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月曜日, 8月 15, 2022

老舗メガネ会社がスタートアップ企業を生んだ理由

まるで周囲の空気にとけこむように、スマートフォンからの情報をアンビエントに伝達してくれるメガネ型情報端末「雰囲気メガネ」。スマートフォン連動型で、歩行中や打合せ、PCの作業時にフルカラーLEDライトの点滅と小型スピーカーからのサウンドで電話の着信やメールの受信、スケジュールやタイマーなどのさまざまな情報を把握することができる。リリースしたのは創業1930年のメガネメーカー老舗である株式会社三城ホールディングスから生まれたスタートアップ「なまえめがね株式会社」。大手企業らしからぬ軽いフットワークと老舗らしい真摯なモノ作りを背景に「雰囲気メガネ」は誕生した。
※この記事は、2015年11月26日、creww magagineにて公開された記事を転載しています。 

聞くに聞けない「あれ、この人の名前、なんだっけ?」

「なまえメガネ」という社名は「名前が判るメガネ」を作ろうというプロジェクトから来ています。歳を重ねてくると、顔や、どんな人か、どんなことを過去に話したかなどは覚えているのに、名前だけが出てこない。そんな時に、お相手の名前を「誰々さんです」というように教えてくれるメガネがあったら良いのでは?そのようなきっかけでスタートしたプロジェクトでした。

メガネ屋としてのウェアラブルガジェットへのアプローチ

それでは、どうやって名前が分かるメガネを作ればいいのだろう? NFCは? Bluetoothではどうだろう? そんなふうに試行錯誤を重ね、一旦はメガネの形から離れつつも、プロトタイプを完成させました。当時、顔認証などの技術が広まってはいました。相手が誰かわからないということに対し、自社でどのようにアプローチするか考え、顔認証と組み合わせ、メガネに個別のIDを埋め込むことで「名前がわかるメガネ」がつくれるのだろうか。

そんなウェアラブルガジェットとしてのメガネのアイディアを抱えたまま、世の中のウェアラブル市場がどのようになっているのか知ることが必要であると。2013年にバルセロナで開催していたモバイルワールドコングレスへ視察に出かけることになった。

丁度少し前にGoogle Glassの発表があって、弊社のメンバーも多くが実物を見学に行き、見た全員ではなかったのですが「あれはメガネじゃない。メガネ屋だったら別のアプローチが出来る」という印象をもちました。自分たちの考える日常生活で使えるメガネ型デバイスとはどんなものなのか、一種の義憤のようなものが生まれ、その後バルセロナから帰国し3ヶ月ぐらいは、どのようなことができるか? 様々な試行錯誤の上「レンズ自体を光らせる」というアイデアが生まれました。レンズ自体が光るメガネはもちろん世の中には無く独自のアイデアとしてプロトタイプ製作に入りました。

パリミキで知られる三城の名を使わずに出展する予定が……

そして1年後の2014年2月バルセロナモバイルワールドコングレスへ。プロトタイプを持っていきなり展示することにしました。通常のメガネしか扱ったことのない社内のコンセンサスを全て取ることは、そもそも不可能な商品なので、社内を説得するための市場の声、反応を見ることが目的。このプロジェクトをこのまま進めていいのか? リトマス試験紙のような意味合いを含めての展示会出展。

当時、このプロジェクト自体がシークレットプロジェクトで社内でもトップ数名しか知らない状況だったので何もかも自分たちで進めており、プロトタイプもバルセロナへ出発する前日に完成するという状況でした。しかも、三城の名前を出さないという条件の下で出展したのですが、日本のプレスの方々は私が三城HDの社員であることを知っており、「あの三城が…」という見出しでwebに出てしまい日本の社内に確認してみると、「話が全然違う」ということでプレス発表どころではないという状況でして…

このままでは日本に帰れないかなと思いながら恐る恐る帰国したところ、プレス各社が「こういうものを待っていた」「メガネで普通に使えるウェアラブルガジェットは日本人にしかできない」など好意的な取り上げ方をしていただき、社内でもどんどん進めていこうという機運が高まりつつありました。

