12.8 C
Japan
土曜日, 2月 4, 2023

【提言】転職だけがすべてじゃない。会社を辞めずに外に出よう

転職、複業、兼業、起業──。 日本型雇用が崩壊し、自分らしく働く選択肢は増えたとはいえ、これらはまだ一部の人しか経験したことがないのが日本の現状だ。 国際社会と比較しても、日本は圧倒的に人材流動性が低い。超少子高齢化社会で労働力人口も減り続ける日本で、このまま人材の流動性が低いままでいるとどうなってしまうのか。 キャリアデザインの専門家である法政大学教授の田中研之輔氏と、新規事業や社会課題解決に挑戦したい個人・スタートアップ・事業会社をプラットフォームでサポートするCreww株式会社 代表取締役CEOの伊地知天氏に話を聞いた。
※本記事は、2021.11.30 NEWS PICKSにて公開された記事を転載しております。

田村 朋美

編集ライター (NewsPicks Brand Design 特約エディター)

「越境」は、人と企業の成長ドライバー

──人材流動化の重要性が叫ばれる昨今、そもそもなぜそれが必要なのか、改めて教えてください。

田中 いくつかの要素がありますが、超少子高齢化社会の日本は圧倒的に労働力人口が足りなくなるからです。 企業が人を囲うのではなく、企業同士で人材をシェアしないと、そもそも人材が足りません。それなのに、日本は人材が流動しない。 その原因は、日本企業は人的資本の最大化ができないから。

本来は、一人ひとりが能力を最大限に発揮して、やりがいも生きがいも感じながら適材適所で働くのが望ましいけれど、実際は難しい。 なぜなら、新卒一括採用で組織のレールから外れないようマネジメントして、出世の階段を一段ずつ上らせる日本型雇用は、一人ひとりの能力を最大化する仕組みになっていないからです。 組織の箱に閉じ込められると、人は決められた仕事を遂行するだけの日々を長年過ごすうちに、仕事がつまらなくなって、生産性が下がります。 その結果が今の日本。競争力が低く、グローバルで存在感を示せなくなった。 日本企業が今すぐにやるべきは、人的資本を最大化して、一人ひとりの生産性を高めること。 そのために必要なのが、社員を他の業界や企業に「越境」させることだと思っています。

──なるほど、超少子高齢化社会の日本で人材の流動化は待ったなしの状態だ、と。

田中 その通りで、この状況を打破できるのが既存の組織から飛び出すこと、つまり「越境」なんですね。 力を持て余している人や、きっかけをつかめない人が、軸足を本業に起きつつ積極的に外に出れば、新しい挑戦の場を獲得することになります。 こうした人材の流動化施策は、働く一人ひとりの活力源にもなるし、企業にとっての成長エンジンにもなると思っています。

伊地知 僕は、大企業の人がスタートアップに関わって覚醒する現場に数えられないくらい立ち会ってきました。 それくらい外部の人たちに触れることは大事で、覚醒した人たちは本業に大きな貢献をし始めるんですよね。

だけど、欧米諸国に比べると日本は大企業主義が根深くて、新しい産業にチャレンジしてほしい優秀な人材が大手に流れる傾向が強い。 田中先生もご指摘の通り、労働力人口は減少の一途をたどるのだから、もっと流動化させないとマズイと思っています。

田中 その通りで、僕は「一刻も早く流動化を加速させよ」と言いたい。 これは、「A社を辞めてB社に行け」という話ではなくて、「A社にいながら3つ4つの兼務をせよ」という話。 ビジネスパーソンは複数の仕事に挑むマインドを持ち、企業側はそうしたチャレンジを促進する環境を整備する。 それが生産性を上げる一番の方法なのです。

組織内キャリアから自律型キャリアへ

── 一方でZ世代は、転職や複業ありきでキャリアを考える人が圧倒的に多いと思います。その世代が社会に出てきたことで、30代、40代の“焦り”はあるのでしょうか。

田中 まさに若手とミドルで二極化が進み、組織内でハレーションを生んでいます。 今までは、組織内キャリアが伝統的な働き方でしたが、今ようやく自律型キャリアへの転換期を迎えています。

 自律型キャリアとは、自らやりたいことをつかみながらキャリア形成をする働き方で、Z世代やミレニアル世代は完全にそっちですよね。自分らしい働き方や生き方を考えて、自ら選択する。 一方でミドル・シニア世代は、組織内キャリアしかないと思って生きてきました。なぜなら、企業が人材を囲い、外を見せずに兼業も複業も禁止してきたから。 外を見なかったら組織内キャリアが当たり前だと思って当然です。 でも、ネットでいくらでも情報を取れる時代に、そのドメスティックなマネジメントは合いません。 特に30歳以下は自分が働きたいように働きたいし、やりがいある仕事をしたいと思っています。 毎日の出社が必須で、外を見ないように制限をかけてくるような会社に自分の身を捧げるのは違和感があるから、「自分の居場所はここではない」と思えば、簡単に外に出る。 だから今、優秀な若手人材が集まっているのは、自律型キャリアを応援してくれる企業なんです。

よく「自律型キャリアにすると会社を辞めるのではないか」と聞かれますが、それは大きな間違い。 自律型キャリアを応援すると社員のエンゲージメントは高まります。なぜなら、自分のやりたいことを応援してくれる会社だから。 外を見せたら辞めるのではなくて、外を見せないから辞めるんです。このことに早く気づいて、若手にもミドル・シニア層にも積極的に越境させた方がいいでしょう。 コロナ禍で、ANAやJALが異業種に社員を越境させたのは良い例で、ものすごく良いキャリア資本になるはずです。

1社に添い遂げる=キャリアサクセスではない

──複業をしたいと考える大企業のビジネスパーソンは増えているのでしょうか?

