企業のリアルな声から、関東経済産業局がハブに

―関東経済産業局の概要と、オープンイノベーションを推進されている背景について教えてください。
関東経済産業局は経済産業省の地方支分部局で、地域の経済活性化をミッションに、広域関東圏(1都10県=茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県)を管轄し、様々な経済産業施策の実施に取り組んでいる組織です。また、政策を実施するだけではなく、皆様からの現場のニーズやご要望をキャッチして、より良い政策の提案や新たな政策立案に努めています。
中でも、当課では、企業が従来の枠組みを超えた企業間連携にチャレンジをすることで、新しい付加価値の創出や、「稼ぐ力」の向上を実現することを目指し、3年前からオープンイノベーションの促進に取り組んでいます。
きっかけとなったのは、以前、ある大手企業から「サプライチェーン上の繋がりはあっても、それ以外の繋がりがなく、真に求める技術やパートナーがどこにいるのか分からない」「効率的な企業探索の方法や商談実施の方法が分からない」という声をいただいたことです。
そこで、大手企業や中堅・中小企業、スタートアップなど、様々な企業にインタビューをしたところ、皆様、同じ悩みを抱えていることが分かりました。他にも、中堅・中小企業からは「大手企業へのアクセスルートを持っていない」という声や、スタートアップからは「大手企業は組織の大きさ故に意思決定スピードが遅く、連携が進みにくい」といった声もありました。
そこで、当局がハブ機能を果たすことで、大手企業や中堅・中小企業、スタートアップを引き合わせるようになったのが、オープンイノベーション促進事業の始まりです。
当初は、大手企業等から業界横断的な技術課題をいただき、中堅・中小企業、スタートアップに提案いただく形で、「対話重視型マッチング」と題した、企業間マッチングを実施したり、企業や支援機関等のオープンイノベーション担当者同士の顔の見える関係の構築を目的とした「オープンイノベーション推進者交流会」を開催したりして、企業間のオープンイノベーションの促進を進めてきました。
そして、2019年からは独立行政法人中小企業基盤整備機構関東本部と連携し、オープンイノベーションを通じて、多くの企業が「新たな付加価値の創出」による「稼ぐ力」の向上を実現するため、オープンイノベーション・マッチングスクエア(OIMS)というWebのプラットフォームを創設しました。これにより、効率的かつ効果的な企業間のオープンイノベーションの促進に向けて仕掛けているところです。

様々な仕掛けにより、オープンイノベーションによる共創機会を数多く提供

―これまでの具体的なマッチング事例をお聞かせください。
2018年に連携組成した、JR西日本と長野県の建設・農業・医療機器等の開発・製造を行う小松製作所との事例をご紹介します。
当時、JR西日本からは、車椅子の方が電車に乗るとき、スロープを設置する人と車椅子を押す人と2人必要になるため、駅員の負担が課題だというお話をいただきました。
1日数回なら対応できても、大阪の駅だけでも1日に180回以上の対応や無人駅との往復が発生するとのことで、労働力人口が減少するなかで、これはJR西日本に限った課題ではなく、全ての鉄道で解決すべき課題ではないかと提示されました。
その課題を解決すべく、全国の中小企業やスタートアップから提案を募集し、小松製作所が採択されました。小松製作所は車椅子の方が自身で電車に乗れる装置をJR西日本と共同開発し、2019年12月には、幕張で行われた鉄道技術展に共同でデモ2号機をお披露目しており、現在ではデモ3号機が作られるなど、社会実装に向けた取り組みを進めています。
もう一つは、2019年にマッチングした、ENEOSホールディングスと環境ソリューション事業を行う東京都のKSJの事例です。
ENEOSホールディングスではグループ全体で、日本の全CO2排出量の2.5%にあたる年間3000万トン(2017年)を排出しているため、2040年までに年間1500万トンを固定化できる技術を持つ企業と協業したい、というニーズがありました。
そこで、全国の中小企業やスタートアップから提案を募集し、約40件の提案の中から、建設汚泥にCO2を固定化できる技術を持つKSJとマッチングしました。将来的には、ENEOSホールディングスの製油所等で排出されるCO2を建設汚泥に固定化することを目指し、共創対話をスタートしています。
オープンイノベーションは地域の中堅・中小企業の成長に有効だと示したい

