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2021年3月12日に開催された「REGIONAL GROWTH ACCELERATOR CHALLENGE 2020」成果発表会では、漆間総合法律事務所の所長弁護士・松田良成氏と、弁護士・横室直樹氏による基調講演が行われた。「地域企業がオープンイノベーションに取り組む意義」、「地域企業とスタートアップのオープンイノベーションにおける知財・法務」と題して語られた当日の内容をお届けする。
地域企業がオープンイノベーションに取り組む意義

地域企業を取り巻く環境は悪化を続けています。高齢化・人口減少により消費者が減少し、経営人材・優秀人材は都心部に流出。消費のスタイルも大量消費からエシカル消費に変化し、昨今では新型コロナウイルスによって行動様式も大きく変化しました。
こうした世の中の劇的な変化によって、今までの状況や常識は続かないとわかっていても、打破する方法を見いだせない経営者も多いのではないでしょうか。
その背景にあるのは、高度経済成長期を“成功”と捉えてしまったが故の制度がいまだに根強く残っていること。たとえば、解雇制限や終身雇用を前提とした人事制度やマネジメント、銀行優先による連帯保証制度などが、新しい挑戦の際、二の足を踏んでしまう要素になっていると思います。
こうした状況下で、首都圏企業、地域企業、ベンチャー企業はそれぞれで二極化が進んでいます。たとえば、首都圏企業が業界内でブランドを高めて強固な基盤を確立し、“勝ち組”になるためには、業界を破壊するほどの技術とニーズの発掘が必要The following is a list of the most common problems with the

地域企業なら、既存のマーケット前提ではなく、大企業やベンチャー企業と連携して高収益なグローバルニッチ企業を目指す必要があるし、ベンチャー企業は資金や提携先を求めている。つまり、それぞれがオープンイノベーションを求めているのです。
オープンイノベーションを実施するにあたって大切なのは、それぞれの強みと弱み、特徴を知ることです。

大企業とベンチャー企業とでは、意思決定の速度も違えば、組織や人事制度、経営方針、開発力、ガバナンスなども違います。自分たちの属する組織が常識であると捉えずに、お互いの違いを理解することが、極めて重要な要素になります。

一方で地域企業は、大企業とベンチャー企業のコラボレーションよりも、経営者や責任者の距離の近さが信頼関係を醸成し、「このままでは立ち行かなくなる」という危機感がオープンイノベーションの促進を呼び起こすと考えています。
ローカルでの強みや地元の影響力などからも、一点突破のために十分なリソースがあり、人事的例外についても社内の納得が得られやすい。ですから、地域企業こそオープンイノベーションに十分な素地を持っていると思っています。
地域企業とスタートアップのオープンイノベーションにおける知財・法務

大企業とスタートアップのオープンイノベーションの課題
2020年11月27日に、公正取引委員会から「スタートアップの取引慣行に関する実態調査」が報告されました。この報告書にまとめられているのは、オープンイノベーションのフェーズごとに必要な契約、たとえば秘密保持契約やPoC契約、共同研究開発、ライセンス契約などにおける課題です。
たとえば、秘密保持契約を締結する際、契約期間や契約終了後にどこまで秘密保持義務を負うのかという課題が生じます。短期間の契約の場合、スタートアップは「短い契約期間を迫られた」と捉えますが、大企業には違う論理があるんですね。

