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金曜日, 6月 25, 2021

稲畑ファインテックとエリーの事例から読み解く「オープンイノベーションを成功に導く要素」

2019年、稲畑産業は「人と環境に優しい未来の快適なくらしと社会」を実現すべく、アクセラレータープログラムを実施。子会社の食品事業を営む稲畑ファインテックとの協業をスタートさせたのは、蚕による昆虫食を研究開発、生産、販売するスタートアップ・エリーだ。2社はどういった協業を実現させているのか。経済産業省 北海道経済産業局とCrewwが共催した「北海道オープンイノベーションセミナー」で語られた内容をお届けする。
スピーカー
稲畑ファインテック株式会社/食品本部 根上浩一郎氏
エリー株式会社/代表取締役 梶栗隆弘氏
Creww株式会社/代表取締役 伊地知 天

モデレーター:
株式会社日本総合研究所/リサーチ・コンサルティング部門 井村圭氏

「食の未来」を創造する協業

井村 まずは、それぞれの会社の事業内容を教えてください。

根上 稲畑ファインテックの親会社である稲畑産業は、1890年に京都で欧州の染料や染織機械の輸入販売事業からスタートした会社です。

ケミカル事業を中心に事業を拡大させ、現在は「合成樹脂」「情報電子」「化学品」「生活産業」の4つの分野で、世界17カ国にビジネスを展開。その過程で、市場開発や製造・加工、物流、ファイナンスなどさまざまなノウハウを蓄積してきました。

アクセラレータープログラムに挑戦

そうしたノウハウや国内外のネットワーク、資金力、農場・水産資源・加工場などを活用し、スタートアップの斬新なアイデアや技術を掛け合わせて「人と環境に優しい未来の快適なくらしと社会」を実現すべく、アクセラレータープログラムを実施しました。

今回、我々がスタートアップとの協業に期待した領域は、「未来へ繋ぐモビリティ」「未来へ繋ぐ環境・エネルギー」「食の未来」「印刷の未来」「未来のくらし」「未来へ育てるライフサイエンス」の6つ。

そのうち「食の未来」の領域で、食品とライフサイエンスを扱う子会社の稲畑ファインテックと、機能性昆虫食の商品開発と販売を行うエリーとの協業が実現しました。

世界で最も研究が進んでいる蚕を使った昆虫食を世界に

梶栗 エリーは蚕を原料とした次世代の環境型タンパク質食品、「シルクフード」の開発・販売を行っている会社です。昆虫食といえば多くの場合はコオロギが原料ですが、エリーの場合は世界で唯一、蚕に特化していることが大きな特徴です。

そもそもなぜ昆虫食に着目したかというと、世界的な人口増や乱獲、環境問題の悪化に伴い、人類は将来「食糧不足」に陥ると指摘されているからです。

なかでもタンパク質の危機は早くて5年後から10年後に訪れると言われており、限られた地球資源を効率的に使ってタンパク質を生産するために、世界中で昆虫食や代替肉といった代替タンパク質の開発が活発化しています。

サステナブルな食の未来を実現する次世代食品「シルクード」

実際、昆虫食は牛と比較すると、餌は4分の1、水は4000分の1、土地は20分の1での生産が可能。市場規模も2019年が9億3000万ドルだったのが、2030年には80億ドルになると言われており、世界には100社を超えるスタートアップが存在しています。

ただ、成長市場かつ人類にとっては必要な「未来の食」であるにも関わらず、昆虫食が普及しなかったのは「まずい」「高い」「気持ち悪い」という課題があったから。これらを「美味しく」「安く」「健康」な食品としてリノベートするには、農作物や畜産物と同様に品種改良や飼育技術の向上が必須。

そこで、古くから養蚕文化があり、世界で最も研究が進んでいる「蚕」に着目し、京都大学や東京大学との共同研究を重ねてきました。実際、蚕は他の昆虫よりも美味しく、豆に近い風味を持つという特徴があります。

2020年1月に、期間限定で東京・表参道にて開催した実証実験では、蚕を使ったハンバーガーやピザ、スープなど約1700食を販売し、90%以上の方から「美味しい」という評価をいただきました。この結果からも、一般向けに改良して展開するのは十分可能だと思っています。

また、蚕には100種類以上の「健康機能性成分」と60種類以上の栄養素が含まれており、高タンパクで糖質はゼロ。こうした特徴をフックに、昆虫食の抵抗感を乗り越えたいと考え、稲畑ファインテックと一緒にニッチな市場を創造したいと考えました。

協業を進める原動力は、共感とお互いの熱量

井村 今回、稲畑ファインテックがエリーとの協業を決めたきっかけは何だったのでしょうか。当初の思いなどを教えて頂ければと思います。

根上 畜産・水産・農産物の事業を展開するなかで、今までも食に関する新しいビジネスの創出に挑戦する努力を続けてきました。でも、どうしてもアイデアは既存事業の延長線上にとどまってしまうことが課題だったんです。

でもエリーと出会って昆虫食の可能性と意義を知り、世の中に新しい市場と価値を創造できるのではないかと思って協業をスタートさせました。

井村 昆虫食に取り組むことに対して、上司や社内の反応はいかがでしたか?

根上 最初は、エリー自体が食品を母体とする企業ではないという点などから、「本当に昆虫食がビジネスとして成立するのか」「無理ではないか」など、できない理由を言われることの方が大多数でした。でも、少数でも「挑戦する価値はあるかもしれない」といった前向きな意見をもらえたことが、協業の後押しになりましたね。

井村 根上さん自身は、担当にアサインされたとき戸惑いはなかったですか?