伊地知 増えていると思います。 Crewwでは3年前から「STARTUP STUDIO by Creww(スタートアップスタジオバイ クルー)」という、個人を主体としたインキュベーションプログラムを開始しました。 これは、個人がやりたいビジネスや、解決したい課題を発信し、それに共感した人が集まってチームを作るというもの。 実際にプロダクトを作って市場で試し、良い結果を得られたら企業に売却するケースもあれば、法人化してそのまま事業をグロースさせるケースもあります。

田中 面白い。いいですね!

伊地知 個人はゼロイチの体験ができるので、プロジェクトの参加をきっかけに本業でイノベーティブなことにチャレンジする人もいれば、スタートアップに転職したり起業したりする人もいます。 今の日本は、ゼロイチにチャレンジする機会を得られる人の方が珍しいですよね。 だから、自分の空き時間や週末を活用してゼロイチにチャレンジできるなら、と多くの人が集まりますよ。

田中 そういった取り組みを当たり前にしたいですね。働き方改革で残業ができないぶん、可処分時間が増えてエネルギーを持て余している人は大企業にたくさんいます。 だからといって、会社に複業申請を提出するのは、浮気をするようで気が引ける人も多い。だから、伊地知さんのプロジェクトのように特殊部隊的にやるのはアリだと思います。 「1社に添い遂げて、定年を迎えるのがキャリアサクセスだ」という“洗脳”を、早く解いてほしいです。

──大企業で働きながら複業をしている人は、どんなモチベーションで動いているのでしょうか。

田中 8割が自己実現のためです。大企業のミドル・シニア世代は年収に困っていないので、お小遣い稼ぎの人はほとんどいません。 むしろ、報酬はいらないからゼロイチを経験したい人が多い。 でも、僕は「もっと稼げ」とも言いたいんです。 6000万円、7000万円を稼いでエンジェル投資家になり、スタートアップに投資して、新しい産業や価値の創出に寄与したら、経済が回りますよね。 今までは、人材の流動性が乏しかったから資本が回らなかったけれど、これからはアスリートがレンタル移籍をするように、大企業が社員を越境させて、年収を5倍にも10倍にもする目標を掲げてほしいと思っています。

半年間、複業でスタートアップのCXOに挑戦

──経済産業省も、大企業人材を流動させるための事業を始めています。それを実施する事業者としてCrewwが採択されていますが、プロジェクト内容を具体的に教えてください。

伊地知 経済産業省は、大企業で経験を積んだ人材がスタートアップで挑戦することを推進するために、スタートアップ向け経営人材支援事業「SHIFT(x)」を立ち上げました。 Crewwはそれを担う事業者として、大企業人材が半年の期間限定かつ複業で、スタートアップのCXOに挑戦できるプログラム「CXO Launchpad」を開設。 挑戦したい大企業人材を募集しています。

大企業で働く人がスタートアップや起業に興味を持っていても、現職を辞めて挑戦するのはハードルが高いですよね。でも、半年の期間限定かつ複業なら挑戦しやすいはず。 スタートアップからしても、成長フェーズで必ず必要となるCXOや幹部候補に、大企業で経験を積んだ人が来てくれたら、それはとてもありがたいことです。

田中「越境留学」ですね。素晴らしい。

伊地知 ありがとうございます。よく、スタートアップにパートタイムの幹部が入って機能するのかと聞かれますが、僕たちもフリーランスのCMOに半年間だけ参画してもらい、とてもお世話になった経験があるんですね。 スタートアップのステージによって、フルタイムの人が必要なときと、そうじゃないときがあります。 今回は、半年間力を貸してほしいスタートアップとのプロジェクトなので、転職ではなく、複業で小さな組織の経営を経験したい大企業人材とは、とても相性がいいと思いますよ。

──どんな人が挑戦すべきだと思いますか?

