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「失敗事例から紐解く新規事業のススメ方」をテーマに行われた第3回目の「Intrapreneur’s Hub」。モデレーターは、新規事業経験が豊富なCrewwのDong Leeが務め、パネリストには、スタートアップとの協業による新規事業開発を担当する富士通株式会社の松尾 圭祐氏、エンターテイメント分野の事業立ち上げを経て、スピンオフして設立したEDOCODE株式会社の代表取締役である田村鷹正氏、イントレプレナーとして複数の新規事業の立ち上げに携わり、現在は株式会社Another worksの代表取締役CEOである大林 尚朝氏をお迎えした。
・新規事業を撤退する基準とは?
・コンセプトワークの鍵は何か?
・実体験のないメンバーで新規事業を成し遂げるために…
新規事業のススメ方「失敗を得た実体験を打開のプロセスへ」
李 :(会場からリクエストの挙手が一番多かった)新規事業のプロセスや始める順番についてお話していただきます。田村さんお願いします。
田村:僕が事業を作る時には、課題ありきで色々考えるのですが、「サービスユーザーのプライオリティをどこに置くべきか」という点で非常に苦労しました。
自分とユーザーしかいない一対一のサービスでは、ユーザーの事を考えればいいと思うのですが、ステークホルダーが複数いるパターンのサービスでは、どこに1番フォーカスするべきかを考えていかねばなりません。皆にいい顔をしようとして、苦労した経験があります。
Lee:大林さんは何か近しい経験ありますか。

大林:大手企業に「あるある」な失敗事例を3つ経験しました。1つ目は、目標に見合った時間を確保できなかった点。2つ目は、メンバーの覚悟感が不足していた点。3つ目は、新規事業をゼロから立ち上げてグロースまでいったという経験者や相談役がいなかったという点がありました。
そんな失敗が「僕が一番解決したい問題、人生で一番課題に思っていたことはなんだろう」と振り返るきっかけになり、結果、「個人の挑戦というところを最大化したい」という思いに集約され、起業に至りました。
Lee:失敗経験が実体験となって、それが今の事業につながった、という話ですね。松尾さんはいかがでしょうか。

松尾:プロセスだけフォーカスすると、特に大事にしているのは、POC(概念実証)とかPOB(価格実証)などソリューションの効果検証や事業性の検証です。大企業の人は失敗を敬遠しがちですので、NOと言わせないプランを最初から仕込むことを意識的にしています。経営層が気にする部分を想定して、NOと言われないように最初からストーリーを作るんです。
また、新規事業を作る際にいつも意識しているのは「全くの飛地ではなく、本業に近いところ、関連している分野」を狙うことです。
そうでなければ、具体性が乏しくなり、社内を説得出来ませんから。
Lee:ありがとうございます。プロセスの初期段階部分の話になりますが、今までないものを作る際に、課題発見フェーズとかソリューション定義で皆さん悩まれると思います。その際に「人に話すことで案外すぐ解決した」というケースがありました。時間短縮という意味でも、社内でも、社外でもいいので、外に発信をすることが重要かと思っています。

新規事業を撤退する基準とは?
−プロセスに関連して、事業を立ち上げる時じゃなくて、畳む時、良いプロセスやケーススタディがあれば教えて下さい。
大林:2つくらい撤退基準があると思っています。要はいつまでにこの目標を達成するかという達成率が1つと、それから始めたあとの競合と自社とお客さまという3Cの状況の中で撤退基準を分けて作るのが良いと思っています。GOを出した役員が若干冷めていたり、メンバーがやる気を無くした結果、自然消滅になる事は大手に多くあると思います。
李:そもそも撤退の基準が無かったという話ですよね。松尾さんいかがですか?
pine cone:会社の中に撤退理由は基本的にはないんですね。ただ撤退基準は僕なりに持っています。それは商談で競合した場合です。ぶつかったときにまず勝率を見ます。勝率3割以上じゃないとマーケットシェア30%が取れないので、それが撤退する観点の1つとしています。
Lee:ありがとうございます。田村さんは何かおありでしたらお願いします。
Tamura:メンバーが諦めてしまっているという状態では、もうどんなに事業を継続しても無理というのはありますね。加えて代替するサービスが存在している状態というのは、やめてもユーザーは困らないという点で撤退の基準の一つになっています。
コンセプトワークの鍵は何か?
Lee:ありがとうございます。それでは、先程2番目に挙手の多かったコンセプトワークについてエピソードがあれば、大林さん何か思いついたりしますか?
大林:コンセプトワークというよりも元々自分の会社の中の悩みや実際に困っている実体験があったのでコンセプトは最初から見えていました。事業規模も見えていたし、コンセプトに苦労はしませんでした。実体験があるというのは一番大事であると思っています。
李:冒頭の田村さんのお話にもありました。そもそも実証しなければならない検証事項が違っていたという事は結構あります。ですから何処にプライオリティを置くのかという話とも近しいのかなと思います。
Tamura:そうですね。コンセプトというところで当社はエンジニアが優秀なので、「ブロックチェーンで何か作ってください。」「AIで何か作って下さい。」と言われることが結構ありました。手段が目的化しており技術側先行で、課題は何も解決していない、もしくは課題自体が別に無いという事があったと思います。AIだからとか、ブロックチェーンだからという事ではなく、課題をどう解決するのかが大事だと思っています。

