12.8 C
Japan
水曜日, 12月 6, 2023

スタンプをポンッ!で決済完了。りそな銀行×ギフティ×BUZZPORTによる「デジタル通貨」実証実験に迫る

「イノベーションのエコシステムを備えた街」神戸市とCrewwが共同で運営した「神戸オープンアクセラレータープログラム」。エントリー企業とスタートアップをキュレーションし、神戸市内で新規事業を創出させるプログラムだ。プログラム開始から1年経過した2018年、晴れて1つの新たな事業モデルが誕生した。りそな銀行と株式会社ギフティ、株式会社BUZZPORTによるデジタル地域通貨プロジェクト「旅するフクブクロ」だ。「旅するフクブクロ」は“デジタル化された商品券”。まだ実証実験の段階ではあるが、可愛いらしいテイストで簡便化されたUIは、広く受け入れられていく可能性をみせる。今回は日本を代表する酒どころの1つ「灘五郷」で行われた実証実験の様子をお届けする。
※この記事は、2018年3月12日、creww magagineにて公開された記事を転載しています。

ローカル特有の文化としてたびたび紹介される「地域通貨」。しかし、その成功事例はまだ少ない。その理由は、法定通貨と兌換できないことによる流通性の低さ、「わざわざ使うまでもない」と思わせてしまうユーザー体験の満足度の低さにあった。

りそな銀行・ギフティ・BUZZPORTの3社で行われた本プロジェクトは、そんな地域通貨に新しい風を呼び込む。「旅するフクブクロ」は、「福袋」と「スタンプ」の組み合わせによる楽しいUXを提供。「地域通貨」を使う理由となりうる「付加価値」をつけたサービスとなっている。

スタートアップと大手銀行。この異色のマッチングはCreww(クルー)が主催する「神戸スタートアップアクセラレーター」により実現した。今回は神戸の酒心館・菊正宗酒造で行われた「デジタル通貨」の実証実験の様子をお届けする。

スタンプポンッ!で決済完了。思わず買ってみたくなるUXとは?

「旅するフクブクロ」の使用画面のサンプル

今回の実証実験に参加した100組200名には2万円分のデジタル通貨が支給されている。専用の電子ウォレットのページに保存されたこの通貨を使い、灘五郷の10か店をめぐり様々な福袋を購入することができる。

ユーザーは使用する金額を記入し、購入するフクブクロを選択できる。酒心館では「2000円」「3000円」と2種類の福袋が用意されており、好きな福袋を選択できる。

福袋の金額を選ぶとスタンプを押印する画面が表示される。店員がスタンプを押すと…

恵比寿様を模したキャラクターが表示され、「決済完了」となる。

楽しく、思い出に残るUXが「旅するフクブクロ」の特徴だ。スタンプ技術は協業した株式会社ギフティの「Welcome!STAMP」の技術が応用されている。同社はIT技術を用いたギフトサービスが強みのベンチャー企業。先の「Welcome!STAMP」の導入事例には、長崎の五島列島で使えるデジタル商品券「しまとく通貨」がある。

このサービスは「日本酒」のようなコアなファンがいるコミュニティの熱量を上げることを期待されており、プロジェクトに参画したりそな銀行の地域オフィサー・奥田浩之氏はこう語る。

「デジタル通貨によるキャッシュレス化によりファンコミュニティの購買行動がより便利に楽しくなることで、オフライン体験の幅が広がり、ファンが増える契機になれば良いと思う」。

ITに不慣れな層でも安心して使えるUX。単なる「購買行動」が思い出に

今回の実証実験は、日本有数の酒どころとして知られる「灘五郷」の一角を担う「神戸酒心館」で行われた。神戸酒心館の醸造する純米吟醸「福寿」は、山中伸弥教授がノーベル賞を受賞した折、受賞パーティでも振舞われたことで話題になった

当日、天気はあいにくの雨だったが、店内は多くの人で賑わっており、日本酒の「コア」なファン層の存在を感じた。写真は大阪から足を運んできた女性。友達に勧められ、実証実験への参加を決めたという。実際に使ってみた感想を聞いた。

―― 実際に「旅するフクブクロ」を使ってみていかがでしたか?
スタンプの仕組みがおもしろかったです。財布やポイントカードを出す手間が省け、会計がすぐに終わるのですごく便利でした。友達から誘われて参加しましたが、友達とも盛り上がり、とても楽しい体験になりました。

―― 電子マネーは普段からよく使われますか?
電車のICカード乗車券以外はあまり使いません。

―― 今回「地域通貨」としての電子マネーを使ってみていかがでしたか?
クレジットカードで商品が購入できる形式だと、なんでも買ってしまい、制御がきかなくなってしまう怖さがありました。今回の「旅するフクブクロ」は商品券のように金額が設定されており、無限に使う恐れがありません。使いすぎる心配がなく、安心して買い物ができました。

「大手銀行 × スタートアップ × 伝統産業」。コラボレーションの先に見えた新たな“Crewwの役目”とは?

