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Monday, December 11, 2023

プロスポーツチームと連携する埼玉県のオープンイノベーション

数年前より、国をあげての「オープンイノベーション」に関する取組が活発化してきており、各自治体においてもイノベーションを加速させるべく様々な施策が練られている。中でもスポーツと連携したオープンイノベーション施策は、オリンピック・パラリンピック等が2020年に開催されることが決定したこともあり、2018年より東京や埼玉を中心に進められるようになった。今回は埼玉県の象徴的なオープンイノベーション事例「スポーツと連携したオープンイノベーション」について埼玉県を代表して埼玉県産業労働部産業支援課 創業支援担当 主幹 渡邊 隆弘氏にお話を伺った。

埼玉県がオープンイノベーションによるスタートアップ支援に力を入れる理由とは

−自治体として、オープンイノベーションに力を入れようと決めた理由や背景を教えてください。

渡邊:近年、若い世代の起業家や起業希望者は減少しており、中でも20代以下の若い世代は大きく減少しています。中小企業白書によれば、平成9年に167万人いた起業希望者が、平成24年には84万人、平成29年には73万人に減少しています。起業希望の29歳以下の割合についても平成9年に30.2%だったものが平成24年には17.8%と減少している現状があります。

起業希望者数の減少の要因としては生産年齢人口の減少が大きく影響していると考えられますが、その他にも海外就職に関する話題がクローズアップされるなど、就職の選択肢として海外企業など多様化してきたこともあるかと思われます。

埼玉県には起業を考える意欲ある若者が10,000人程度はいると推計していますが、その多くは就職もしくは起業の段階で都内へ流出していると思われます。今後も埼玉県経済の活力を維持していくためには、産業の新陳代謝を促し、起業希望者を発掘し育成していく必要があると考えています。

起業条件が整う埼玉県の魅力

渡邊:一方で、埼玉県は都心と比べてビジネスコストが安く、災害が少なく安全であり、創業やビジネスに適した環境が整っています。また、首都圏の巨大マーケットを背景に、若者の起業が多いサービス業の分野も市場が拡大する可能性を秘めています。特に、スポーツ産業の分野では、2019年にラグビーワールドカップが開催され、2021年(当初2020年)には東京オリンピック・パラリンピックが開催予定であるほか、国ではスポーツの市場規模を2015年の5.5兆円から2025年に15兆円と3倍に拡大することを目指すなど、成長が期待されています。

埼玉県内には、埼玉県が誇るプロスポーツクラブ・球団である「浦和レッドダイヤモンズ」「大宮アルディージャ」「埼玉西武ライオンズ」「越谷アルファーズ」が本拠地を構えており、地域の活性化に大きく貢献いただいています。このような状況から、埼玉県では、平成30年度からスポーツやその関連分野で創業や事業の成長を目指す若者を支援する取り組みとして「イノベーションリーダーズ育成プログラム」を始めました。令和2年度からは、対象をすべてのベンチャー企業に拡大して実施しています。

プロスポーツチームと連携したオープンイノベーション

−2018年より、スポーツに注力した形でオープンイノベーションに取り組まれていますが、イノベーションを起こして行くための手法として、「オープンイノベーション」という手法を選んだのはなぜなのでしょうか?

渡邊:「創業するなら埼玉」を合言葉に、外郭団体である(公財)埼玉県産業振興公社に創業・ベンチャー支援センター埼玉を設置し、創業者や創業を希望する方へのきめ細やかな支援を行っていますが、まだまだ十分ではありません。

埼玉県は、都心と比べたビジネスコストの安さ、災害が少ない安全性、都心に近い環境などビジネスフィールドとして最適です。また、県内に本拠地を構える情報発信力に長けたプロスポーツチームを複数有しています。こうした埼玉県の魅力を、プロスポーツチームと連携したオープンイノベーションという手法で発信することで、埼玉県での創業を促すとともに、企業のさらなる成長につなげたいと考えています。

埼玉 Sports Start-up(SSS)とは?

埼玉 Sports Start-up
https://accele.creww.me/collaboration/saitama-sports-start-up-2020-7

-2018年の初開催から、今年で3回目となる「埼玉 Sports Start-up(SSS)」ですが、改めてその狙いと今年の特徴などを教えてもらえますでしょうか?