田中 もっと自分はできるはずなのにと、モヤモヤしている人。 たとえば、本業にコミットしていきいきと働いている人を横目に「自分は大きな仕事にありつけていないな」と思いつつ、転職は考えていない人です。 このタイプは大企業で働く人の大半を占めていると思うので、自分のキャリアのためにも、今いる組織のためにも、挑戦すべきだと思いますよ。 会社を辞めずに自分の可能性を広げられる最高の手段ではないでしょうか。

伊地知 企業側も、人材育成や企業成長のために、次世代リーダーを外に出すマインドを持って送り出してほしいですね。

田中 それをムーブメントにしないといけないですね。今の日本には、成長のための新陳代謝がなさすぎます。 ずっと“サナギ”状態で眠り続けているのは意味がないので、このプロジェクトは大企業で働く人にとって大きなチャンスになると思いますよ。

https://studio.creww.me/campaigns/cxo-launchpad/

取材・執筆:田村朋美
写真:小池大介
デザイン:Seisakujo inc.
編集:木村剛士

【入山章栄×佐々木紀彦】30歳は動くとき。「大企業1社」キャリアからの脱却

2022年1月7日
Facebook コメント
PORT編集部https://port.creww.me/
PORT by Crewwは、Creww株式会社が運営する、社会課題をテーマに、新規ビジネス創出を目指すスタートアップ、起業家、復業家、 企業をつなぐ挑戦者のためのオープンイノベーションメディアです。
- Advertisment -

Featured

【熊平製作所×MAMORIO】創業125年のトータルセキュリティ企業が、スタートアップ共創で未来の「安心・安全」を創る

【Creww Growth活用協業事例インタビュー】広島銀行とCrewwは、広島県下のイノベーションエコシステムの構築に向け、広島県内に新たな事業の創出を図ることを目的に「HIROSHIMA OPEN ACCELERATOR 2021(広島オープンアクセラレーター2021)」を共催しました。本記事では、プログラム参加企業である熊平製作所と、「なくすを、なくす」をミッションに、紛失防止デバイス「MAMORIO」を始めとした 様々な製品・サービスを提供するIoTスタートアップ「MAMORIO」との共創プロジェクトにフォーカス。株式会社熊平製作所 新規事業開発部 取締役部長 茶之原 氏に、プロジェクトの共創に至った背景や、スタートアップとの共創から実際に得た体感や変化について、お話を伺いました。 #広島銀行 #広島県 #イノベーション #広島オープンアクセラレーター2021 #熊平製作所 #MAMORIO #IoT #スタートアップ #共創 #新規事業 #協業事例インタビュー #CrewwGrowth #Creww #大挑戦時代をつくる

関東近郊2万坪の土地 × スタートアップで、今までにない斬新な “場” を作りたい|Gulliverが挑む!

【オープンイノベーションインタビュー】中古車売買でお馴染みの「Gulliver」を運営する株式会社IDOMが、2022年10月24日から「Gulliver アクセラレータープログラム2022」を実施。新しい購買体験の提供と、生活を彩るクルマの価値を創造する新しいコンセプト店舗の開発をテーマに、関東近郊に2万坪の土地を用意し、スタートアップの皆さんと一緒に新しい場づくりに取り組みたいという。具体的に、どのような構想を描いているのか。株式会社IDOMの経営戦略室チームリーダー、三樹教生氏に話を伺った。 #Gulliver #IDOM #スタートアップ #アクセラレータープログラム #CrewwGrowth #Creww #大挑戦時代をつくる

スタートアップ募集!【豊富な開発技術力 × デミング賞大賞の社内風土】モノづくりメーカーのOTICSに、今求めるパートナーを聞く

【オープンイノベーションインタビュー】高出力・低燃費・低エミッション化などの要求に対し、積極的な技術提案と高精度な品質で応えるOTICS(オティックス)の自動車部品は、多くの車種で採用されています。一方で、120以上の国と地域が目標に掲げる「2050年カーボンニュートラル」に向け「脱炭素化」の企業経営に取り組むOTICSは、初めてのアクセラレータープログラムを開催。豊富な開発経験と生産技術力を活かせる協業案、自然環境保全や社会・地域に貢献できるアイデア等をスタートアップから広く募集します。デミング賞大賞も受賞したOTICSの社風、アクセラレータープログラムの開催に至った背景や、募集ページだけでは伝わらない魅力、プログラムに関わる方々の想いを、株式会社オティックス 経営管理本部TQM経営戦略室 係長 奥村守氏に話を伺いました。 #OTICS #自動車 #カーボンニュートラル #アクセラレータープログラム #協業 #スタートアップ #デミング賞 #CrewwGrowth #Creww #大挑戦時代をつくる

OPA × somete の挑戦|「まちクロッ」でファッションロス問題の解決を目指す!

【Creww Growth活用協業事例インタビュー】金沢フォーラス、キャナルシティオーパ、横浜ビブレなど、OPA・VIVRE・FORUSの3ブランドを主軸に、都市型商業施設の開発運営を行う株式会社OPA。そんな同社は2021年、「OPAアクセラレータプログラム2021」を実施し、地域と連携したファッションロス削減に取り組むsometeとの協業をスタートさせた。OPAとsometeは具体的にどのような実証実験を重ねているのか。株式会社OPA 事業創造部 新業態開発チームの安達有美氏と、someteを運営する株式会社Play Blue代表の青野祐治氏に話を伺った。 #OPA #somete #オープンイノベーション #活用協業事例インタビュー #CrewwGrowth #Creww #大挑戦時代をつくる
Facebook コメント