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土曜日, 12月 3, 2022

無知が築いた社会の壁。真のダイバーシティ&インクルージョンに取り組む、フジクラ&アクティベートラボのオープンイノベーション

1885年の創業以来、電線やケーブルの研究開発で培った「つなぐテクノロジー」を軸に、エネルギーや情報通信、エレクトロニクス、自動車電装など広範に事業を展開し、国内外の発展に寄与してきた株式会社フジクラ。2017年に「2030年ビジョン」を掲げ、社会課題を解決することで持続的な「みらい社会」を創造すべく、オープンイノベーションに着手し、アクセラレータープログラムを開催した。そこで採択されたのは、障がい者雇用コンサルティングや障がい者に特化したSNSを運営するスタートアップ、株式会社アクティベートラボだ。2社は2017年以降、どのような協業を進めてきたのか。フジクラの新規事業推進センター つなぐみらいイノベーション推進室 平船さやか氏と、アクティベートラボ代表の増本裕司氏にお話を伺った。
目次
・みらい社会の課題をオープンイノベーションで解決
・ある日突然、障がい者になってわかった大きな社会課題が生み出したスタートアップ
・障がいを含めた個人の特性からQOL向上を考える
・障がい者雇用のパッケージを協業で開発
・障がい者雇用を起点に、ダイバーシティ&インクルージョンを実現
・障がい者でも上場企業を作れる社会を目指して

みらい社会の課題をオープンイノベーションで解決

―2017年に、フジクラがオープンイノベーションを導入された背景を教えてください。

平船 フジクラは創業から130年以上、通信やエレクトロニクス、自動車電装などの事業で世界中を「つなぐ」企業として成長してきました。ただ、昨今は社会の変化が目まぐるしく、持続可能な未来を作るためには、フジクラも変革すべきだという危機感があったんですね。

今までは、お客様のニーズに応えることで間接的に社会課題解決に貢献してきましたが、多様化・複雑化している社会課題を解決するには、我々が直接リーチする必要がある、と。

そこで、2017年に『フジクラグループは、“つなぐ”ソリューションの提供により、快適で持続可能な“みらい”社会の課題を解決し、継続的に企業価値を高めている』をスローガンに、オープンイノベーションで社会課題を解決する「2030年ビジョン」を掲げました。

具体的に想定した市場は、「Advanced Communication(高度情報化社会への貢献)」、「Energy & Industry(多様なエネルギーの活用と効率的なマネジメント)」、「Life-Assistance(クオリティオブライフの向上)」、「Vehicle(次世代モビリティ社会への貢献)」の4つです。

2017年に実施された「フジクラアクセラレーター2017」
2017年に実施された「フジクラアクセラレーター2017」

―最初からオープンイノベーションによる社会課題解決を目指したのですね。

平船 そうです。みらい社会の課題を解決するには、既存のやり方だけでなく、まったく新しいアプローチが必要。だから、我々の経営資源にスタートアップのアイデアや技術力を掛け合わせることで社会課題を解決したいと思い、アクセラレータープログラムも開催しました。

2017年当時は、右も左も分からない状態でしたが、スタートアップと向き合いながら継続した結果、現在はPOCを含めて数十社との協業が進んでいます。

ある日突然、障がい者になってわかった大きな社会課題が生み出したスタートアップ

―身体障がい者に特化したSNSや障がい者雇用コンサルティング等の事業を展開されているアクティベートラボですが、その創業理由について教えてください。

増本 私は12年前、仕事中に突然脳出血で倒れました。意識不明が2週間続き、目を覚ましたときは話せないし起き上がることもできない状態。そこから4年間、必死にリハビリを続け、右半身に麻痺は残りましたが会話ができて自分で歩行できるまで回復しました。

しかし、働く先を見つけようと何十社もの採用面接に挑んでも、箸にも棒にもかからなかったんです。どうにか見つけた企業でアルバイトとして採用されたものの、想像とは大きくかけ離れていました。障がい者になった瞬間から正社員で働く道を閉ざされたことにも、絶望感がありましたね。

この雇用問題に加えて、私が障がい者になって知ったのは、コンピューターやインターネットを利用できない人は社会から阻害され、貧富や機会、社会的地位に格差が生まれ、より困難な状況に追い込まれていたこと。

これを“デジタルデバイド”と呼ぶのですが、もともと株式会社USEN(現 USEN-NEXTホールディングス)でIT事業に携わっていた私にとって、大きな問題としてのしかかりました。

今まで生きていた世界の常識とは180度異なる状況を、なんとか変えていかないとマズイ。そう痛感し、脳卒中で倒れてから6年後にアクティベートラボを創業。身体障がい者に特化したSNS「OpenGate」を作り、障がい者や家族、医療従事者、企業がつながる場を構築しました。