根上 戸惑いはありませんでした。梶栗さんから昆虫食の話を聞いて共感しましたし、海外の調達や国内の加工を得意としている会社だからこそ、その経験を昆虫食に結びつけたいという気持ちの方が強かったです。

井村 新しいことをやりたい思いや熱量が強かったということですね。

根上 そうですね。いかにして新しい市場を作り、最終ユーザーまで商品を届けるか。本業と並行しながらのプロジェクトでしたが、時間があれば昆虫食のことばかり考えていて(笑)、かなりのめり込んでいたと思います。

スタートアップと同じスピード感で推進

井村 梶栗さんは、稲畑ファインテックと組んでどんな点が良かったですか?

梶栗 これまでいろんな大企業と協業してきましたが、稲畑ファインテックが素晴らしかったのは、社内調整に時間をかけずにリソースを割いてくれたことです。大企業は社内承認のプロセスを踏む必要があるから簡単なことではなかったと思いますが、根上さんはスタートアップと同じスピード感で推進してくれたので、本当にありがたかったです。

根上 梶栗さんのスピード感についていくために、プロジェクトを走らせながら承認を得ていくというのを同時進行でやっていました。加えて、原料を輸入するために海外ネットワークを活用したり、生産のために国内協力工場にお願いしたりと、スピードを落とさないように周りを巻き込んで根回ししながら進めていました。

井村 周りを巻き込むというのは大きなポイントのように思います。一方で、工夫した点、難しかった点はありましたか?

梶栗 今回の協業で難しい点は特になかったです。オープンイノベーションは、スタートアップがやりたいことと大企業のビジネスが遠い場合、人的リソースを割いてもすぐにビジネスにつながらないと判断されてしまって、頓挫することが多々あります。

でも稲畑ファインテックとは、海外から原料を調達してもらうにあたって対価を支払っており、最初から取引の形にしたことが功を奏したと思っています。

工夫した点は、今までの経験から変に遠慮しない方がいいと思っていたので、最初から遠慮せずに協議したことですね。言葉を選ばずに言えば、大企業のリソースを使い倒そうくらいの気持ちでいました(笑)。

根上 梶栗さんの本音でぶつかってくるスタイルが、我々にとってはすごくプラスだったと思っています。

ただその分、梶栗さんからいただく課題に対して、コスト面などから思い通りに調査が進められないこともあって、もどかしい思いもしました。既存事業とは違う、今まで全く扱ったことのない商材だから、想像しなかった課題が生じて期待に応えられなかったときは悔しかったです。

井村 壁にぶつかりながらも、根上さんの強力な推進力と、梶栗さんの熱量によって協業が進んできたことがわかりました。お二人が、これから実現させたいことを教えてください。

根上 まずは、梶栗さんと一緒に昆虫食の市場とブランドをしっかり作ること。そして、昆虫食が当たり前になる世の中を作りたいです。

梶栗 エリーは最終的に、国際的な蚕原料の供給メーカーになりたいと考えているので、まずは生産と販売がしっかりできる体制を築きたいと思っています。

これからは、地方の中堅・中小企業がキープレイヤーに

井村 最後に、Creww(クルー)代表取締役・伊地知さんから、これからオープンイノベーションに取り組む企業にむけてのアドバイスをお願いします。

伊地知 オープンイノベーションと一言で言っても、スタートアップのフェーズによって組む相手の規模は違います。だから、まずは規模とフェーズを見誤らないことが大切。たとえば、スタートアップにプロダクトがあり、検証も終わって市場に広めるフェーズなら、大きな市場を持つ大企業と組むのが得策です。

だけど、プロダクトは研究開発の段階で、市場で検証しなら作り上げたいフェーズの場合は、規模よりもスピードが重要。だから、クイックに進められる中堅・中小企業と組むのが圧倒的に有利になります。この、規模とフェーズのミスマッチは往々にして起きることなので、注意が必要です。

次に大切なのは、事業会社がスタートアップのやりたいことや世界観に共感していることです。目指す姿や世界観を直接聞いて、あまり共感できないなら協業すべきではありません。

共感し、高い熱量を持って協業をスタートできたら、まずはどんなに小さくてもいいので成功体験を作ってください。成功体験があると周りの協力を得やすくなるし、次のステップにも進みやすくなります。

協業を進める上で注意すべきは、規模の大きな会社に意思決定のプロセスがあるのは構造上仕方のないことなので、スタートアップと事業会社で、その期待値を合わせることです。事業会社はスタートアップのスピード感に合わせようとする努力、スタートアップは事業会社の構造を理解して配慮する努力が必要だと思います。

2020年に最初の緊急事態宣言が発令されて以降、Crewwには地方の中堅・中小企業からのお問い合わせが急激に増えました。オープンイノベーションは大企業だけの取り組みではなく、これからは地方の中堅・中小企業もキープレイヤーになっていくはず。Crewwはこれからも、全国各地の皆さんの挑戦をサポートし続けたいと思っています。

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田村 朋美
2000年雪印乳業に入社。その後、広告代理店、個人事業主を経て、2012年ビズリーチに入社。コンテンツ制作に従事。2016年にNewsPicksに入社し、BrandDesignチームの編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集として活動中。
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