りそな銀行・ギフティ・BUZZPORTの3社合同で行われたプロジェクト「旅するフクブクロ」。日本有数の酒処「灘五郷」で、キャッシュレス化した新たな地域通貨を提供した。今回のプロジェクトは「大手銀行」「スタートアップ」「伝統産業」の3つの異なる産業が連携してのプロジェクトとなった。

「キャッシュレス化」が進む潮流の中で、このプロジェクトを実行することの意味は何か。どんな未来を実現したいのか、今後の展望について、りそな銀行の地域オフィサー・奥田浩之氏にお話を伺った。

奥田氏は、今回の事例を端に発し、承継者不在の“レガシーセクター”と若い世代が中心の“スタートアップ”がシナジー効果を発揮する事例が増えていくのではないかと指摘する。

銀行が旅行をパッケージング?購買行動を軸にした「ファンコミュニティ」の創出で、地方にお金を還流させる

―― 今回、Crewwの「神戸オープンアクセラレータープログラム」で株式会社ギフティ・株式会社BUZZPORTとの連携が決まりました。実際にエントリーされてみてどんな感触を得ましたか?
Crewwは圧倒的に登録されているスタートアップの数が多く、連携した2社以外にも可能性を感じる企業さんとたくさん話をさせていただきました。自力でウェブ検索で探すとなると非常に労力がかかるので、Crewwを介して様々な経営者とお話できたことはありがたかったですね。

―― 多くのスタートアップとお話を重ねた中で、今回はギフティ、BUZZPORTとの連携を決めました。決め手はなんだったのでしょうか。

りそな銀行地域オフィサー 奥田浩之氏

銀行の3大機能は「決済、融資、預金」です。しかし、これから銀行が生き残っていくには、機能を高めるだけでは。お客さまに満足して頂くことが出来ません。顧客の記憶に残る質の高いUXを提供する必要があります。今回は質が高く、ユニークなUXを顧客にご提供出来る可能性を感じた2社と連携させていただくことを決めました。

―― 「大手銀行 × スタートアップ」は珍しい協業スタイルだと思いました。プロジェクトを進める中で、難しかったことはありましたでしょうか。
スタートアップと大手銀行で一番異なるのは文化です。銀行の人間とスタートアップの人間では使う言語が異なるので、コミュニケーションに少し難しさがありました。また、スタートアップは非常に動きが早く、逆に銀行側がスピードについていくのに苦労しましたね。スタートアップと関わる中で、逆に私たちの課題を認識できました。

―― 今回の「旅するフクブクロ」、最終的に目指すところとは?
私たちは今回のデジタル通貨を日常のあらゆるものに適用しようとは思っていません。目指すのは「ファンコミュニティのパッケージ化」です。

例えば旅行会社と組み、灘五郷へ行くプランを作るときに「電車や買い物、ホテルもすべてスタンプで決済が可能」というパッケージングです。キャッシュレスで電子スタンプを集めながら旅行する、新しい余暇の楽しみ方を提案することも目指す形の1つだと思っています。

―― 次のフェーズとして、どんなことを想定していますか?
デジタル通貨を広めるために、加盟店を増やすことが先決です。なるべく低い手数料で、加盟店が増えるような収益構造を考えていく必要があると思っています。

Crewwの新たな可能性“レガシーセクター×スタートアップ”で、良質な伝統事業を盛り上げる

―― 今回、地方の伝統産業と関わる中で、業界のさまざまな側面が見えたのではないでしょうか。
地方の産業の多くは経営に問題はありませんが、「次の事業」になかなか踏み出せないことが大きな課題の1つとしてあります。後継者問題も深刻です。今後、Crewwのスタートアップコミュニティ等と更なる連携を目指し、今回の試みに留まらず“レガシーセクター”の課題をスタートアップとコラボレーションすることで解決することができるのではないかと思いました。

―― スタートアップの若々しさを取り入れていくということですね。
地方では行政機関でもアントレプレナーを養成されたり、事業承継に取り組んでおられますが、まだまだ確度は高くありません。レガシーセクターの課題をスタートアップが解決するだけでなく、廃業してしまいそうな事業の「箱」を引き継ぐような動きができれば、面白いことができるのではないでしょうか。