―アルバイトが想像とかけ離れていたとのことですが、どのような課題を感じたのでしょうか。

増本 アルバイトとはいえ、採用されたことがとても嬉しかったので、スーツを新調して出社したのですが、1週間経っても仕事をもらえなかったんです。

リクルートやUSENでの営業経験があるから、「右半身は麻痺しているけれど数字は追えます」と伝えても、「増本くんは座っているだけでいいよ」と言われて。なぜなら、私は障がい者雇用率達成のための要員だったからです。

これを知ったときは、本当に悲しくて自分の存在する意味がわからなくなりました。身体に障がいを持っていても通勤できるなら活躍できるはずですし、精神に障がいがあっても出社時間を考慮してもらえたら活躍できるはずなんです。

障がい者を取り巻くさまざまな課題は解決すべきで、その積み重ねが大きな社会課題解決につながるのではないかと思い、事業計画を練りました。

障がいを含めた個人の特性からQOL向上を考える

―かなり壮絶な体験をされたのですね。アクティベートラボを創業から2年後の2017年に、フジクラのアクセラレータープログラムに応募した理由を教えてください。

増本 実は、小学5年生頃からフジクラの存在を知っていました。NTTに勤めていた父からもらった「未来の通信」が描かれた業界向けの漫画に、スマホで通信をしている人や、海底ケーブルで世界中の情報がつながる様子が描かれていたんですね。

そして、その漫画の裏に書かれていたのが「協力:フジクラ」の文字。今から約40年前、スマホもインターネットもない時代に、フジクラは私に強烈な印象を与えていました。

だから、フジクラが社会課題の解決に取り組むと知ったときは、これはぜひ応募して一緒に取り組みたいと思いました。130年以上続く大企業で、太平洋に海底ケーブルを敷くような大きな事業を展開している企業と協業すれば、障がい者を取り巻く環境も変わるのではないかと期待しましたね。

―フジクラがアクティベートラボを採択した理由を教えてください。

平船 フジクラは健康寿命の延伸やQOL向上といった健康経営を推進しているのですが、我々が考えていたのはライフステージを軸としたQoL向上でした。でも増本さんに「もう一つ軸がありますよ」と言われてハッとしたんです。

障がいを含めた個人の特性からQOL向上を考えるのは大切ですし、それを取りこぼしてはいけません。最終的にダイバーシティ&インクルージョンを実現させるためにも、増本さんと一緒に、まずは弊社の障がい者雇用を変えるところから始めたいと思いました。

障がい者雇用のパッケージを協業で開発

―2017年から今までの4年間、どのような取り組みを進めてきたのでしょうか。

平船 まずは、弊社の障がい者雇用の改善に取り組みました。具体的には採用面接に増本さんも同席してもらうところから始めました。

今まで、人事担当は障がいについてどこまで聞いていいのかわからなかったのですが、増本さんから「障がいのことは聞いていい。本人は話したいけれど、聞かれないから話せないだけ」という観点を教わり、視点は大きく変わりましたね。

採用面接でケアすべきことに加えて、入社後のケアや同じ職場で働く同僚のケアなど、増本さんに伴走してもらいながら、一緒に「障がい者雇用のパッケージ」を作り上げました。

ただ、フジクラ1社では「企業が困っていること」は網羅できないので、今は増本さんが障がい者雇用コンサルティングをしながら、その中身を一緒にアップデートさせるべく、さまざまな企業にアプローチをしているところです。

―増本さんは、企業にはどんな観点が足りないと思いますか?

増本 障がい者には、身体障がいと精神障がい、知的障がい、発達障がいという4カテゴリがあります。でも、全カテゴリをぐちゃぐちゃに集めた障がい者向けの採用合同説明会があるほど、企業は障がいを理解していません。

私は、リハビリをしていた4年間で、4カテゴリの人たちと知り合って隈なく調べ上げたのですが、特に差異があったのは精神障がいの捉え方でした。

精神障がいと聞くと、遅刻や欠席、早退が多いのではないかという懸念を持ちがちですが、それは払拭できるんです。たとえば、うつ病だと診断されると薬を処方されますが、そのなかには睡眠導入剤が入っているから、12時間の睡眠が必要になります。

つまり、12時間寝ないと本調子が出ないので、本人が「朝9時出社します」と言っても、会社がそれを求めても無理なんです。障がいが無くても、睡眠導入剤を飲めば12時間寝ないと働けません。だから、午後からの勤務にすればいい。ただそれだけのことでお互いがハッピーになれるのです。

それから、脳性麻痺や脳卒中と聞くと、脳に異常があって仕事ができないのではないかと思いがちですが、体の一部が麻痺しているだけで、脳は正常なんですね。パソコンのタイピングは遅いかもしれませんが、企画を考えることはできるでしょう。

