12.8 C
Japan
日曜日, 5月 31, 2020

求めるのは“飛び地”。90年以上続く既存事業とは違う領域で、新しい事業を始めたい|アネスト岩田が挑むオープンイノベーション

1926年に創業し、日本の塗装用機械器具や空気圧縮機を90年以上リードし続けてきたアネスト岩田。世界初となる製品をいくつも開発してきた同社は、世界20カ国以上の拠点と1700名を超える従業員、そして35社のグループ会社を持つ企業へと成長を続けている。そんな同社は、今回初めてアクセラレータープログラムを導入することを決めた。その背景にあった思いとは。上席執行役員の大澤健一氏と執行役員の三好栄祐氏に話を伺った。

90年以上、あらゆる産業で使われている製品を作り続けてきた強み

アネスト岩田が挑むオープンイノベーション

―塗装機器や空気圧縮機であらゆる産業に貢献し続けているアネスト岩田ですが、あらためてこれまでの歴史や強みを教えてください。

大澤:当社の創業は1926年。関東大震災から3年が経ち、元号が大正から昭和に変わった年でした。当時の日本は、トヨタ自動車や日産自動車などのメーカーが存在しておらず、自動車を海外から輸入していたのですが、そのとき一緒に国内に入ってきたのが、自動車を整備するための道具です。

アネスト岩田が挑むオープンイノベーション
アネスト岩田 上席執行役員 大澤健一氏

道具の中には、自動車を補修する際に塗料を塗布するスプレーガンがあり、創業者はそれに着目。「日本初となる国産のスプレーガンを作ろう」と、アネスト岩田(当時は岩田製作所)は誕生しました。

現在、スプレーガンは国内シェア70%以上であり、静電スプレーガンや回転塗装用ロボットシステムなどが、家電や自動車、建築、航空機などさまざまな領域の塗装に貢献しています。

アネスト岩田が挑むオープンイノベーション

三好:他には、塗料以外のすべての液体に対応する液圧機器。たとえば自動車の内装に使う接着剤の塗布や、食品工場で食用油の塗布などに使われています。他事業として、国内小形圧縮機シェア約30%の「圧縮機事業」。自動車を始め、食料品や製薬の製造業から、病院内の治療機器用エアー、鉄道や電動バスのブレーキ及びドア開閉システムなどに使われています。

そして、空冷式オイルフリースクロール真空ポンプの先駆けとなった「真空機器事業」。半導体やフラットパネルディスプレイ、先端技術施設、吸着搬送、食品の真空包装、真空断熱の魔法瓶など、研究施設から生産現場まで幅広く使われているのが特徴です。

これらの事業を展開するアネスト岩田の強みは、90年以上かけて培ってきた高い技術力とシェア、世界20カ国以上のグローバル拠点及び販売・サービスネットワーク。特に、世の中に存在する“塗料を塗装された製品”にはスプレーガンの存在が不可欠のため、長い歴史の中でバージョンアップを繰り返しながら、あらゆる産業に支持されてきました。

既存事業だけでは、立ち行かなくなる危機感

―今回、アクセラレータープログラムを導入しようと思った背景には何があったのでしょうか。

三好:簡単に言えば、既存事業だけでこの先も成長し続けることには限界があるという、強い危機感があったからです。

大澤:90年以上、塗装機器や圧縮機の事業を展開してきましたが、世の中の変化は著しく、塗装機器や圧縮機を取り巻く環境も大きく変わってきています。というのも、有機溶剤である塗料は、塗装する人にも大気にも優しいものとは言えませんし、圧縮機は電気エネルギーを使用するためCO2を排出してしまうからです。

もちろん、省エネや騒音、振動、臭気、水質など事業活動で発生するすべての環境負荷を低減する努力は続けてきましたが、我々が作っている製品は世界的なテーマである「CO2の削減」と相反する要素があることは否めません。

三好:また、国内トップシェアを誇る製品を作っているとはいえ、人口減少によって使用する人が減っていけば、市場はそれに伴ってシュリンクするのは確実です。既存事業をどれだけ改善しても、若い世代が塗装を職業に選ばなくなる可能性もありますし、塗装自体が全く違うものに変わる可能性もあります。

アネスト岩田が挑むオープンイノベーション
アネスト岩田 執行役員 三好栄祐氏

そういった危機感があるため、ドローンによる塗装の可能性を探る研究や、環境に優しい薬品の開発、より使いやすい製品にするための人間工学などに取り組んでいますが、それだけではダメだと思っているんですね。実現させたいのは、既存の枠組みを超えて、環境問題や社会問題に対して全く違う角度からアプローチし、新たな領域で事業の柱を作ること。

しかし、社内でアイデアを出そうとしても限界がありました。“飛び地”のアイデアで新規事業をつくるのではなく、スプレーガンや圧縮機など既存事業の延長線上で新しい製品を作ってきた我々だけでは、新しい発想が生まれなかった。

だから、アクセラレータープログラムを通して、我々が持ち合わせていない「スタートアップの新しい発想や考え方」を若手メンバーに知ってもらい、将来的な新規事業につなげたい。スタートアップとの協業をきっかけに、アネスト岩田にも起業家精神を持つ若手を増やしたいと考えました。

