この記事では、地方都市に存在するDX課題を整理した上で、いくつかの解決方法を提示します。実際に地方都市や海外でDXを進めた事例やコロナ禍によるDX推進の影響もみていきましょう。
・課題を解決する方法
・DX推進の事例
・コロナ禍によるDX推進の影響は?
・オープンイノベーションでDX課題を解決
地方のDX推進への課題とは

地方都市のDX課題として、「人材不足」や「変化をためらう」ということが挙げられます。「DXを推進するにも、なにから始めたらいいのかわからない」という地域の悩みも多いでしょう。
デジタルを活用して、ビジネスに変革をもたらすDX推進の遅れは地方のほうが顕著です。
そこで、課題解決に向けて2つの地方のDX推進への課題について、その内容を詳しく解説します。
人材不足
DXを推進する上で、ITエンジニア人材が欠かせません。しかし、経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によると、2018年時点ですでにIT人材は22万人不足しており、2030年にはその数が45万人にも達するかもしれないとしています。
大手企業では、この事態に対応するために初任給を引き上げるなど大卒人材を囲みこむ動きを見せていることから、地方企業はIT人材の確保がますます難しい状況です。
変化をためらう
中小企業庁が発表している「2020年版中小企業白書」によると、中小企業経営者の「70代以上」の占める割合が年々増加する一方、「40代以下」の構成比が減少傾向にあり、中小企業経営者の高齢化が深刻です。
本来、地方の中小企業こそ新しい技術を取り入れて過疎化などの問題に対応していかなくてはなりません。しかし、トップがITやDXなどの大きな変化をためらう状況だと、DX推進は難しいのではないでしょうか。
課題を解決する方法

上述した地方のDX課題を解決するには、次の3つの方法が挙げられます。
- 自治体と連携して人材確保
- システム刷新の必要性を社内で共有
- オープンイノベーションを活用
DXは地方企業においても重要な経営課題の1つでもあり、経営層など組織全体で取り組む必要があります。ただし、地方ではまだ尻込みしている企業も少なくありません。ここでは、地方のDX課題を解決する方法について、その内容を詳しくみていきましょう。
自治体と連携して人材確保
北海道庁や各県庁では、地域への居住をうながすためにUターン・Iターン相談会を定期的に開催しています。そこで、各自治体と連携して人材確保に乗り出すというのもひとつの方法です。
また、宮崎県の地域商社は地域おこし協力隊制度も活用しながら、IT人材の地域産業・行政におけるDXを推進しています。「地域おこし協力隊」とは、1年〜3年の任期で「地域協力活動」をおこないつつその地域への定住・定着を図る取り組みです。
このように、自治体と連携し、各制度を活用することでDX推進に関わる人材確保にもつながるのではないでしょうか。
システム刷新の必要性を社内で共有
地方の中小企業では、DX推進以前にデジタイゼーションやデジタライゼーションすら進んでいないケースも多いです。これは、課題でも取り上げたように、経営者や従業員が変化をためらう傾向や変化に対応しきれていないことが主な理由ではないでしょうか。
最新テクノロジーの恩恵を受けることができない状態(システムのレガシー化)が続くと、高額な保守コスト、サポート切れによる運用リスク、ユーザーからの要望への対応遅延などのデメリットにつながります。システムを刷新しないことにさまざまなデメリットがあることを社内に浸透させ、危機感を持つことからDX推進の第一歩を踏み出してみましょう。
オープンイノベーションを活用
DXを推進するにあたって、企業の閉鎖的な体質や人材確保がハードルになります。そこで、地方におけるDX推進に役立つのが、高いIT技術を持つスタートアップやIT企業から新しい知識や技術提供を受け、新たなイノベーションを共に創出する「オープンイノベーション」という手法です。
他社と共同で事業を進めていくオープンイノベーションの実施により、自社内だけでは生み出せないようなアイデアの創出につながります。さらに、新たに創出されたリソースを次のイノベーションに活用することで、企業の継続的な成長にもつながるのです。
これまで、情報をクローズすることが主流であった日本企業でも、オープンイノベーションを活用して成果を出す企業も増えてました。変化の激しい現代社会において、顧客ニーズに応え続けるためも、オープンイノベーションによって常に新しいアイデアや技術を取り入れることが必要です。
DX推進の事例