―独自での取り組みを続けるなか、今回Crewwのアクセラレータープログラムを導入したきっかけについて、教えてください。
オープンイノベーションの事例としては、大手企業とスタートアップの組み合わせが多く聞かれるところかと思います。一方で、地域の中堅・中小企業は、よりスピード感のある経営判断や地域の商圏等のポテンシャルを持つため、スタートアップとの組み手として、魅力を秘めています。しかしながら、地域企業の知名度が大手企業と比べて必ずしも高くないことや、オープンイノベーションという手法が地域に浸透していないことから、両者の接点はこれまで圧倒的に不足しているのが現状です。
そのため、今回のプログラムを通じて、地域企業とスタートアップのオープンイノベーションを実践する手法として、アクセラレータープログラムが有効であることを実証し、共創事例を地域に横展開したいと考えています。
地域企業の代表として採択したのは、神奈川県相模原市の三友プラントサービス、長野県上田市のシナノケンシ、滋賀県長浜市の大塚産業マテリアルの3社です。どの企業もプロジェクトには社長もしくは役員に参加いただいているので、スピード感のある共創が実現できるのではないかと考えています。
『REGIONAL GROWTH ACCELERATOR CHALLENGE 2020』概要
▶︎募集期間:2020年11月24日(火)~12月4日(金)
▶︎エントリー方法:下記URL(Crewwホームページ内の専用WEBサイト)より、協業案を2,500字以内でご提案ください。
URL:https://accele.creww.me/collaboration/kanto-2020-11
▶︎対象企業:国内外すべてのスタートアップ。業種不問。
▶︎主催:関東経済産業局、Creww
▶︎目的:地域の中堅・中小企業とスタートアップ企業の共創による新たな価値創造により、該当地域の新事業創出を図ることを目的として実施
変化の激しい時代こそ、種まきをすべき

―コロナ禍でオープンイノベーションのニーズは増えていますか?
緊急事態宣言が発令された時期は、経営の不透明感などで減りましたが、7月以降は徐々に戻ってきていると感じています。既存ビジネスだけを続けていたのでは立ち行かなくなり、半ば強制的に変化を求められる時代だからこそ、新しいアクションを起こしてビジネスモデルの変革に備えるべきというマインドが醸成されつつあるのだと思います。
実際、企業にヒアリングを実施すると、そういった声が多く聞かれました。なかには、「不透明な時期だからこそ、売り上げに結びつきにくいオープンイノベーションではなく、既存事業を強化したい」という声もありましたが、勿論、既存事業を大事にしつつも、既存が安定している内に新しい種まきをしていくことが更に重要で、今まで以上に活発にオープンイノベーションを手法として活用していただきたいと考えております。
多様なプレイヤーとの協業が当たり前の社会を目指して

―今後、関東経済産業局としてどんな取り組みをされるのか、改めて教えてください。
今では、企業がスタートアップを募集する間口は様々ありますが、それはスタートアップからすると、最終的に協業に繋がらなければ、時間だけがとられてしまうことになり、必ずしもフェアではないと思っています。加えて、地域の中堅・中小企業は「オープンイノベーションやアクセラレータープログラムって何ですか?」という企業が、中にはまだ多いのも事実です。
地域企業が持続的な成長をしていくためには、下請け構造から脱却して、スタートアップなど多様なプレイヤーと連携したイノベーションを興し、新たな価値創造に取り組むことが重要です。だからこそ、中堅・中小企業にオープンイノベーションが自社の「稼ぐ力」を高める1つのツールになることをご理解いただくことで、地域において、次々とイノベーションが起きていくような世界観を目指して奮闘していきたいと考えています。
そのためのアクションの一つが、今回のアクセラレータープログラムだと考えています。地域企業にとってスタートアップが有効な組み手であるという認知を広め、共創事例を地域に横展開することで、地域の中堅・中小企業もオープンイノベーションにおけるメインプレイヤーになることを、実証していきたいと思います。
(ご参考)
■関東経済産業局のオープンイノベーション促進に係る取組
https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/open_innovation/
■オープンイノベーション・マッチングスクエア(OIMS)
https://jgoodtech2.smrj.go.jp/lp/oi-matchingsquare
■中堅・中小企業とスタートアップの連携による価値創造チャレンジ事業https://www.kanto.meti.go.jp/seisaku/seizou/startup_challengejigyo.html