アネスト岩田が挑むオープンイノベーション

今すぐの収益は考えていない。既存事業とは全く違う領域を検討したい

―既存事業とのシナジーではなく、まったく新しい領域にチャレンジしたいということでしょうか。

大澤:完全に“飛び地”の事業でいいと考えています。たとえば、「貧困をなくす」という社会課題に対して、我々だけではどんなアプローチが考えられるのか思いつきません。同じように、農業や林業、漁業などの問題に対しても、どんなアプローチができるのか想像もできない。

そういった、製造業の我々が思いつかない領域で新規事業を検討したいので、応募いただくスタートアップの領域は幅広い方がありがたいと思っています。

―飛び地の新規事業となると、時価総額に影響を与えないといった理由から、トップの理解を得るのが難しいかもしれません。

大澤:もちろん、あまりに飛び地だと理解されるまでに時間がかかってしまうかもしれませんが、新しい価値を生むアイデアは、最初からその可能性や将来的な収益を具現化して説明できるものではありません。そこは我々の頑張りどころだと考えています。

それに、今回の取り組みで「今すぐ収益性のある事業」を生み出したいというよりも、新しい発想で新規事業を作る企業文化をつくりたいと考えているんですね。

その企業文化をつくるためには、実際に新しい発想でビジネスを立ち上げている起業家やスタートアップと直に触れるのが一番です。半歩先、一歩先を行くスタートアップの人たちから弊社の若手メンバーが刺激を受け、発想が豊かになっていくことで少しずつでも会社を変えていきたい。だから、スタートアップの皆さんには、どんなアイデアでも構わないのでぶつけていただけると嬉しいです。

90年以上かけて培ってきた技術力や資金、人的リソース、20カ国以上に展開するグローバル拠点や販路など、使えるアセットはいくらでも使って構いません。それらを利用した上で、既存事業とは全く関係ない、環境問題や社会問題を解決できるような事業を、協業して創出できればと思っています。

スプレーガンの世界シェア2位を誇る「アネスト岩田」が、共創スタートアップ企業を大募集!|アネスト岩田アクセラレーター2020
執筆
田村 朋美 
2000年雪印乳業に入社。その後、広告代理店、個人事業主を経て、2012年ビズリーチに入社。コンテンツ制作に従事。2016年にNewsPicksに入社し、BrandDesignチームの編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集として活動中。
PORT編集部https://port.creww.me/
PORT by Crewwは、Creww株式会社が運営する、社会課題をテーマに、新規ビジネス創出を目指すスタートアップ、起業家、復業家、 企業をつなぐ挑戦者のためのオープンイノベーションメディアです。

Featured

新しい仕事と「STARTUP STUDIO」に同時にコミット。何歳になっても挑戦し続けたい

社会課題を解決するためのアイデアと、その事業を作り出したい個人をつなぎ、6ヶ月でプロダクトを作って事業会社に売却することを目指す「STARTUP STUDIO」。第一回目のプロジェクト「スマホでありがとうを届けるチップサービス『petip』」の立ち上げに参加したのが、Reproで働く金卓史氏だ...

社長秘書をしながら、3つの新規プロジェクトを牽引。松竹を変える起爆剤へ

演劇や映像をはじめ、総合エンターテインメントを提供する松竹。銀座にある歌舞伎座が象徴的だが、伝統を継承しつつ、実は長年新しいコンテンツや新しい体験を追求してきた、「進化し続ける企業」の一つだ。そんな松竹がグループ各社を巻き込み、2019年に初めてアクセラレータープログラムに挑戦。そのプロジェクトメンバーの公募に自ら手を挙げ、本業がありつつも3つのプロジェクトを推進したのが、秘書室・政策秘書の平岩英佑氏だ。平岩氏はどんなことを考え、どのようにプロジェクトを進めていったのか。話を伺った。

コラボに挑むスタートアップに期待する「媚びない」姿勢

※この記事は、2016年2月8日、creww magagineにて公開された記事を転載しています。

タテからヨコへ変わりゆく世界

以前、「会社はコミュニティ化し、仕事はプロジェクト化する」という記事をエントリーしました。あれから1年。2020年という、世界と日本にとって節目となるであろうこのタイミングで、急激に変わりゆく世界を私なりに考察し、「タテからヨコへ変わりゆく世界」という概念でまとめてみました。昭和〜平成を「タテの世界」。令和を起点とする未来を「ヨコの世界」と定義しています。 タテの世界 タテの世界とは、際限なくタテに伸びていく階層構造(ヒエラルキー)です。上と下の概念は、主従関係や強制力と相性が良く、約70年前の世界大戦時においては「国家(軍隊)」、60年前の高度経済成長期は「会社」が代表的な組織構造でした。 上から下へ働く重力は中央集権と金融資本主義を加速させ、誰かや何かとの比較を肥大化させるエンジンとなります。仕事はニュートンのリンゴのように上から落ちてきます。集団の中で、リンゴをキャッチする最も”課題解決”が上手な人間が上へ上へと駆け登り、管理がしにくい個性と美意識は同調同質の圧力に潰されていきます。 タテ型経営の行き過ぎによってビジネスパーソンは会社の歯車と化し、コンプライアンスの徹底によって決められたことしかできない、やらない思考停止状態に陥ります。地球においては資源の奪い合いと温暖化が加速化し、富と機会の二極化は国家の右傾化を招きます。これらは全て、際限なくタテに「伸び切ってしまった」社会のひずみだと感じるのです。タテを否定しているわけではありません。ただし、上と下の距離感はもはや限界に近づいているのではないでしょうか。