作れたら、大きな価値を生むのではないかと思い、応募しました。
田尾 我々が細川さんと組みたいと思った一番の理由は、協業案に魅力があったのはもちろんのこと、細川さん自身がファッションブランドを立ち上げて、ものづくりをした経験があったからです。私だけでなく、メンバーもビビッときましたね。
三喜商事が扱うブランドを単なるリソースとして見るのではなく、本物であることを理解してくれていたし、リスペクトも感じられた。だから、細川さんのコミュニティ作りと我々の本物作りでシナジーを生み出せるのではないかと期待しました。
一流ブランドの在庫が、アップサイクルで生まれ変わる

―細川さんは、三喜商事に対してどのような協業案を提案したのでしょうか。
細川 日本では年間約29億着の洋服が販売されていますが、その半数に当たる約15億着が売れ残って処分されるという、深刻な実態があります。それは、私が20年前に小さなブランドを立ち上げた頃から、解決されていない課題なんですね。
思いを持った作り手をはじめ、生産や流通、販売に関わる全ての人は、誰一人在庫処分を望んでいません。だけど、ファミリーセールやアウトレットを経ても、最終的にミスマッチの商品が残り、処分されてしまう。
そこで、この課題を解決するために、東急不動産とミシンなどを扱うブラザー販売の協力のもと、サステナブルなファッションコミュニティ「NewMake(ニューメイク)」を表参道・原宿に立ち上げました。
「NewMake」で実現させるのは、ブランドから提供いただく在庫商品やサンプル品に、若手クリエイターが新しい価値を乗せて生まれ変わらせる「アップサイクル」です。
アップサイクルに必要なミシンやプリンターなど、必要な資材は無料で使用できますし、クリエイターたちはアップサイクルした商品を世界に発信し、未来の可能性を拓くことができます。

この構想に共感いただいた三喜商事さんから、イタリアの一流ブランド「MISSONI(ミッソーニ)」の商品をご提供いただくことになり、今回「NewMake」初の取り組みとして、5名のクリエイターにアップサイクルをしてもらいました。
田尾 細川さんの提案を聞いて、「NewMake」の取り組みに共感するブランドや個人を1人でも2人でも増やせたら、とてもサステナブルなコミュニティになると思いました。
それに、ミッソーニに新しい価値を乗せて、新しい商品として蘇らせるのはとても面白いですよね。本国も日本のサステナブルな取り組みに関心を持てば、世界中で同時多発的に広められる可能性がありますし、社会問題解決につなげられるかもしれないと思いました。
若手クリエイターが一流ブランドの背景に、新しい価値を乗せる

―ミッソーニを個人のクリエイターがアップサイクルする機会は、今までほとんどなかったと思います。クリエイターにとっても、価値ある取り組みと言えそうですね。
細川 その通りで、初回にミッソーニをご提供いただけたのは「NewMake」にとっても大きな価値。ミッソーニは著名ですが低価格のブランドではないため、名前を知っていても直接見たことや触れたことがない若手クリエイターは少なくないと思うんです。
ブランドが伝えたいメッセージや立体的で美しいデザインは、手にとって触り、実際に着てみないと伝わりません。今まではその機会がなかったかもしれないけれど、「NewMake」に来ればミッソーニの洋服を見て、触って、ブランドに込められた背景や思いを知って、自分の価値を乗せることができる。
実際、5名のクリエイターは「こんな風に編まれたニットを初めて見た」「どうやって編んでいるかわからない」と、最初こそ戸惑っていましたが、世界に一つしかない素晴らしい作品を作ってくれました。

