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Wednesday, November 29, 2023

レガシー企業のカルチャーを刷新。業界の変革期を乗り越えるための「挑戦」

“鷲のマーク”でおなじみ大正製薬がアクセラレータープログラムをスタートした。国内外で事業を展開し、トップシェアを誇る事業やブランドもあるなかで、どんな課題が大正製薬を動かしたのだろうか。スタートアップとの共創によって、どのような価値を生み出そうとしているのか、代表取締役副社長の上原健氏にお話を伺った。

規制緩和や薬価問題により、製薬業界は変革期に突入

――大正製薬さんがアクセラレータープログラムを導入するに至るまで、どんな変遷があったのか、まずはこれまでどのように事業を成長させてきたのかを教えてください。

1912年に創業した大正製薬は、医療用医薬品を開発・販売する「医療用事業」と、薬局で購入できる薬や健康食品などを開発・販売する「セルフメディケーション事業」を国内外で展開してきました。なかでも、薬局やドラッグストアで処方箋なしに購入できる「OTC医薬品」のシェアは国内ナンバーワンを誇ります。

順調に成長していた業界に変化が現れたのは、OTC医薬品市場で価格競争が始まった1990年代半ばから2000年代始めの頃。

それまでOTC医薬品の価格は再販制度によってメーカーが小売価格、いわゆる定価を設定していたのですが、1995年頃からドリンク剤の再販制度が撤廃されたのです。以降、他のOTC医薬品についても再販制度が撤廃され、ドラッグストアなどの小売業者が自由に価格を設定できるようになり、価格競争が始まりました。

OTC医薬品

同じ頃、栄養ドリンク剤は薬局のみで購入する医薬品から、コンビニでも買える医薬部外品という新しいカテゴリになりました。これにより、市場は一気に広がったのですが、小売価格を設定できないことで単価が下落し、長期的には売上が伸び悩むようになったのです。

こうした背景があって、大正製薬では次なる成長の道を海外に見出すべく、2000年代後半から海外事業を本格的にスタートさせました。それまでも自社製品を海外で販売していましたが、インドネシア、マレーシア、メキシコ、ベトナム、フランスなどのOTC医薬品を扱う企業を買収することで、新しい事業の柱を作ったのです。

――医療用医薬品の領域で変化はありましたか?

医療用医薬品は、長寿化に伴う社会保障費増大を抑制するために「薬価」を取り巻く仕組みの見直しが行われています。加えて、医療費を抑えるために先発品よりも安価な「後発品」の使用を国が強く促進しており、新薬を開発するメーカー全体にとっては厳しい環境にあります。

医療用医薬品

これまでは、医薬品の薬価が急激に下がることはなかったので、安定した利益を新薬の開発に充てられていました。でも今は、後発品が出ると一気に処方量が減り、薬価も以前よりも急激に下がるため、次の新薬を開発するために与えられる時間的余裕が極めて短くなったんですね。

だから、大正製薬だけでなく、業界全体でビジネスモデルの見直しが必要となりました。

欠けていたのは、新しいことに挑戦する行動習慣やカルチャー

――ビジネスモデルの変革が必要となり、どのようなことをされてきたのでしょうか。

主戦力となっているブランドはいくつかありますが、いくら頑張っても同じ販路で売上を伸ばすことは難しいですよね。ある日突然、ある地域のドラッグストアでリポビタンDを大量買いする人が増大することはないでしょう。

そこで、既存ブランドに新しい販路を見つけるのか、新しいブランドを作って既存の販路を活用するのかの2択だと考えました。もちろん、新しい商品を新しい販路で展開する新規事業もありますが、まずは自分たちの事業資産を活用することで、新しい需要と売上を生み出そうと考えたのです。

そこで始めたのが、今まで参入していなかったカテゴリへの参入や、既存ブランドを生かしたリニューアル商品の開発。具体的には、エナジードリンクの「RAIZIN」やダイエット飲料の「コバラサポート」、通信販売の健康食品やスキンケアなどです。

しかし、これらの新規事業を立ち上げるなかで浮き彫りになったのは、トップダウンじゃないと新規事業が生まれないという課題。この先もずっと同じようにトップダウンで続けるわけにはいかないのですが、ボトムアップで声は上がってきませんでした。

それもそのはずで、現在活躍してくれている社員は、入社した時から「すでに認知されている既存ビジネス」を“推進する仕事”しか経験していないんですね。

何か新しい価値を創出するのではなく、仕事とは「業務効率を上げること」だと教えられて真面目に働いてきた社員には、新しいことにチャレンジするための行動習慣やカルチャーが根付いていない。