渡邊:「東京2020オリンピック・パラリンピック等を控え、拡大が見込まれるスポーツ市場について、アイデアの事業化及び事業の成長を目指すスタートアップ企業等を支援するため、埼玉県が打ち出した施策が「埼玉 Sports Start-up(SSS)」です。(※平成30年度及び令和元年度はイノベーションリーダーズ育成プログラムとして実施)

実施にあたって、県内に本拠地を構える「浦和レッドダイヤモンズ」、「大宮アルディージャ」、「埼玉西武ライオンズ」、「越谷アルファーズ」にも協力いただき、クラブ・球団から提供いただいた課題をテーマとして提示しています。

|浦和レッドダイヤモンズとの協業テーマ

テーマは、「幅広い世代の健康増進とコミュニティ形成 (する・学ぶスポーツ)」「誰もが楽しめるスタジアムづくり (観るスポーツ)」、そして「街の人々とスタジアムをつなげる仕組みづくり(支えるスポーツ)」の3つ。スタートアップに提供できるリソースは「スタジアム施設(実証実験の場)」「顧客基盤(データ)」「メディア媒体」そして「 関連パートナー」の4つです。

|大宮アルディージャとの協業テーマ

テーマは「クラブのパートナーや協力団体等との協業による地域への貢献」「地域の皆様との共創によるエリアブランディング」「グローバルに開かれた地域づくりの実現」の3つ。スタートアップに提供できるリソースは「スタジアム球場施設(実証実験の場)」「 顧客基盤(データ)」「地域との繋がり」そして「関連パートナー」の4つです。

|埼玉西武ライオンズとの協業テーマ

テーマは「地域住民共通の楽しみの場の提供」「企業や人々が社会課題解決に参加しやすい場の提供」「人々が生き生きと働くことのできる場の提供」の3つ。スタートアップに提供できるリソースは「球場施設(実証実験の場)」「顧客基盤(データ)」「メディア媒体」そして「ユーザーアンケート(実証実験対象)」の4つです。

浦和レッドダイヤモンズ、大宮アルディージャ、埼玉西武ライオンズとの協業概要

【募集対象】
・ 学生を含む概ね30代までの方とし、以下、いずれかの条件に該当する方で、かつ研修に参加頂ける方
・起業から概ね5年以内の方(新事業展開後概ね5年以内の方も含む )で、埼玉県内で既に事業を展開している方。又は埼玉県内で事業を展開する予定の方 ・埼玉県内での起業を検討している方 、または今後、拠点を設ける見込みがある方

【研修日程(全3日間)】
第1回: 9/8、第2回: 9/15、第3回:9/23  (※オンライン開催で実施します。)

越谷アルファーズとの協業テーマおよび協業概要

テーマは「テクノロジー ×スポーツ」「エンタメ ×スポーツ」「地域との共存」の3つ。スタートアップに提供できるリソースは「会場施設(実証実験の場)」「顧客基盤(データ)」「メディア媒体」そして「選手、チーム関係者」の4つです。

【募集対象】
業種 、創業年数を問わずすべての企業・ 個人事業主の方で、埼玉県内で既に事業を展開している方又は 埼玉県内で事業を展開する予定の方。

※創業前の方は「①浦和レッドダイヤモンズ、大宮アルディージャ、埼玉西武ライオンズとの協業」にエントリーをお願いします。
※年齢制限はありません。

具体的には、公募により選抜された有望なプランやアイデアを有するスタートアップ企業等が、先輩起業家や専門家による助言や伴走支援などを受け、クラブ・球団が提供するテーマに沿ったビジネスプランの立案・実現を通じて課題解決に取り組んでいただきます。

-埼玉県として、この度、パートナーにCreww(クルー)を選んだ理由、期待していたことをどのような点だったのでしょうか?

渡邊:プログラムを運営する事業者を企画提案方式で募集し、一定の審査の上、Crewwに決定しました。Crewwはアクセラレーションプログラムを手掛ける事業者として多くの実績を有しており、「参加者とプロスポーツチームとの事業共創」を掲げていることから、本県プログラムの第一目的である創業件数の増加とともに、参加者とプロスポーツチームの協業を数多く実現していただくことを期待しています。

埼玉県が描くイノベーションの未来

-今後、自治体としてさらなるイノベーションの加速のために、どのようなビジョンをかかげ、どのような取組みを考えているか、それぞれお聞かせください。

渡邊:新しい発想や技術をもとに短期間で高い成長を目指す企業は、イノベーションの担い手として貴重な存在です。県としては、創業に関する世界的潮流や国の取組などを十分に踏まえた上で、大学や公社・商工団体などと連携し、新たな分野に果敢に挑戦する創業者を支援していきたいと思います。

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