12.8 C
Japan
水曜日, 9月 28, 2022

【提言】転職だけがすべてじゃない。会社を辞めずに外に出よう

転職、複業、兼業、起業──。 日本型雇用が崩壊し、自分らしく働く選択肢は増えたとはいえ、これらはまだ一部の人しか経験したことがないのが日本の現状だ。 国際社会と比較しても、日本は圧倒的に人材流動性が低い。超少子高齢化社会で労働力人口も減り続ける日本で、このまま人材の流動性が低いままでいるとどうなってしまうのか。 キャリアデザインの専門家である法政大学教授の田中研之輔氏と、新規事業や社会課題解決に挑戦したい個人・スタートアップ・事業会社をプラットフォームでサポートするCreww株式会社 代表取締役CEOの伊地知天氏に話を聞いた。
※本記事は、2021.11.30 NEWS PICKSにて公開された記事を転載しております。

田村 朋美

編集ライター (NewsPicks Brand Design 特約エディター)

「越境」は、人と企業の成長ドライバー

──人材流動化の重要性が叫ばれる昨今、そもそもなぜそれが必要なのか、改めて教えてください。

田中 いくつかの要素がありますが、超少子高齢化社会の日本は圧倒的に労働力人口が足りなくなるからです。 企業が人を囲うのではなく、企業同士で人材をシェアしないと、そもそも人材が足りません。それなのに、日本は人材が流動しない。 その原因は、日本企業は人的資本の最大化ができないから。

本来は、一人ひとりが能力を最大限に発揮して、やりがいも生きがいも感じながら適材適所で働くのが望ましいけれど、実際は難しい。 なぜなら、新卒一括採用で組織のレールから外れないようマネジメントして、出世の階段を一段ずつ上らせる日本型雇用は、一人ひとりの能力を最大化する仕組みになっていないからです。 組織の箱に閉じ込められると、人は決められた仕事を遂行するだけの日々を長年過ごすうちに、仕事がつまらなくなって、生産性が下がります。 その結果が今の日本。競争力が低く、グローバルで存在感を示せなくなった。 日本企業が今すぐにやるべきは、人的資本を最大化して、一人ひとりの生産性を高めること。 そのために必要なのが、社員を他の業界や企業に「越境」させることだと思っています。

──なるほど、超少子高齢化社会の日本で人材の流動化は待ったなしの状態だ、と。

田中 その通りで、この状況を打破できるのが既存の組織から飛び出すこと、つまり「越境」なんですね。 力を持て余している人や、きっかけをつかめない人が、軸足を本業に起きつつ積極的に外に出れば、新しい挑戦の場を獲得することになります。 こうした人材の流動化施策は、働く一人ひとりの活力源にもなるし、企業にとっての成長エンジンにもなると思っています。

伊地知 僕は、大企業の人がスタートアップに関わって覚醒する現場に数えられないくらい立ち会ってきました。 それくらい外部の人たちに触れることは大事で、覚醒した人たちは本業に大きな貢献をし始めるんですよね。

だけど、欧米諸国に比べると日本は大企業主義が根深くて、新しい産業にチャレンジしてほしい優秀な人材が大手に流れる傾向が強い。 田中先生もご指摘の通り、労働力人口は減少の一途をたどるのだから、もっと流動化させないとマズイと思っています。

田中 その通りで、僕は「一刻も早く流動化を加速させよ」と言いたい。 これは、「A社を辞めてB社に行け」という話ではなくて、「A社にいながら3つ4つの兼務をせよ」という話。 ビジネスパーソンは複数の仕事に挑むマインドを持ち、企業側はそうしたチャレンジを促進する環境を整備する。 それが生産性を上げる一番の方法なのです。

組織内キャリアから自律型キャリアへ

── 一方でZ世代は、転職や複業ありきでキャリアを考える人が圧倒的に多いと思います。その世代が社会に出てきたことで、30代、40代の“焦り”はあるのでしょうか。

田中 まさに若手とミドルで二極化が進み、組織内でハレーションを生んでいます。 今までは、組織内キャリアが伝統的な働き方でしたが、今ようやく自律型キャリアへの転換期を迎えています。

 自律型キャリアとは、自らやりたいことをつかみながらキャリア形成をする働き方で、Z世代やミレニアル世代は完全にそっちですよね。自分らしい働き方や生き方を考えて、自ら選択する。 一方でミドル・シニア世代は、組織内キャリアしかないと思って生きてきました。なぜなら、企業が人材を囲い、外を見せずに兼業も複業も禁止してきたから。 外を見なかったら組織内キャリアが当たり前だと思って当然です。 でも、ネットでいくらでも情報を取れる時代に、そのドメスティックなマネジメントは合いません。 特に30歳以下は自分が働きたいように働きたいし、やりがいある仕事をしたいと思っています。 毎日の出社が必須で、外を見ないように制限をかけてくるような会社に自分の身を捧げるのは違和感があるから、「自分の居場所はここではない」と思えば、簡単に外に出る。 だから今、優秀な若手人材が集まっているのは、自律型キャリアを応援してくれる企業なんです。

