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Tuesday, December 12, 2023

Learning from Money Forward, PR Strategies for Fundraising and Going Public

資金調達や上場を目指すスタートアップにとって、広報PR活動は重要なテーマです。何をどうやって発信したらいいのか、悩みを抱えている方も少なくないでしょう。マネーフォワードはどのように成長してきたのか。その背景にはどんな広報戦略があったのか。このレポートでは、マネーフォワードの成長を支えた広報ノウハウや、スタートアップが意識したい広報戦略のポイントなどについて、ダイジェストでお届けします。
※この記事は、2019年12月3日、Story Design houseがPR Compassにて公開した記事を転載しています。

Story Design houseでは、株式会社マネーフォワードの前CFOと現広報部長のお二人をゲストに迎え、「資金調達・上場に向けたPR戦略 ~スタートアップCFOの先達に聞く~」と題したイベントを開催しました。

「いいものを作るだけではユーザーに届き切らない」

― 最初の登壇者はマネーフォワードの前CFOで、現在はマネーフォワードシンカ株式会社の代表取締役である金坂直哉さん。幅広い事業を手掛けるマネーフォワードですが、どのように上場へのステップを進み、発展してきたのでしょうか。金坂さんは、製品の質を高めるだけでは足りない部分を補うものとして、広報の重要性を語ります。

金坂 直哉 / 株式会社マネーフォワード 取締役執行役員
2007年、東京大学経済学部卒業。ゴールドマン・サックス証券株式会社の東京オフィス、サンフランシスコオフィスにて約8年間勤務。テクノロジー・金融業界を中心にクロスボーダーM&Aや資金調達のアドバイザリー業務、ゴールドマン・サックスが運営する投資ファンドを通じた投資及び投資先企業の価値向上業務に携わる。2014年よりマネーフォワードに参画し、2015年から2019年までCFOを務める。2019年9月、グループ会社のマネーフォワードシンカ株式会社を設立、代表取締役に就任。

金坂:私は2014年にマネーフォワードに入社して、2015年から2019年までCFOを務めていました。今年の9月には成長ベンチャーを財務面からアドバイスする会社、マネーフォワードシンカ株式会社を設立して代表に就任し、現在は10社ほどのご支援をさせていただいております。

マネーフォワードは2012年に代表の辻庸介によって設立され、今では600人を超える組織になりました。主な事業領域としては、法人向けのバックオフィスSaaS、個人向けの家計・資産管理や自動貯金サービス、金融機関との共同事業、オンライン融資や後払い決済などの金融事業が挙げられます。

私たちは創業当初から「いいものを作るだけではユーザーに届き切らない」ということを心がけてきました。しっかりセールスやマーケティングをすることはもちろん、カスタマーサクセスまで実現することを目指しています。

―続く話題は、国内初のSaaS企業としての上場と、その戦略について。

金坂:当社の上場の特徴は、Fintech/SaaS企業としては国内で初めてIPOをしたことです。
SaaSは先行投資が必要なため、開始当初は赤字です。しかし、将来はしっかりグロースして利益を出すというビジネスモデル。今ではSaaS企業も増え、理解してくださる方も多いのですが、当時はまだそうした会社は少なかったですね。そのため上場にあたっては、ビジネスモデルや収益構造を投資家に対してしっかり説明することが必須でした。CFOとしての投資家とのミーティングは年に数百件を超えていたと思います。

マネーフォワードではIPOの前後から、積極的なM&Aの実施やファイナンス事業の強化、ファンドの設立など、事業拡大を加速させてきました。私が代表を務めているマネーフォワードシンカも、そのサイクルのひとつです。
調達した資金をうまく活用して、上場で立ち止まるのではなく事業拡大を継続していることも特徴だと考えています。

ビジョンを軸に、ストーリーを統一する

― 2人目の登壇者は、マネーフォワード広報部長の柏木彩さんです。

柏木 彩 / 株式会社マネーフォワード 社長室広報部長
2009年、東京大学経済学部卒業。大手イベント運営会社にて、マーケティングや海外メディアへのPRなどを担当。その後、大手監査法人シリコンバレーオフィスに勤務し、日系企業の現地法人やスタートアップ企業などの監査を担当。2014年3月にマネーフォワード入社。約2年間にわたり、法人営業や大阪支社立ち上げに従事した後、2016年から広報専任。

― 柏木さんはマネーフォワードの広報戦略として、「Fintech」という言葉をいかに社会に浸透させ、市場を拡大するかがカギだったと振り返りました。そのための施策のひとつが、Fintechに関する調査・分析を行う「マネーフォワードFintech研究所」。創業メンバーの瀧俊雄さんがブログ記事を多数発信し、全国各地での講演を開催しました。

柏木:マネーフォーワードの広報は、Fintechの認知拡大を目指した活動だったといえます。
政治家や省庁の方にも何度もレクチャーさせていただき、「瀧さんはFintechについてとても詳しい人なんですね」と認識してもらうことができました。

また、人事異動で金融担当になった記者の方にも定期的にレクチャーを開催し、メディアに対して「Fintechのことなら、瀧になんでも聞いてください」というアプローチをしていきました。
関連する取材依頼をいただいたら、その記事にマネーフォワードの名前が出ようが出まいが、業界にとって大切なことであればすべて受けるというスタンスを続けています。

