フォースタートアップス㈱ 執行役員 中村 優太氏
三井化学㈱ 理事 新事業開発センター長 善光 洋文氏
㈱みらいワークス 代表取締役 岡本 祥治氏
㈱三井住友銀行 成長事業開発部長 佐藤 正義
ValueとGrowthを生み出すオープンイノベーションとは?

オープンイノベーションについて、様々な経験を持っている登壇4社が、赤裸々な内容をディスカッションしました。
▶︎アウトサイドインとインサイドアウト
三井化学㈱ 善光氏:最初、オープンイノベーションについて、具体的なイメージはありませんでした。新しい製品を売ったり、人が集まるようなことをイメージしたのですが、そうなると材料メーカーはどのような形でオープンイノベーションができるのだろうか?と疑問を抱いていました。たどり着いた答えは、「アウトサイドインとインサイドアウト」。
アウトサイドインとは、例えば三井化学にはいろんな化学工場を有していますが、そこにセンサーをつけたり、AIを使って故障予測をしたりなど、スタートアップの技術を導入して既存事業を強化するものです。なので、新規事業ではないんです。
もう一つのインサイドアウトは、既存事業の延長線ではなく、新しい事業分野でスタートアップと協業していくことです。例えば自動車部品材料など、バリューチェーンがあることで強みとなっている分野では自社だけでもなんとかなるのですが、一歩既存の強みから外れる、メディカル分野や介護分野で新規事業を創出しようとなると、自社ではチャンネルがないためスタートアップと組むことが有意義になってくるんです。
昨年は 東京大学発のスタートアップ BionicM(バイオニックエム)に賞を出しました。BionicMのCEOである孫さんは小さい頃に足を失っています。元々ソニーに入社し、スピーカーの開発をされていたんですが、東大に入り直し、機械工学を学んでモーターのついた義足を開発しています。そこで義足の軽量化の部分で弊社が材料選定や部品製造などで協力をしました。この11月にCYBATHLON(サイバスロン)というパラリンピックのパワード義足部門に出場されたんですが、弊社もスポンサーとして協力しました。
このように三井化学では、2つの形でオープンイノベーションに取り組んでいます。
▶︎協業しやすいスタートアップとは?
みらいワークス 岡本氏:大企業の立場から、協業しやすいスタートアップとしにくいスタートアップはあるのでしょうか?
善光:目的が明確なスタートアップとは組みやすいです。お金が必要なのであれば、VCさんから提供してもらえば済む話です。協業する時に考えるのは、「このスタートアップさんが求めている社会の価値とは何か。」「そこに三井化学が入ることでどのように加速させることができるのか」を一緒に考え、それが合致するところと協業をするようにしています。
WHILLさんという自動運転の電動車椅子のスタートアップとの協業では、「軽量化をすることで社会実装までのスピードが早くなる。」という部分に価値を感じ、協業に至りました。このようにどのような価値を求めているかを把握することが重要だと思います。
▶︎オープンイノベーション支援の老舗、Crewwが考えるオープンイノベーションとは?

岡本:数多くの大企業のオープンイノベーション支援をしてきたCreww(クルー)さんは、オープンイノベーションをどのように捉えているのでしょうか?
Creww 水野:始めたばかりの8年前は、オープンイノベーションという言葉もしっかり定義されてませんでした。スタートアップが成長するために必要なアセットの中の「お金」と「ヒト」がありますが、これはVCや人材会社が提供しています。
Crewwでは「事業成長を加速させるためには、大企業のアセットを活用できる環境をつくることが必要なのではないか。」という想いから、オープンイノベーション支援サービスを始めました。
いろんな企業さんから、うまくいく方法や注意すべきポイントなどをよく聞かれますが、オープンイノベーションのポイントは3つのあります。
1つ目は:「スタートアップは協業パートナー」であること。よって、しっかりと相手の立場や状況を理解することがポイントとなります。スタートアップも成長に合わせシード、アーリー、ミドル、レイターとステージがあるので、このステージに合わせ資金調達の需要や人材のニーズを理解することも大切です。
2つ目は、「何をもって成功とするのか」というプロジェクト単位でのゴールイメージや、会社単位でのイノベーション施策のゴールイメージを持っておくことが必要です。
3つ目は、推進していく会社自体の人員体制と組織体制がしっかりと整っていること。裁量権を持たせたり、稟議のフローも既存ビジネスとは別に早いスピードで考えたり、イノベーターが活躍できる評価の仕組みなどをしっかり構築していくことがポイントとなります。 これらの3つが整っている会社さんは、やはりうまくいく率が高くなっています。
▶︎新規事業を進める際の人の体制の成功例とは

岡本:新規事業を進める際の人の体制について、うまくいっている例とうまくいかない例はどのようなものなのでしょうか??
水野:求められているミッションを自分ごととして明確に答えられる人と、受動的に捉えている人とで分かれてきます。自分ごととして捉え、スタートアップと協業することの意義を自分なりに持っている人は推進力が抜群ですし、周囲の巻き込み力も高いです。そのような方は、応援者、共感者をチーム内外に創って推進されてもいます。
逆に新規事業をうまく進められない方は、「上司が、、、役員が、、、」などと主語が自分以外になっており、新規事業を何のためにやるのか、スタートアップとの共創を何のためにやるのか、という本質がズレてしまっているというケースがよく見られます。
与えられたミッションを卒なく、かつ間違いなくこなすスキルは、新事業を創るという点においてはあまり向いていないという印象です。
善光:大企業の既存事業において求められる質とは異なるんです。既存事業では研究・製造・販売など各フェーズに特化した人たちが組織作られていますが、新規事業セクションは人数が少ないので、クリエイティブな部分から販売まで全部やらないといけない。なので、先ほど水野さんがおしゃられていた「巻き込む力」が非常に重要になってくるんです。
イノベーションが起こせる人の資質とは?

