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そのうちの一社である、名古屋を拠点にケーブルテレビ事業や映画事業を営むスターキャット・ケーブルネットワークとマッチングしたのは、東京でVR映画製作や日本初のVR映画祭を運営するCinemaLeapだ。具体的にどのようなプロジェクトを立ち上げているのか。スターキャット・ケーブルネットワークの鈴木 健之氏とCinemaLeapの代表取締役 大橋 哲也氏に話を伺った。
新しい映像体験をつくり、市場を確立させる

(※1 オープンイノベーション:自社の有する経営資源や技術に頼るだけでなく、社外と連携することにより、革新的なビジネスやサービスを共創していく仕組み)
既存の映画事業はもっとスケールさせられる
―スターキャット・ケーブルネットワークの強みと、愛知県のビジネスマッチングプログラム「AICHI MATCHING 2020(※2)」に参加した背景を教えてください。
鈴木: スターキャットは名古屋を拠点に展開するケーブルテレビ会社です。特徴は、ケーブルテレビの放送事業とインターネットを提供する通信事業に加えて、映画の宣伝・配給・興行を手がける映画事業も営んでいること。この3つの事業を通じ、「生活情報メディア」になることを目指して成長し続けてきました。

一方で、課題として浮き彫りになったのは、テレビ市場は今後拡大が難しく、新たな事業の柱が必要になったことです。そこで昨年、新規事業を考えるクリエイティブ事業部を立ち上げ、ワークショップ等を通じで新規事業の検証と検討を重ねました。
その結果、既存の映画事業はもっとスケールさせられると判断し、「新しい映像体験」を作るパートナーを探そうと、今回のビジネスマッチングプログラムに参加しました。
(※2 Aichi Matching 2020:愛知県内企業と全国のスタートアップのマッチングを生み出す「Aichi Matching 2020」は愛知県内企業の経営資源と、全国のスタートアップのアイディアやサービスや技術を繋ぐビジネスマッチングプログラムです。)
新しい市場を確立させるためにはパートナーが必要
―CinemaLeap(シネマリープ)がスターキャットに応募した理由を教えてください。
大橋: CinemaLeapは、従来の映画の枠組みを飛び越えた「新しい映像体験」の創出を目指して、日本初のVRに特化した国際映画祭「Beyond the Frame Festival」の運営やVR映画の製作・配給を行なっている会社です。

VR映画は、日本ではまだ聞き馴染みがないと思いますが、世界の3大映画祭でVR部門が新設されるなど、未来の映画として世界的に注目され始めている新しいエンタメ市場なんですね。
ただ、市場が新しく流通も整っていないため、クリエイターが個人でVR映画を制作するのも、それを我々1社だけで支えるのも現実的ではありません。
コンテンツに投資して作品を流通させ、新しい市場を確立させるためにはパートナーが必要。そこで、新しい映像体験を作ろうとしているスターキャットに応募しました。
―双方の目的が合致したのですね。
鈴木: そうですね。CinemaLeapと出会う前に、「新しい映像体験の映画祭を開催する」というビジョンを、部内をはじめとして社内で話していたんです。だから、大橋さんと出会って「CinemaLeapと新しいVRの世界に飛び込みます」と伝えると経営層も即決で送り出してくれました。
というのも、映画館等の映画市場は変容していくと思われ、新しい映像体験へのチャレンジは不可欠だったからです。
VR映画は市場ができていないからこそ、制作から配給、興行まで一気通貫で手がける垂直ビジネスを小さく立ち上げれば、新しく市場を作っていけるのではないか、これはまたとないチャンスなのではないかと思いました。
2022年、世界の映画祭でのノミネートを目指す
オープンイノベーションで生まれた新規事業とは
―協業による具体的な新規事業の取り組み内容について教えてください。
鈴木: VR映画の作り手を発掘し、VR映画を製作するプロジェクト「STARCAT VR LAB」を立ち上げました。具体的には、2021年度中に20分程度のVR映画を1作品作り、2022年に開催される世界各国の映画祭に出品して、ノミネートを目指します。

大橋: そこで、まずは2021年5月にVR映画監督として、製作経験は問わずに幅広いクリエイターから実写のVR映画企画を募集しました。その中の1企画を選定してVR映画を製作していくのですが、その過程を発信するアンバサダーも募集したいと考えています。
※アンバサダー募集について:https://starsquare.net/vrlab/ambassador-oubo/
初年度となる 2021 年度中に実写 VR 映画を制作。制作に際して、企画を幅広くクリエイターから募集し、応募の中からひとつの企画を選定します。また、広報活動を行っていただくアンバサダーを募集し、VR 映画制作過程の情報を発信していき、翌2022年度より世界各国の映画祭へ出品、ノミネートを目指します。
➤プロジェクト詳細ページ: https://starsquare.net/vrlab/
―VR映画を制作するだけでなく、製作過程も発信して認知を広めていく。
大橋: そうです。VRに興味を持った人が参加できるワークショップも企画しているので、できるだけ多くの人をラボに巻き込んでいきたいと考えています。
―経験を問わず、VR映画監督を募集した理由はありますか?
大橋: そもそもVR映画は新しいジャンルなので、経験者に絞るとかなり限定的になってしまいます。また、従来のフレームの枠内で表現する映画を製作した経験があっても、360度の空間を演出するVR映画作りは、考え方や視点、作り方が違うんですね。
たとえば、見る人の視点を誘導できるよう音や演出を工夫したり、見ている人がキャラクターを助けることで物語を進めたりといった体験設計が必要。その観点から言えば、演劇やゲームなどのクリエイターとも親和性が高い可能性があるので、今回は経験を問わず、幅広いクリエイターを求めました。
VRゴーグルの開発は世界中で加熱。キャズムを超える期待が高まる