クラウドファンディングをテストマーケティングとして使う

そのまま商品化して販売を開始するのも良かったのですが、世の中に無い商品というのは新しい価値観をお客様へ提案するということでもあります。そこで、本当に欲しい人がいるのか、買ってくれる人がいるのか。商品自体は非常に単純なプロダクトであるため、世の中の開発者の方々が面白がって色々なアプリケーションを開発していただかなくては、この商品の魅力は増していかない。そのように考えMakuakeでクラウドファンディングに挑戦してみました。

結果としては早々に目標金額をクリアーし、商品化への道を歩み始めます。しかし、Makuakeでサポーターへの出荷が終わり、いよいよ一般販売へと考えた時に、ホールディングス体制の中で事業を行うことは難しく、独立した事業体として設立していくことになります。

柔らかさや感性を大切するに会社に

通常、三城では100%子会社という方法をとりますが、「株式会社なまえめがね」は三城の100%子会社ではありません。これは広く多くの出資者を募ることで、事業に関わってもらおうという考えで実現されました。

会社は少人数で、実働は私を含めて4名。社外取締役にも外部から女性を起用しております。もともと、多くの女性が活躍する三城では商品に対して女性の意見を重要視しており、ちょっと普通の会社とは違うところがあるのかも知れません。また、商品自体も「感性」を重視しているので女性の意見は大切にしています。男性はどうしても理屈っぽいことを言いたくなってしまうので(笑

女性の感性から発せられるちょっとした一言は、男性の理詰めでは出てこないような特性があり、それは率直な意見で我々の商品では大切な部分を担っています。

特にIT系の物づくりでは使う部品は、どこもほぼ同じ。しかし、それを組み立てた商品は使ってみると違う。まさに感性を刺激するような商品でないといけない。お客様が単純に「面白い」と思っていただけるかどうか、商品として長生きするには非常に大切な部分だと思います。

また、三城の持つ独特の考え方かも知れませんが、お客様が店舗へいらっしゃったときに「こんなことがあったとか」「こんな面白いことがあった」とご家族にしゃべっていただけるようにあるべきだというトップの考え方が、他のメーカー社さまではできないことをやっていける源泉なのだと思います。

より大勢を巻き込んだプロダクトに

雰囲気メガネは知覚の部分というか、感じることのできるメガネという非常にシンプルなコンセプトで成り立っています。認識という高度な技術を提供するというよりも、感性へダイレクトに訴えかける製品であり、メガネという日常的に使う商品だからこそ色々機能を追加して非日常になってしまってはメガネ屋が作る商品としては失格になってしまいます。

例えばメールが着信したときに、メールを読み上げる高度な機能は我々の商品としては必要なくて、誰々さんからメールが来たとお知らせするだけに留めることで「感じる」商品として提供していきたいのです。もちろん高機能な物を否定するのではなく、あくまで我々の考え方ですけど。

そのような商品なので、今後はB to Bで色々な方々にご参加いただきたいと思っています。何でもかんでも自前でやらなくてはいけないとは考えておりませんので、我々はフレームを提供させていただき、「感じるメガネ」として色々な可能性は追求していきたいと思います。

視力を補うというメガネの基本姿勢があるのと同じで、「感じる」を補う「雰囲気メガネ」であれば良いと思います。

後記
老舗「メガネ屋」だからこそ知っている、使う人にそっと寄り添うような商品開発ノウハウから生まれた「雰囲気メガネ」リッチな情報を出せる未来製品と言うよりは今からでもすぐに使える「感じる」商品であり、ハードウェア、ソフトウェア開発会社の皆様はどのような組み方ができるか一度ご検討いただくのも良いかも知れません。

執筆
PORT編集部 
「PORT」はCreww株式会社が運営する、社会課題をテーマに、新規ビジネス創出を目指すスタートアップ、起業家、復業家、 企業をつなぐ挑戦者のためのオープンイノベーションメディアです。
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