岡本:イノベーションが起こせる人の資質について教えてください。
フォースタートアップス 中村氏:オープンイノベーションは手法でしかない中で、それをしっかり科学していくことが重要だと思います。その中で人という観点では、社外とアライアンスを組む状況になった時には、「自社のリソースと他社のリソースをどう組み合わせることで、それぞれの事業を成長させられるのか」という交渉がされます。ここで、大企業とスタートアップのそれぞれにこのような交渉ができる人材がいるかどうかは非常に重要だと思います。とりあえず「まずは会ってみて。」では何も起きなく、それぞれに戦略を描いてディスカッションに挑むことが大切です。
▶︎大企業とスタートアップ間でよく起こりうる人材面での障害
中村:特に大企業とスタートアップ間でよく起こりうる人材面での障害と言うものがあるんです。スタートアップは社会課題に対して向き合っている人が多いのでビジョンを語ることで人を惹きつけることが得意な人が多いです。一方で大企業は任されたミッションを遂行することが得意な人が多いです。両者にとって、「ビジョンを語れること」「ミッションを遂行すること」この双方を行き来できることが必要かと思います。
日本のオープンイノベーションがもっと活性化するため
岡本:人材とオープンイノベーションは切ってもきれない関係だと言うことが見えてきましたが、日本のオープンイノベーションがもっと活性化するために、人と言う文脈でどのようなことが必要だと思いますか?
中村:人の流動性が高まってくればくるほど、ノウハウが業界に広がるので「人の流動性」が一つキーになると思います。2013年くらいからスタートアップのブームで資金調達額が伸び、今年の資金調達総額の着地は5000億ぐらいの着地が予想されます。2013年から7年ぐらい経つと、上場したりM&Aされたり、解散するケースと様々なケースが出てきます。その人たちが次のチャレンジを考えた時に、スタートアップに再度チャレンジする他、大企業の新規事業責任者として入るケースが最近ではみられます。
このように人材が流動することによって、色々なエコシステムに、スタートアップ経験者や、大企業経験者が増えてくることはイノベーションが活性化する上で、非常に良いことだと思っています。
オープンイノベーションの未来

岡本:これからどのようにオープンイノベーションを展開していきたいか、世の中を変えていきたいか一言お聞かせください。
善光:スタートアップの緊張感に触れながら仕事をすることで、経営人材を創ることです。覚悟を持った経験を積んだ人材が、本社に戻り経営を支えていく、と言う展開をしていきたいと思っております。
水野:産業のトップティアを引き上げることと、ボトムを支えることのどちらも大切だと考えています。Crewwは、今まではハンズオンでトップティアの引き揚げを担ってきましたが、これからの日本の社会の成長を中長期で考えた時にボトムを支える会社が必要だろう、と言うことで今、地方の中堅企業や自治体の支援も行っています。
イノベーションの取り組みはどの会社もやっていかねばならない時代だと思うので、その手段としてスタートアップと共創していくきっかけと仕組みの提供を、東京以外にもしていくかねばならないと思っています。
中村:これまでの5~10年は、「外部とのアライアンスやってみよう!」「オープンイノベーションをやってみよう!」と言う時代でしたが、ここから先はこれをいかに成功につなげていくかだと思います。なので共創相手となるスタートアップを全国約13000社ある中からいかに見極められるかが重要になってくると思います。その上で、見極めたスタートアップにいかに振り向いてもらえるかの戦略を練ることが必要になってくると思います。そのためにフォースタートアップスはデータベース(STARTUP DB)を拡充し、公開をしています。
SMBC 佐藤氏:「未来」は起業を目指す人、具体的な事業化を目指す方を後押しするため、2016年から立ち上げたプログラムです。
今までの「未来」は、事業化においてメンタリングや研修を受けた方々が2次審査会でプレゼンを行い、大企業に見てもらってマッチングするというプログラムでした。今年から、より事業化の粒度を高めるため、経験豊富な「みらいワークス」に共同主催として入ってもらいました。
また今期の「未来」から、主催は銀行だけでなく、SMBCベンチャーキャピタル、SMBC日興証券も主催に入り開催しています。これから事業を立ち上げる方にとって、資金調達は大きなファクターになります。このファクターにおいて、各ステージにおけるノウハウがそれぞれに異なってきます。シード段階におけるベンチャーキャピタルやエクイティのノウハウや、IPOを目指す段階での資金調達方法のノウハウなど、アクセラレーションプログラムの段階から知っておくことは、重要なことだと考えているため、今回この3社による主催体制をとることとなりました。
そして、Crewwやフォースタートアップスにも入ってもらうことで、より厚みのある多方面からのサポート体制を整えることができました。ある意味、今回がリスタートだと思っていますので、これからさらに「未来」を拡大していきます。