よく「自律型キャリアにすると会社を辞めるのではないか」と聞かれますが、それは大きな間違い。 自律型キャリアを応援すると社員のエンゲージメントは高まります。なぜなら、自分のやりたいことを応援してくれる会社だから。 外を見せたら辞めるのではなくて、外を見せないから辞めるんです。このことに早く気づいて、若手にもミドル・シニア層にも積極的に越境させた方がいいでしょう。 コロナ禍で、ANAやJALが異業種に社員を越境させたのは良い例で、ものすごく良いキャリア資本になるはずです。

1社に添い遂げる=キャリアサクセスではない

──複業をしたいと考える大企業のビジネスパーソンは増えているのでしょうか?

伊地知 増えていると思います。 Crewwでは3年前から「STARTUP STUDIO by Creww(スタートアップスタジオバイ クルー)」という、個人を主体としたインキュベーションプログラムを開始しました。 これは、個人がやりたいビジネスや、解決したい課題を発信し、それに共感した人が集まってチームを作るというもの。 実際にプロダクトを作って市場で試し、良い結果を得られたら企業に売却するケースもあれば、法人化してそのまま事業をグロースさせるケースもあります。

田中 面白い。いいですね!

伊地知 個人はゼロイチの体験ができるので、プロジェクトの参加をきっかけに本業でイノベーティブなことにチャレンジする人もいれば、スタートアップに転職したり起業したりする人もいます。 今の日本は、ゼロイチにチャレンジする機会を得られる人の方が珍しいですよね。 だから、自分の空き時間や週末を活用してゼロイチにチャレンジできるなら、と多くの人が集まりますよ。

田中 そういった取り組みを当たり前にしたいですね。働き方改革で残業ができないぶん、可処分時間が増えてエネルギーを持て余している人は大企業にたくさんいます。 だからといって、会社に複業申請を提出するのは、浮気をするようで気が引ける人も多い。だから、伊地知さんのプロジェクトのように特殊部隊的にやるのはアリだと思います。 「1社に添い遂げて、定年を迎えるのがキャリアサクセスだ」という“洗脳”を、早く解いてほしいです。

──大企業で働きながら複業をしている人は、どんなモチベーションで動いているのでしょうか。

田中 8割が自己実現のためです。大企業のミドル・シニア世代は年収に困っていないので、お小遣い稼ぎの人はほとんどいません。 むしろ、報酬はいらないからゼロイチを経験したい人が多い。 でも、僕は「もっと稼げ」とも言いたいんです。 6000万円、7000万円を稼いでエンジェル投資家になり、スタートアップに投資して、新しい産業や価値の創出に寄与したら、経済が回りますよね。 今までは、人材の流動性が乏しかったから資本が回らなかったけれど、これからはアスリートがレンタル移籍をするように、大企業が社員を越境させて、年収を5倍にも10倍にもする目標を掲げてほしいと思っています。

半年間、複業でスタートアップのCXOに挑戦

──経済産業省も、大企業人材を流動させるための事業を始めています。それを実施する事業者としてCrewwが採択されていますが、プロジェクト内容を具体的に教えてください。

伊地知 経済産業省は、大企業で経験を積んだ人材がスタートアップで挑戦することを推進するために、スタートアップ向け経営人材支援事業「SHIFT(x)」を立ち上げました。 Crewwはそれを担う事業者として、大企業人材が半年の期間限定かつ複業で、スタートアップのCXOに挑戦できるプログラム「CXO Launchpad」を開設。 挑戦したい大企業人材を募集しています。

大企業で働く人がスタートアップや起業に興味を持っていても、現職を辞めて挑戦するのはハードルが高いですよね。でも、半年の期間限定かつ複業なら挑戦しやすいはず。 スタートアップからしても、成長フェーズで必ず必要となるCXOや幹部候補に、大企業で経験を積んだ人が来てくれたら、それはとてもありがたいことです。

田中「越境留学」ですね。素晴らしい。

伊地知 ありがとうございます。よく、スタートアップにパートタイムの幹部が入って機能するのかと聞かれますが、僕たちもフリーランスのCMOに半年間だけ参画してもらい、とてもお世話になった経験があるんですね。 スタートアップのステージによって、フルタイムの人が必要なときと、そうじゃないときがあります。 今回は、半年間力を貸してほしいスタートアップとのプロジェクトなので、転職ではなく、複業で小さな組織の経営を経験したい大企業人材とは、とても相性がいいと思いますよ。

──どんな人が挑戦すべきだと思いますか?