田尾 クリエイターにとっては、ミッソーニとの間接的なダブルネームですし、本国から「新しいコレクションにしたい」という話がもし出てくるようになれば、大きな可能性につながります。
―ブランドとクリエイターの両方にとってチャンスになるのですね。初回の5名は公募で集めたのでしょうか?
細川 今回は、学生を含めた未来のデザイナーやクリエイターにお声がけしました。現在は広く会員を募集しており、応募は400名近くにまで増えています。
三喜商事さんには今後、ミッソーニに次いでOLD ENGLAND(オールド イングランド)もご提供いただけることになっていますし、他社のブランドも含めてコミュニティの輪を広げたいと思っています。
若手社員全員が「サステナブルに取り組むべき」と回答
―三喜商事は初めてのスタートアップとのオープンイノベーションに取り組まれたことになりますが、難しかったことはありましたか?
田尾 細川さんの協業案が具体的だったので、苦労よりも楽しさやワクワク感の方が大きかったです。どのブランドを提供するのか、実証実験のKPIや中長期的な計画はどうするのかというミーティングを重ね、採択から3ヶ月後の「NewMake」オープン時には、ミッソーニのアップサイクル商品を展示できました。かなりスピード感を持って取り組めたと思います。
細川 イタリアの一流ブランドにアップサイクルの許可を取るのは簡単ではなかったはずなので、とてつもないことをしていただいたと思っています。加えて、サステナビリティがいかに重要かを経営陣に伝えるために、社内調査をしてくださったんですよね。
田尾 そうですね。協業前、入社4年目までの若手社員34名に対して、サステナブルな取り組みは必要かどうかの調査したところ、全員が「サステナブルに取り組むべき」と答えました。
アイデアを提案する前のめりな姿勢が多く見られ、若手社員のサステナブルに対する意識の高さは、経営陣を後押しした一つの要素になったと思います。
またミッソーニとは、これまで堅実に信頼を築いてきたことと、日本での取り組みを丁寧に伝えたこと、そしてミッソーニ自身もサステナブルな取り組みをしていたことで、価値観が合致したのが今回の取り組みにつながりました。
「NewMake」を若者が集まってエネルギーを燃やす場所に

―今後はどのような展開をお考えでしょうか。
細川 2つあって、1つはさまざまなブランドと提携し、在庫を「NewMake」にご提供いただいて、ブランドのPRにつなげること。
ファッションは値段と見た目で評価されることが多いのですが、最も大切なのはブランドの背景です。「NewMake」に集まる作り手がブランドの背景を知り、その上でものづくりをしてメッセージを届けていく。ブランドからの一方通行だった発信を、クリエイターと一緒に届けたいと思っています。
2つ目は、「NewMake」を若者が集まってエネルギーを燃やす場所にすることです。表参道・原宿エリアにある「裏原宿」は20年前、若者たちの創造力や熱量で活気づいた場所でした。それが、グローバルブランドが立ち並ぶ場所に変わって若い人が入り込む余地が減り、さらにコロナ禍で元気がなくなってしまった。
だから「NewMake」を新しい価値やストーリーを世界に発信する拠点にし、若手クリエイターには、3年後5年後のスターになってもらいたいと思っています。
田尾 三喜商事は「本物にこだわり、追求し続ける」カルチャーがあり、「NewMake」は若い人たちが本物に触れることで、その素晴らしさをアピールできる場でもあります。ミッソーニだけでなく、次に控えるブランドも含めて、多くの若い人たちに本物を体感・体験してもらいたいですね。
オープンイノベーションは新しいネットワークやアイデア、知見を得るには非常に貴重な場です。若手を中心にその機会を提供できるよう、今後も積極的に取り組んでいきたいと思っています。
社名 | 三喜商事株式会社 |
設立 | 1956年2月6日 |
所在地 | 東京本社:東京都港区北青山 2-14-4 the ARGYLE aoyama 12階・13階 大阪本社:大阪市中央区瓦町3丁目3-2 |
代表者 | 代表取締役社長 堀田康彦 |
事業概要 | ・ヨーロッパを中心とする、海外のファッション製品の輸入卸、小売、および輸入代理店業務 ・ファッション製品の企画、製造、卸、および 小売業務 |
URL | https://www.sanki-brand.com |
社名 | 株式会社ストーリーアンドカンパニー |
設立 | 2016年 |
所在地 | 東京都千代田区神田練塀町3 富士ソフトビル12F |
代表者 | 代表取締役社長 細川拓 |
事業概要 | 体験シェアリングサイト『AND STORY』、ファッションコミュニティ『NewMake』運営 |
URL | http://storyandco.co |

1988年三喜商事株式会社に入社。商事部に配属、欧州素材を国内アパレル会社へ輸入・販売業務を行う。2004年より英国ブランドのライセンス事業にて企画・生産に携わり、国内の百貨店、専門店への販売及びライセンス管理に従事。2009年〜2018年までレデイステキスタイル部(旧商事部)にて輸入素材の販売やOEM先との取り組みも行い、2019年より現第二事業部にて、既存事業の強化、新規ブランド導入、新規事業の創出に従事。

高校卒業後、NY州立大学 に進学。2001年在学中にアパレルブランドを創業。 帰国後、早稲田大学に編入。その後、リクルートに入社。進学事業(受験サプリ)・ブライダル事業 (ゼクシィ)の営業・企画を経験し、16年株式会社STORY&Co.創業。