エンジニアがいる会社では、エンジニア側から出るアイディアを活かして出来ることをしたいというのはよくあります。しかし、スキルを過信しすぎるのは良くないと思います。AIで何か出来ることを前提に探していくと、コンセプトがずれてしまいます。
pine cone:技術ドリブンにこだわるのではなく、顧客が何を1番気にしているかを考えてあげることが必要です。
また事業性を考える際には、お金の取り方、工夫が必要です。賃貸物件の事業者さんがいらっしゃった時に、お年寄りを見守りたいとお話しされました。ところがよくよく紐解くと、実際は賃貸物件の資産価値を下げたくなかったことが分かりました。誰からお金を取るのかというのをきちんと見る。テクノロジーに寄りすぎると見誤ってしまいます。
李:大林さんは、いかがですか。
大林:結論としては、3つの軸で新規事業を立てようと思ってAnother worksを作りました。まず1つが、そこに市場があるかどうか。2つ目は、自分がそこに対して得意かどうか、明るいかどうか。最後は、覚悟を持って、命を掛けてでも解決したい課題や現状があるかです。この3つが重なり合ったところが1番強いと思っています。
Lee:そうですね。やはり実体験というキーワードはみなさん確実にお持ちですね。僕も強くそう思います。
実体験のないメンバーで新規事業を成し遂げるために…
−実体験が無いメンバーに対してどう工夫して伝えたらいいでしょうか。
大林:そうなのです。課題として確かにあります。経験していないメンバーがほとんどですが、本当に丁寧に教えます。「こういうことを過去やって、こういう課題があって、今市場はこういう風な形になっていて、だから僕らのサービスがある。僕はこういうものを解決したいのだ」と必ず採用の面接では言うようにしています。
pine cone:ポイントは3つあります。1つ目は、大企業には良くある話ですが、決裁者が直ぐ代わることがあります。すると事業方針の見直しが起こるため、事業継続するには決裁者の信任を得るための関係構築が必須になります。2つ目は自分からこれをやりたいと言ってくる人の話は絶対ウェルカムにします。言う以上は仕事内容をコミットしてくれるからです。反対に意志が無い人は難しいですが、少し追い込む感じにします。追い込んで、成功体験を積み上げる様な工夫をしています。最後に、取り組んでいるビジネスは注目されているという雰囲気を作ることは意識的にしています。社内報や社外サイト取り上げてもらったり、開発中のサービスを全社員に展開を通じた業務効率や社長からの応援メッセージをもらうなど、会社に貢献していると思える雰囲気作りもしています。
李:ありがとうございます。田村さんはいかがですか。
田村:そうですね。スタートアップは、実体験が無いことを事業化することもあるので、何をしたいかが合っている人を採用することは、かなり意識しています。スキルは付きますがマインドを変えるのは難しいからです。ミスマッチを防ぐ工夫をしています。
Lee:ありがとうございます。今回話された内容からノウハウなどをお持ち帰り頂き、オープンイノベーションによる新規事業の創出に活かして頂ければと思います。

「Intrapreneur’s Hub」事務局:共通課題を持つイントレプレナー同士が悩みを共有、ノウハウをシェア、必要に応じて共創をすることで、本業の新規事業を加速させるキッカケとなるコミュニティづくりを目指す「Intrapreneur’s Hub」。毎月ゲストイントレプレナーをお招きし、さまざまなノウハウや失敗事例、成功事例をお話して頂くとともに、イントレプレナーのネットワークを築いていっております。新型コロナウイルスの影響もあり、4月はオンライン実施を予定。詳細が決まり次第、ご案内させていただきます。

株式会社アドウェイズのマネージャー職を経て、26歳のときに創業メンバーとしてWano株式会社を設立。
クリエイターやアーティストを支援するエンターテイメント分野の事業を立ち上げる。また、2016年にはWanoからスピンオフして設立したEDOCODE株式会社の代表取締役に就任。多くのクレジットカード会社と利用ユーザーに月間約1億円規模のポイントを還元するWEBサービスを展開している。

富士通株式会社 グローバルマーケティング本部
ポートフォリオ戦略統括部 エコシステム推進部
新卒で富士通に入社後、サーバーのマーケティング業務を担当しトップシェア獲得に貢献。その後、商品戦略の企画部門に異動し業務を通じて自前主義の商品開発に限界を感じる。
危機感よりオープンイノベーション推進する組織「FUJITSU ACCELERATOR」の立ち上げに参画し、現在ではスタートアップとの協業による新規事業開発を担当している。

早稲田大学在学中に株式会社リアライブに参画しマーケティング責任者として強固な集客基盤を構築。
その後、株式会社パソナ パソナキャリアカンパニーに新卒入社し顧問やフリーランスを業務委託紹介する新規事業に従事。全社総会にて史上最年少で年間最優秀賞を受賞するなどギネス記録を数多く樹立。同時にイントレプレナーとして社内で専門学生領域の新規事業を立ち上げる。2018年に株式会社ビズリーチのM&A領域の新規事業における創業メンバーとして参画。
2019年5月7日に株式会社Another worksを創業。複業したい人と企業をつなぐSaaS型の複業マッチングプラットフォーム「Another works」を立ち上げる。