そういった話をすると、障がい者も雇えるんだと人事に気づいてもらえますし、受け入れる部署にも丁寧に説明することで、障がい者雇用の壁は少しずつ溶かせると思っています。

―社会が知らなすぎることが、大きな課題であるように感じます。

増本 その通りで、企業は障がい者を理解していません。私自身も障がいを持つまでは知らなかったし、障がいを持った後に声をあげる環境も用意されていませんでした。

平船 障がい者が何に困っているのか、私も増本さんと出会う前は知り得なかったです。

障がい者雇用を起点に、ダイバーシティ&インクルージョンを実現

―協業によってフジクラの社内には、何か変化が生まれていますか?

平船 障がい者雇用の全社への浸透はまだまだこれからですが、人事の意識は大きく変わりました。一部ですが、実際に受け入れている部署の理解も進んでいます。

―大手企業が変わるのは、大きな社会変化につながると思います。

平船 まさに、障がい者雇用は弊社だけの問題ではありません。それに、労働時間や賃金の制約を受けるのは、障がい者だけでなく育児中や介護中の人、病気や怪我で通院が必要な人なども同じですよね。

そのなかでも制約が多い障がいを持つ人たちが働きやすい環境を作れたら、育児中の人も介護中の人も働きやすくなり、そして誰もが働きやすい社会になるはず。

だから、障がい者雇用のパッケージが世の中に広まるよう、営業活動にも注力しています。コロナ禍で働き方も変わっているのだから、障がい者雇用を起点にダイバーシティ&インクルージョンを考えませんか、と。フジクラ1社だけでは補えないところを、いろんな方とブラッシュアップしています。

―具体的に、どんな方とブラッシュアップしているのでしょうか。

平船 フジクラのお客様もいらっしゃいますし、一般参加が可能なウェビナーに参加した方などさまざまです。

フジクラには、企業や団体、研究機関、行政など多様な方が集まって価値共創をするイノベーションハブ「BRIDGE」という拠点があり、そこに集まる方たちとコラボレーションしていますね。

増本 「BRIDGE」に集まるシンクタンクや大手企業に対して、「ダイバーシティ&インクルージョンは障がい者雇用を起点に実現できる」と提案できたのは大きな一歩です。

障がい者でも上場企業を作れる社会を目指して

―今後、どのような展開を目指しているのか教えてください。

増本 「障がい者支援=アットホームなボランティア」ではなく、障がい者を起点としたビジネスを成功させ、上場するのが目標です。上場してお金が欲しいのではなく、障がい者でも上場企業を作れる社会にしたいと強く思っています。

それから、身体障がい者は不自由な部位によって、衣食住や教育、仕事などさまざまな活動に問題があります。ただ、どうすれば生活しやすくなるのかを知りたくでも、とにかく情報を得にくいんですね。

だから、「OpenGate」で同境遇の人や医療従事者、企業と情報を共有し合い、最適なサービスや商品を提供・享受できる社会にしたい。それをまずは国内で当たり前にして、全世界に届けたいと思っています。

平船 社会全体がQOL向上に向けて動けるよう、まずはその足元を固める意味で障がい者雇用を推進し、アクティベートラボの仕組みを世の中に広げていきたいと思っています。

パートナーを増やしながらエコシステムが広がっていけば、いずれ新しい価値やサービスは生まれるはず。フジクラとして、誰も取りこぼさない社会作りに貢献したいと思っています。

インタビュイー
平船さやか 氏 株式会社フジクラ 新規事業推進センター つなぐみらいイノベーション推進室 室長

フジクラ入社後、光ファイバの開発、電子デバイスの開発及び量産立ち上げに従事。2013年に新規事業推進センターに異動し、主に品証担当として、新規事業のインキュベーション業務に従事。2017年4月、新規事業推進センターつなぐみらいイノベーション推進室長に就任し、オープンイノベーションを通じて新しい価値創出すべく活動中。

インタビュイー
増本裕司 氏 株式会社アクティベートラボ 代表取締役

大学卒業後、大手/デベロッパー・広告代理店・情報通信にて営業/事業企画を務める。2009年就業中に脳出血で倒れて意識不明となり、2週間後に目を覚ますが右半身麻痺の障害者2級になる。4年間のリハビリテーションを経て、コンサル会社の「障害者アルバイト雇用」として就業。障害の有無に関わらず活き活きと働ける社会の実現を目指し、2015年7月 株式会社アクティベートラボを設立。

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田村 朋美
2000年雪印乳業に入社。その後、広告代理店、個人事業主を経て、2012年ビズリーチに入社。コンテンツ制作に従事。2016年にNewsPicksに入社し、BrandDesignチームの編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集として活動中。
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