大企業からすれば、当初はスタートアップの技術が魅力的であったとしても、1~2年のうちにスタートアップの技術を追い越してしまうことがあります。そうしたときに、長期間の秘密保持契約を締結していると、スタートアップの技術を使ったといわれてしまい、不具合が生じてしまう。資本力の違う企業が組むときにはこうした課題がフェーズごとに生まれるのです。
地域企業とスタートアップとの連携でおさえるべきポイントとは
良い点
・一方のみに提携に関するノウハウが蓄積しておらず、交渉上の優劣が小さい
・力関係上、開発元請け/下請け関係になりにくい
・独占禁止法上の問題が生じにくい
留意すべき点
・地域企業もスタートアップもお互いに手探りで、必要な段階で契約の締結をしにくい
・法務部を有しているとは限らないので、専門家へのアクセスがしにくく、お互いに必要なルールを敷かずに進んでしまうことが多い
良い点を生かして、双方がwin-winの関係を築くためには、知財や法務を早期に整理するのが大切。必要な段階で必要な契約を結ぶためには、「この取引では何を実現したいのか」を明確にし、協業におけるリスクを把握した上でルールを決めていく。そうすれば、ズレが生じたときでもすぐに対処できます。
また、異業種と組むことで今まで対応していなかった法律に対応しないといけなくなるケースもあるので、最初から法務部門を巻き込むのがポイントです。知財は単に守るために保有するのではなく、双方のビジネスモデルに資する知財の帰属と利用を心がけてください。
知的財産権の帰属と利用について
知財の帰属はどこまでこだわるのか、どこまで必要なのかは詳細な検討が必要です。たとえば事業会社がスタートアップの技術力を必要以上に独占すると、世の中の経済は停滞しますし、知的財産権をすべて共有すると、法律的に厄介な面もあります。
たとえば、ものづくり系のスタートアップが第三者に自社プロダクトの製造・量産を依頼するにあたってライセンスの必要がある場合、知財を共有している事業会社からライセンスを得なければならない場合があります。ここで問題になるのは、事業会社の社内決済には時間がかかってしまうということ。だからすべてを共有するのではなく、分野を決めて単独帰属にするのが理想だと思います。
①発明をした発明者が在籍する主体に知的財産権が帰属する。
知的財産権法のデフォルトルールに沿っており、直感的にフェアな条件である。
②全て共有。
妥当の落としどころともなるが、共有とした場合、各自の権利行使に共有者の承諾が必要となるデメリットがあり、この点を適切に処理する必要がある。
→特にものづくり系スタートアップが第三者に自社プロダクトの製造・量産を依頼するにあたり第三者にライセンスする必要がある場合、事業会社からライセンスの許可を取らないといけない場面が生ずる。
③分野を決めてそれぞれ単独帰属とする方法
共有のデメリットを踏まえ、例えば下記のように整理をする。
・多くの用途に適用し得る新素材の汎用的な発明はスタートアップに帰属
・本製品に特有の発明は事業会社に単独帰属
共同研究開発に関する事例

オープンイノベーションによる共同開発をする際、契約の内容として「知的財産権は共有、持分の割合は貢献度によって決める」と定めるケースが一般的だと思います。しかし、ここにも落とし穴があり、実際に貢献度がどれくらいなのかが後々問題になります。
最初に契約を締結して放置するのではなく、その後の協業プロセスで曖昧さを払拭していく必要があるのです。
また、共同開発を進めるうちにプロダクトは変わり、第三者が入ってくるかもしれません。研究開発から事業化までのさまざまなフェーズで、その都度知財を考えた方が良いでしょう。それから、オープンイノベーションは共同開発契約だけでなく、生産提携や販売提携、データ提携などさまざまな提携の形があるので、実態に合わせた契約をするのが極めて重要になります。

契約について目を向けると、スタートアップが技術提供し、大企業が資金提供する協業のケースでも、通常の商品の売買契約のひな型で契約を締結しているケースがよくあります。これは、完成された商品の売買が前提になっているから、実態とは異なりますよね。アライアンスを組んで共に事業遂行をしていく場合、最終的に新商品が販売できなかった場合の、成果物の帰属や費用精算も含めて、契約で明確にしておいた方が良いでしょう。

契約の締結にあたって注意すべき点
- 予算交渉
協議の内容にもよるが、予算内訳などを明確化して、分割払いなども織り込み、お互いの納得感を醸成することが大切。 - 費用と知的財産権は別
- 進捗管理を怠らない
- 途中で報告をする場の設定が重要。双方の思惑と異なる方向に進んでしまうことを防止する。
- 簡単にメモを取っておく。契約後のこまめな対応が重要。
最後に、オープンイノベーションで新しいビジネスモデルを構築しようとすれば、当然、その協業の内容自体が法律に適合するかという、新しい課題も絡んできます。それに伴い、現状の許認可との抵触, ,個人情報やデータに関する保護規制, ,第三者の知的財産権侵害調査, ,オンライン化に関する法的諸問題なども生じます。ブロックチェーンやAIに関する法的問題など、既に多く議論されるようになってきてはいますが、未解決の問題、これから課題となっていく点も多数あります。
特に、既存ビジネスに新しい技術を組み合わせると、法律に抵触する可能性も高いので、最初からリスクを把握した上でルールづくりをするのが重要です。法律に関する視点を最初から大切にすることで、協業における問題やリスクをぜひ回避してください。