DX推進の重要性は理解しながらも「何から着手すべきかわからない」「自社の取り組みが正しいかを判断できない」といった悩みを持つ企業も多いでしょう。消費者のニーズが多様化する現代社会においては常に新しい情報を取り入れ、実践しなければなりません。
そこで、実際に地方都市ではDX推進をいかに進めているのか、民間企業や地方自治体、海外の事例をそれぞれ紹介します。すでにDXを導入する企業がどのように活用しているかを参考にし、自社での取り組みの参考としてみてください。
民間企業の取り組み事例
地方の金融機関であるふくおかフィナンシャルグループは「第6次中期経営計画」で基本戦略の中にDXの推進を掲げています。その一環として、ITを含む総合コンサルティング業を営むアクセンチュアと金融エコシステム「iBank」を立ち上げました。
独自のモバイルアプリ「Wallet+」を開発することができたのも、異業種であるアクセンチュアのモバイルアップスタジオを活用することができたからこそでしょう。
地方自治体の取り組み事例
東洋大学の沼尾 波子教授は各地方自治体でのオンライン化がなかなか進まない要因として、”書類への押印が必要であることや、書類の記入方法が分からず、申請に当たり対面による相談窓口でやり取りしながら文書作成を行う必要があること、さらにシステム化に要する人員と財源の確保が難しいことなど”を挙げています(出典:自治調査会 ニュース・レター vol.023 【2020年11月15日号】 | 公益財団法人 東京市町村自治調査会)。つまり、民間企業と同様、自治体もDX推進には人材確保が課題です。
愛媛県では、自治体DX推進のためにデジタルプラットフォーム「デジラボえひめ(仮称)」を立ち上げることを発表し、首都圏企業・人材の取り込みや官民共創を目指しています。オープンイノベーションに近い形といえるのではないでしょうか。
海外での取り組み事例
宅配ピザで有名なドミノ・ピザではDX戦略として、場所の制約なくさまざまな端末からピザを注文できるデジタルプラットフォームを開発しました。デジタルプラットフォームはさらに開発・改良が加えられ、2016年にスマホアプリの「Zero Click」をリリースしています。
「Zero Click」は、アプリを起動して10秒待つだけで注文が完結する「手放し注文」機能を実装しました。その結果として、2019年の年間収益は2008年の約14億ドルの約2.5倍となる約36億ドル、株価は2010年1月~2018年7月まで3,600%以上の上昇を記録しています。
ドミノ・ピザはDX戦略を展開するにあたって、デジタル技術に精通した人材を最高デジタル責任者に任命しました。DXを推進するためには、最新技術の知見は欠かせません。
ITの知見が深い人材を責任者に据えることで企業全体の意識を高められ、DXの成功につなげた好例といえるでしょう。
コロナ禍によるDX推進の影響は?

コロナ禍によってDX推進は大きく加速しています。2020年12月に電通デジタルが発表した「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2020年度)」によれば、コロナ禍による影響でDX推進が「加速した」と回答した企業は5割に及びます。
事実、コロナ禍によってDXは7年早まったともいわれており、DX推進に大きな影響を与えたといってよいでしょう。ただし、DX推進の加速にともなって浮彫りになっている課題が「スキルや人材の不足」です。
DXが加速していく中で「育成できる人材が少ない」「社内で育成するための環境が整備されていない」などを理由に、人材確保に手間取っている企業が増えています。さらに若者の流出が激しく、資金力が乏しい地方で人材確保や育成がDX推進の大きな課題となっていくでしょう。
参考:日本企業のDXはコロナ禍で加速するも推進の障壁はDX人材の育成 | プレスリリース
オープンイノベーションでDX課題を解決

観光の恩恵を受けていた地方経済は、新型コロナウイルスの流行によって大きなダメージを受けました。その一方、大都市に集中するリスクも露呈したことから、今後は人々の意識や志向が大きく変わる可能性があります。
コロナ禍によってDX化が加速して7年早まったともいわれ、今後は大都市と地方都市の快適さに違いはなくなるはずです。そのため、国内や海外の取り組み事例を参考にしながら、地方こそ迅速にDXを推進しなければなりません。
しかし、コロナ禍におけるDX推進の加速は、スキルや人材不足という新たな課題を浮き彫りにしました。DXを推進していく中で、人材不足などの課題を解決する手段のひとつがオープンイノベーションの活用です。
地方でDXを推進にあたって技術や人材確保に悩んでいる方は、ぜひオープンイノベーションの実施を検討してみてください。