―VR映画が一般的になるには、VRゴーグルの浸透度と進化が鍵を握るように思いますが、そこはどう捉えていますか?
鈴木: まさに、VR業界はゴーグルが高価で重いといった問題があって、キャズムを飛び越えられずにいました。でも、そろそろ飛び超えられそうな期待感が高まっているんです。
ゴーグルを付けずにVRを楽しめる「ドーム型の施設」も出始めていますし、FacebookやAppleがVR/AR市場に参入する予測等は大きいです。
大橋: そうですね。2015年頃は、高額なPCと高額なVRヘッドセットを買う必要があったのが、今は5万円を切るデバイス1個で始められます。
しかも、FacebookがOculusでのMAUを1000万まで増やすと明言していたり、AppleやVR市場が急成長している中国企業などが、VRやARのヘッドセット開発に注力しています。
ヘッドセットが重い、長時間の体験に不向きといった課題を解決したデバイスの誕生は時間の問題でしょう。各社が「最初のiPhone」を目指して開発を加速させているので、鈴木さんが言うようにいずれキャズムは超えると思っています。
プロジェクトを進めるために、結果を優先し協業を進める
―最初の採択から即決でプロジェクトが始まったとのことですが、協業にあたって難しかった点はなかったのでしょうか?
大橋: コンテンツを大事にしたいという思いが共通していましたし、一緒にゼロから新しい市場を作ろうという熱量も目的も合致していました。カルチャーギャップなどもなかったので、難しい点はなかったです。
VR市場の中でも、特にVR映画はまだ流通やマネタイズの方法が確立していないので、最初から大きな収益は見込めません。だから最初からお金の話が出てしまうと破綻しやすいのですが、鈴木さんが「挑戦する価値がある」と社内に通してくれたのはありがたかったです。
鈴木: 協業は、お互いに「やってみよう精神」とワクワク感、情熱がないとうまくいかないと思います。とはいえ、資金面はシビアに見られるので、その段取りだけは調整しながら丁寧に進めました。
―よく、協業で社内の巻き込みが難しいという話がありますが、その点はいかがだったのでしょうか。
鈴木: 今回はまずは、CinemaLeapとの協業を進めて、結果を出すことを優先し、部内の限られたメンバーから開始しています。ある程度結果が出て、それが認められたら、社内の他の部署を巻き込んでいくのが理想だと思っています。
日本を代表する実写のVR映画を作り、世界に発信する

―まずは、2022年の映画祭への出品とノミネートが目標だと思いますが、その後の展開について教えてください。
鈴木: スターキャットとしては、しっかりとしたVR映画を作ることを主題に置いて、プロジェクトを進めていきたいと考えています。映画は総合芸術でアートの要素もあります。いい作品を作って高く評価されたら、そこに価値がついていくと考えてます。
だから、今回の1作品の製作で終わらずに、2本目3本目と作っていきたいですね。そのためには資金の調達が必要なので、協賛企業や賛同者を集める活動も徐々に始めていきたいと考えています。
大橋: 日本のVRアニメーションは、カンヌやベネチアの映画祭でノミネートした実績があります。一方で、今回製作しようとしている実写のVR映画は、作り手が少なく日本を代表するような作品はまだありません。だから、「STARCAT VR LAB」から日本を代表する実写のVR映画を生み出したいですね。
目指すのは、アジアで最もVR映画のクリエイターを支援し、VR映画を各国の映画祭に出品している台湾の「VR FILM LAB」のような存在に、「STARCAT VR LAB」を育てていくこと。
日本で優れたVR映画を作って世界に発信し、新しいエンタメ市場と商流を作りたいと思っています。
社名 | スターキャット・ケーブルネットワーク株式会社 |
設立 | 1985年2月13日 |
資本金 | 26億8,500万円(2021年7月1日現在) |
代表者 | 松下 寿昭 |
事業概要 | 有線テレビジョン放送事業、電気通信事業、映画事業 |
URL | https://www.starcat.co.jp/ |
社名 | 株式会社CinemaLeap |
設立 | 2019年04月 |
所在地 | 東京都品川区西五反田1-13-7マルキビル503 |
代表者 | 大橋哲也 |
事業概要 | VR映画制作、VR映画配給、縦型映画制作、企業の動画広告制作 |
URL | https://cinemaleap.com/ |