田中 もっと自分はできるはずなのにと、モヤモヤしている人。 たとえば、本業にコミットしていきいきと働いている人を横目に「自分は大きな仕事にありつけていないな」と思いつつ、転職は考えていない人です。 このタイプは大企業で働く人の大半を占めていると思うので、自分のキャリアのためにも、今いる組織のためにも、挑戦すべきだと思いますよ。 会社を辞めずに自分の可能性を広げられる最高の手段ではないでしょうか。

伊地知 企業側も、人材育成や企業成長のために、次世代リーダーを外に出すマインドを持って送り出してほしいですね。

田中 それをムーブメントにしないといけないですね。今の日本には、成長のための新陳代謝がなさすぎます。 ずっと“サナギ”状態で眠り続けているのは意味がないので、このプロジェクトは大企業で働く人にとって大きなチャンスになると思いますよ。

https://studio.creww.me/campaigns/cxo-launchpad/

取材・執筆:田村朋美
写真:小池大介
デザイン:Seisakujo inc.
編集:木村剛士

【入山章栄×佐々木紀彦】30歳は動くとき。「大企業1社」キャリアからの脱却

2022年1月7日
Facebook コメント
PORT編集部https://port.creww.me/
PORT by Crewwは、Creww株式会社が運営する、社会課題をテーマに、新規ビジネス創出を目指すスタートアップ、起業家、復業家、 企業をつなぐ挑戦者のためのオープンイノベーションメディアです。
- Advertisment -

Featured

OPA × somete の挑戦|「まちクロッ」でファッションロス問題の解決を目指す!

【Creww Growth活用協業事例インタビュー】金沢フォーラス、キャナルシティオーパ、横浜ビブレなど、OPA・VIVRE・FORUSの3ブランドを主軸に、都市型商業施設の開発運営を行う株式会社OPA。そんな同社は2021年、「OPAアクセラレータプログラム2021」を実施し、地域と連携したファッションロス削減に取り組むsometeとの協業をスタートさせた。OPAとsometeは具体的にどのような実証実験を重ねているのか。株式会社OPA 事業創造部 新業態開発チームの安達有美氏と、someteを運営する株式会社Play Blue代表の青野祐治氏に話を伺った。 #OPA #somete #オープンイノベーション #活用協業事例インタビュー #CrewwGrowth #Creww #大挑戦時代をつくる

【空間ID × スタートアップの着想】デジタルツイン社会実装への挑戦

【オープンイノベーションインタビュー】現実世界をデジタル空間に複製する絶対的な技術を持つダイナミックマップ基盤株式会社は、「cm」級の高精度3次元データを有し、モビリティの自動走行において要となる同社のプロダクトは、既にグローバルに展開されています。今般、デジタル庁の肝煎り案件となるアクセラレータープログラムを開催。リアル/サイバー両空間を組み合わせたユースケースの創出に向け、「空間ID」を活用した共創案を募集します。ダイナミックマップ基盤株式会社 第二事業部 事業開発2課 課長 兼 空間IDプロジェクトPMOの望月洋二氏に話を伺った。 #ダイナミックマップ基盤 #デジタルツイン #空間ID #デジタル庁 #ミラーワールド #アクセラレータープログラム #共創 #Creww #大挑戦時代をつくる

【スタートアップ募集】第一三共ヘルスケアと一緒に、「ヘルスケア」領域に新しい価値を創出しませんか

【オープンイノベーションインタビュー】「Fit for You 健やかなライフスタイルをつくるパートナーへ」をコーポレートスローガンに掲げ、鎮痛薬「ロキソニン」をはじめ、かぜ薬「ルル」、キズ薬「マキロン」など、生活に身近な市販薬ブランドを多数展開する第一三共ヘルスケア。他にも、敏感肌向けスキンケアブランド「ミノン」やオーラルケアなど、さまざまな製品を展開している。そんな同社は、もっと幅広くヘルスケアや生活改善に貢献すべく、製薬会社だけでは発想できないアイデアや技術を求めて、アクセラレータープログラムの実施を決定した。具体的に、どんなスタートアップとの協業に期待しているのか。同社・経営企画部の松尾健氏と製品企画室の古市亜美氏に話を伺った。 #第一三共ヘルスケア #アクセラレータープログラム #インタビュー #オープンイノベーション #スタートアップ #CrewwGrowth #Creww #大挑戦時代をつくる

使い捨て傘ゼロへの挑戦 100年続く雨の日のインフラを築く「アイカサ」

【スタートアップインタビュー】ビニール傘の利用が、日本を「世界一位の傘消費国」にしています。これまで私たち日本人が他に選択肢を持たずにビニール傘を躊躇なく購入していたのは、そのビニール傘が欲しかったからではなく、濡れない体験が欲しかっただけ。株式会社Nature Innovation Group代表の丸川 照司氏は、「傘をシェアする」という発想のなかった日本に、「アイカサ」という傘のシェアリングサービスを提供。デザイン性の高いお洒落な傘を前に「雨の日に少しでもハッピーになってもらえたら嬉しい」と語ってくれました。使い捨て傘ゼロのサスティナブルな社会へ向け挑戦を加速する「アイカサ」のサービスとは?今や30万人が登録するまでとなった事業展開のコツやマネタイズのポイントについてもお話を伺いました。 #NatureInnovationGroup #アイカサ #傘 #シェアリング #サスティナブル #SDGs #スタートアップ #Creww #大挑戦時代をつくる
Facebook コメント