―― なるほど。それは面白そうです。
「伝統産業」などを中心に、スタートアップが入ろうとしても入れない、参入のきっかけにが乏しい業界はたくさんあります。そういった業界にもスタートアップが入っていければ、面白い動きが生まれそうですね。

また、「もったいないなぁ」と思う地方の動きの1つに、良質な事業が廃業に追い込まれたり、ときには非常に安い値段で売買されているといったことがあります。Crewwの提供するプログラムが地方に広がれば、そういった問題も解決できる可能性があるのではないでしょうか。

執筆
PORT編集部 
「PORT」はCreww株式会社が運営する、社会課題をテーマに、新規ビジネス創出を目指すスタートアップ、起業家、復業家、 企業をつなぐ挑戦者のためのオープンイノベーションメディアです。
Facebook コメント
PORT編集部https://port.creww.me/
PORT by Crewwは、Creww株式会社が運営する、社会課題をテーマに、新規ビジネス創出を目指すスタートアップ、起業家、復業家、 企業をつなぐ挑戦者のためのオープンイノベーションメディアです。

Featured

【安藤ハザマ × Cube Earth】日米特許技術で世界の都市OSにイノベーションを起こす

【Creww Growth活用協業事例インタビュー】安藤ハザマは、2022年度のアクセラレータープログラム「安藤ハザマ 新規事業共創プログラム2022」で、米国と日本で特許を取得している地理情報システムのプラットフォーム「Cube Earth」を活用し、自治体へ「スマート防災システム」を提供しているスタートアップ企業 「Cube Earth」を採択。自治体危機管理のDX化の一環として、防災システムやスマートシティ、ドローン、デジタルツインのシステムなど、次世代の社会インフラ基盤を開発するスタートアップだ。具体的にどのような取り組みを進めているのか。安藤ハザマ 経営戦略本部イノベーション部副部長の堀井浩之氏と、Cube Earth代表取締役会長の阿藻成彦氏、代表取締役社長の武田全史氏に話を伺った。

【三機工業 × スタートアップ】選ばれ続ける会社になる|スタートアップとの共創に挑む新しい歩み

【Creww Growth活用協業事例インタビュー】2025年に創立100周年を迎える三機工業株式会社は、2050年ビジョンに掲げた「選ばれ続ける」企業になるため、コア事業の強化や三機ブランドの向上に努めると同時に、会社の「信頼」を高める新施策も積極的に推進しています。 そこで、新たな取り組みの1つとして、「SANKI オープンイノベーションプログラム2023」に挑戦。初めてのアクセラレータープログラムに挑むファシリティシステム事業部 佐々木 宏之氏、経営企画室 経営企画部 石綿 央氏、 徳田 直也氏に、それぞれの立場から率直な想いを伺いました。

【安藤ハザマ × エアデジタル × 久喜市】デジタルスポーツで健康寿命の延伸に挑む!

【Creww Growth活用協業事例インタビュー】オープンイノベーションによる新規事業創出を推進している総合建設会社の安藤ハザマは、2022年度のアクセラレータープログラム「安藤ハザマ 新規事業共創プログラム2022」でデジタルスポーツ空間開発やデジタルスポーツフィールドの運営を手掛けるエアデジタル株式会社を採択した。 その後、安藤ハザマ、エアデジタル、埼玉県久喜市の3者で連携協定を締結し、久喜市内のショッピングモール施設「アリオ鷲宮」に出店している国内最大級のデジタルスポーツクラブ「スポーツ60&スマート」で協業を進めている。具体的にどのような取り組みを行なっているのか。 安藤ハザマの本社経営戦略本部イノベーション部担当課長・榊原翼氏と、エアデジタル代表取締役・前田相伯氏、久喜市役所 健康スポーツ部スポーツ振興課所属・金澤剛史氏に話を伺った。

【スタートアップ募集】地域の健康をケア|新規事業で地域に根差した未来のアイセイ薬局へ

【スタートアップ募集】アイセイ薬局は、全国に400店舗を超える調剤薬局を展開しています。まもなく創業40周年を迎える今、次なる事業の柱を求めてアクセラレータープログラムに挑戦!地域の人々に必要とされる薬局を目指し、新規事業創出の可能性を模索します。本インタビューでは、アイセイ薬局がなぜ今スタートアップとのオープンイノベーションに挑むのか、株式会社アイセイ薬局 事業企画部部長の堀浩之氏に話を伺いました。
Facebook コメント
jaJA