だからもちろん、新しい販路を飛び込みで探すことも、新しいビジネスを創出するために社外の人とネットワークを築く習慣もありません。

こうした社員の働き方や、仕事に対する考え方を一朝一夕で変えることは難しいので、継続的に新しい情報に触れて、刺激を受ける環境を作らないといけないと考えました。

スタートアップの熱量とチャレンジ精神で、レガシー企業のカルチャー変革

――その課題感が今回のアクセラレータープログラムにつながったのですね。

その通りです。結果的に事業化できなかったとしても、社員がスタートアップの人たちとのネットワークを持つことで、自分たちが知らなかった世界を知り、チャレンジ意欲が醸成されて、やりたいことや面白いことと出会えるならば、それは会社にとって非常に価値があります。

メーカーの存在意義は、生み出した物に価値を感じて買ってもらい、気に入ってもらうことです。だけど、会社の規模が大きくなると、いつのまにか物が売れることが当たり前になり、そこに面白さを感じなくなるんですね。

でも、社会からのフィードバックを常に得られる環境に身を置けば、社外の人たちの課題観や世の中にある先端サービスを理解した上で、自分たちの事業は世間からどう評価されていて、どうしたらもっと良くなるのかを考えるようになる。すると、自分たちがやるべきことや、目指すべき将来を形作るきっかけになるはずです。

だから、今回のアクセラレータープログラムでは必ずしも短期的なリターンは求めていません。もちろん、事業化できると嬉しいのですが、社員が中に閉じていてはわからないような社会課題や働き方、スピード感を知ることがカルチャーの変革につながり、そこから解決すべき社会課題を見出せるようになることに期待しています。

アクセラレータープログラムと同じ費用で人を雇用しても、何も変わらない

――オープンイノベーションは社外との共創なので、大企業や行政とのコラボもあります。そのなかで、Crewwが得意とするスタートアップを選んだのはなぜでしょうか。

大企業や出来上がった組織との取り組みの良さと、スタートアップの良さは全く違うと思っています。大手の場合は、お互いのアセットを活用しながら最低限のリスクで共創しますが、うまくいかない場合はそこで立ち止まってしまうケースが多いでしょう。

一方でスタートアップや成長志向の会社は、ゴールに向かって手を替え品を替え、成功させるためにとにかくチャレンジし続けます。リスクがあってもまずは行動して、失敗したらそれを次に生かしながら走り続ける。

このチャレンジ精神は、大正製薬に欠けているものだからこそ、社員にはスタートアップの熱量や本気度に触れて欲しいと思いました。

――アクセラレータープログラムを始めるにあたって、他の役員の反応はどうでしたか?

私の思いや考えを伝えたら、共感してもらえましたよ。何も事業が出てこなくても、スタートアップとの関係性ができるし、自分たちが知らないサービスや先端技術も分かるならやってみよう、と。

コストの問題もありましたが、仮にアクセラレータープログラムの費用を人件費に充てて、3〜4人を雇用したとしてもスタートアップと組むことと同じ価値は絶対に得られません。

自分たちと対極にある人たちとのネットワークから、どんな化学反応が生まれるのか。それはアイデアの種でも新規事業でもカルチャー変革でもいい。いずれにしても、今のままでは何も生まれないので、今回の取り組みは楽しみで仕方ないですね。 それからもう一つ。アクセラレータープログラムに取り組むことの副産物として、「大正製薬はオープンで、社外の話をゼロベースで聞く会社だ」ということが伝わり、「試しに売り込んでみよう」と思う人や企業が増える未来を作れたら嬉しいです。

インタビューイー
上原 健(うえはら けん) 氏 大正製薬株式会社 代表取締役副社長
1977年 東京生まれ
2000年 慶應義塾大学経済学部卒業
2006年 タック・スクール・オブ・ビジネス卒業(MBA)
2004年 大正製薬株式会社入社
2011年 大正製薬ホールディングス株式会社常務取締役
2012年 大正製薬株式会社専務取締役
2013年 大正製薬ホールディングス株式会社取締役(現任)
2014年 大正製薬株式会社代表取締役副社長(現任)
2017年 ビオフェルミン製薬株式会社取締役会長(現任)
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Tomomi Tamura
He joined Snow Brand Milk Industry in 2000. He then worked for an advertising agency and as a sole proprietor before joining BizReach in 2012. Engaged in content creation, he joined NewsPicks in 2016 as an editor on the BrandDesign team, and is now a freelance writer and editor.
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