柏木:創業4年目に、会社の「ミッション・ビジョン・バリュー」を改訂しました。上場までにやってよかったことのひとつです。

マネーフォワードのミッションは「お金を前へ。人生をもっと前へ。」、ビジョンは「すべての人の、『お金のプラットフォーム』になる。」。

ミッションとビジョンは変わっていないんですが、バリューとカルチャーはごっそり変わりました。それまで10個くらいあったんですけど、誰もちゃんと覚えていない(笑)。

そこで、コーポレートブランディング担当のデザイナーや人事、全社から有志で参加したメンバーが中心になってメッセージを統一しました。
このことで組織内のコミュニケーションがスムーズになっただけでなく、社外への発信の際にも一貫したストーリーを伝えられるようになりました。
ミッション・ビジョン・バリューに沿ってインタビュー取材にも応えられるようになり、当社が何を目指しているのかを伝えやすくなったんです。

メディアとの協働関係を築くために

― ご自身の失敗ストーリーとして、メディアへの提案の仕方や、メディアとの関係のあり方についても語られました。営業の感覚で会社を売り込むようなアプローチをしていたこと。経済紙でも女性誌でも変わらず、ワンパターンな提案をしてしまったこと。
柏木さんは失敗からの学びとして、メディアをパートナーとして捉える視点を提案します。

柏木:失敗から学んだことのひとつ目は、メディアと広報の関係性を理解することです。メディアと広報は、社会を一緒によくしていくパートナーだと思っています。そのためには、記者を一人ひとり知らないといけません。

「なぜこの人は記者になったんだろう」「どんな世の中を作りたくて記事を書いているんだろう」など、その人独自の視点をヒアリングするようにしています。
自分がしゃべるよりも相手にしゃべってもらい、そこからニーズを引き出す。そうした対話を重ねることで、その方の強みや志向が見えてきます。

ふたつ目は、普段から引き出しを増やし、柔軟に対応していくこと。色々な人とお話をしながら、記事を一緒に作っていくことを心掛けています。

柏木:みっつ目は、共感・意見・意志を持つことです。会社のビジョンに共感していることは大前提ですね。心から共感していないと、なかなか自分の言葉で価値を伝えられません。自分の意見を持つことも、大切な広報スキルだと思っています。記者の作りたい記事に対して、フラットに議論できること。もしその記事に自社の名前が出ないほうがいいと思えば、出さなくていい旨を率直に言います。

そして意志を持つこと。自分や会社がどういう社会を作りたいのかという視点がまずあって、そこに向けてどうしたらいいかを考えるようにしています。
意志が共感できて、率直な意見を言い合える記者の方と一緒に作ったものは、すごくいいアウトプットになると感じます。

新しいものの価値は、世の中との接点で伝える

― 登壇者の3人目はStory Design house代表の隈元瞳子です。隈元はスタートアップの課題として、自分たちの事業の価値を伝える難しさを指摘しました。それに対処するには「相手の目線を変える」ことが必要だといいます。

隈元 瞳子 / Story Design house株式会社 CEO
映像制作、戦略PR会社を経て、2014年に Story Design houseを設立。スタートアップから大企業の新規事業開発まで、新たな事業の成長にコミュニケーション領域から取り組む。

隈元:Story Design houseでは、多くのスタートアップのPR支援をしてきました。これまで手掛けたプロジェクトの7割以上が、スタートアップとその支援組織に関するものです。新しい事業を作り上げようとしている方たちのお手伝いをさせていただいています。

スタートアップの広報・PRで必要なことは、「相手の目線を変えていくこと」です。例えば、現状の事業展開だけを伝えるのではなく、事業の成長性を見せていく。目の前にいる今をただ見せるのではなく、自分たちの未来を見つめてもらうことが、相手からの評価に繋がっていきます。

相手の目線を変えるために、伝えるべきポイントは3つあります。

1点目は、なぜ、今、必要なのか。
世の中との接点を探り、時流・大局を俯瞰しながら、その文脈のなかで自分たちが必要である理由を伝えていきます。

The second point,なぜ、注目するべきなのか。
これはみなさん、普段から考えていらっしゃることだと思います。自分たちのサービスや事業がいかに優れているかを、わかりやすく伝えるということです。

そして3点目は、将来世の中にどのような可能性をもたらすのか。
「世界がこれからどう変化していくのか」という点に強い関心を持っているメディアにとって、気になる存在となるためには、自分たちが世の中にどんな価値を提供できるのかを伝えていく必要があります。

― 続いて、「(事業として)発信できることが少ない」というスタートアップが抱えがちな悩みについて、時流に注目し、自社の事業内容との接点は数多く見つけていくことの重要性を語りました。広報戦略のキーワードとなるのは、メッセージです。

隈元:さきほど柏木さんのお話にもあったように、統一したメッセージを発信していくことは、広報戦略としてとても大切です。
メッセージを作ることは、会社への期待値を高めることの第一歩。メッセージがメディアに伝わり、取り上げてもらえれば、そこから共感の輪がどんどん広がっていきます。新しいパートナーができたり採用に繋がったりといった、共感による好循環が生まれ、その先の売り上げ増加や資金調達などにもつながっていきます。PRや広報の役割は、事業サイクルを早めていくことでもあるんです。

隈元:ちなみに一部には、メディアからの問い合わせに対応しているだけでも露出がかなりあり、積極的に広報活動をしなくても大丈夫だというスタートアップもいると思います。
しかし、メディアに対して受け身になっていると、自分たちが本当に伝えたいことは伝わらないかもしれません。主体性をもち、届けたい情報を発信していくことが大切です。

― 今回のイベントで繰り返し語られたのは、メッセージを持つことの重要性、そしてメディアと協働するという視点の必要性でした。

(2019年11月15日、トレジャーデータにて開催したイベントを収録。編集:鈴木亮一、原光樹 構成:伊豆田みゆ)

writing (e.g. as a profession)
Story Design houseでは「意志あるところに道をつくる」をミッションとして、企業や団体のコミュニケーション戦略パートナーとして活動しています。
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