世の中を驚かす新しいコンテンツと体験価値を生み続けるために。松竹の挑戦。

Innovation
演劇や映像をはじめ、総合エンターテインメントを提供する松竹。銀座にある歌舞伎座が象徴的だが、伝統を継承しつつ、実は長年新しいコンテンツや新しい体験を追求してきた、「進化し続ける企業」の一つだ。そんな松竹がグループ各社を巻き込み、2019年に初めてアクセラレータープログラムに挑戦した。いかにしてプログラムを導入し、新たな取り組みを進めたのか。事務局として導入から実証実験までを牽引した、イノベーション推進部・森川朋彦氏と経営企画部の宮嶋歩氏に話を伺った。

未来の映画や演劇の可能性を探りたい

―アクセラレータープログラムを松竹に導入したのはお二人だと伺いました。どういった経緯でどのように導入したのか教えてください。

森川 まず大前提として、現状に満足してはいけない、という意識を経営層をはじめ、会社全体として常に持っていました。危機意識として持っていたのは、これから日本の人口が減少していく中で、映画や演劇のマーケットはこれ以上大きな成長が見込めない上に、むしろ縮小する可能性があるということです。今までも部署単位での新規事業や、新しいコンテンツを創造するチャレンジングな取り組みを実施してきましたが、それとは違った切り口で松竹が成長を続けるための起爆剤となる手段を模索していました。

宮嶋 そこで、Creww(クルー)のアクセラレータープログラムという枠組みを活用して新規事業のタネを見つけるきっかけを作り、スタートアップのスピード感で推し進めたら何か変わるのではないかと思ったのが始まりです。

松竹×Creww 松竹アクセラレーター2019

森川 ただ、自社のオープンイノベーション推進の目的と進め方などについて、経営層含めて議論して明確化すると同時に、ご一緒するスタートアップと本気で協業できる制度設計を先行して進めたため、このプログラムを導入するまでに時間がかかりました。

宮嶋 私はアクセラレータープログラムを進めるためのチーム組成や、松竹の文化でそれをやるためには、どんなプロセスを踏めばいいのかを考えて仕組みをつくりました。

プログラムオーナーである副社長から意見を聞いたり、事務局で意見を出し合ったりして進めていたのですが、そもそも「オープンイノベーションって何?」「アクセラレーターって何?」から会話が始まるので、どう伝えたら理解してもらえて魅力が伝わるのかは、かなり考えました。

しかも、プレイヤーはあくまで現場です。私を含む事務局は、演劇、映像、事業開発、不動産、管理部門の各部門から選抜されたメンバーが動きやすいように仕組みを整えて、相談に乗れることは乗り、逐次トップに状況を共有して円滑に進めていくという半年でした

―選抜メンバーはどのように決めたのでしょうか。

宮嶋 各部門からの選出と公募によって決めましたやはり、新しいことをやるには熱量とやる気が大事なので公募に踏み切りました。すると嬉しいことに16人も手を挙げてくれて。

全員と話した結果、公募からは5人に仲間になってもらい、部門選出の8人と合計13人のチームを組成しました。結果、様々な個性・知識・経験を持った多様なメンバーが集まりました。

夢があってワクワクするスタートアップとの協業

―アクセラレータープログラムで実際に実証実験まで進んだのは何社でしょうか。

宮嶋 5社です。具体的には、映像、写真、イラスト等の制作編集作業をAIに学習させて短時間で遂行する技術を持つラディウス・ファイブ、世界最大のVRライブプラットフォーム「VARK」を運営するActEvolve。

訪日外国人に動画で観光情報を提供するDIVE JAPAN、最先端の瞳孔解析技術の基礎研究を行う夏目綜合研究所、そして、インバウンド市場の富裕層向けサービスを提供しているエクスペリサスという5社。

どれも松竹が持つ劇場や映像などのコンテンツと掛け合わせて新しい体験を生み出せそうですし、5社5様でとても夢があってワクワク感があるんです。だから、メンバーも実証実験にコミットしていますし、熱量を持って進めてくれています。

森川 実証実験が終わった後、さらに現場を巻き込んで中長期で進めることが最重要なので、まずはこの取り組みが新規事業創出の着火剤になればいいなと思っています。

―アクセラレータープログラムに取り組んだことで、社内や社外からの反響はありますか?

森川 伝統的な映画や演劇の会社というイメージをお持ちの方が多いので、社外からは「松竹がそんな取り組みをしているんだ」と驚かれることが多いです。社内は、松竹の新しい取り組みをオープンに広報しているのですが、今の所、ネガティブな意見は聞いていませんね。

宮嶋 そうなんですよね。新しいことに取り組むと変化を伴うので、少なからず反発はあると思うのですが、今のところネガティブな声は聞かないです。。

それは、アクセラレータープログラムに取り組むずっと以前から、新しい歌舞伎や新しい映像を作るなど、コンテンツ単位で工夫を凝らした挑戦をしていて、チャレンジする文化が根付いていたからだと思います。

―新しいコンテンツを世の中に提供している会社だからこそ、文化とマッチしたのですね。とはいえ、選抜メンバーは本業も抱えています。いかにして熱量を維持したのでしょうか。

宮嶋 “チームアクセラレーター”という形でお互いの知見をシェアしながら進めているから、モチベーションを維持できているのだと思います。

松竹株式会社 経営企画部 宮嶋 歩氏

森川 事務局は常に選抜メンバーと連絡を取るようにしていますし、それぞれに興味のあるスタートアップとタッグを組んでいるのが大きいと思います。

宮嶋 そうですね。事務局が決めると与えられた仕事になってしまうので、事務局は仕組みを作る役割に徹し、メンバーにスタートアップを選んでもらいました。自分が面白いと思った企画を担当しているので熱量が継続しているのだと思います。

硬い意思と柔らかい頭。ギブ・アンド・ギブの精神が会社を変える

―お二人が仕事をする上で大切にしていることを教えてください。

森川 今までは与えられた仕事をしっかりとやり切って成果を出すことに注力していましたが、アクセラレータープログラムを導入したタイミングでDrone Fund(ドローン・エアモビリティに特化したベンチャーキャピタル)に出向したことで、考え方がガラリと変わりました。

たとえ与えられた仕事であっても主体性を持って取り組み、いかに付加価値を出すかが大事であると。

松竹株式会社 イノベーション推進部・森川 朋彦氏

それからもう一つ、自分にまったくなかった考えが「ギブ・アンド・テイク」ではなく「ギブ・アンド・ギブ」が大切であること。たった1年の出向でしたが、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃がありましたね。

スタートアップはスピード感も違えば、求められる仕事やその量も違っていました。出向したことで得られたこの経験は、これから松竹に還元していきたいと思っています。

宮嶋 特に今回のプログラムにおいては、硬い意思を持って推し進めることと、頭を柔らかくして相手の意見を聞くバランスを大切にしました。

プログラムを推進するためには事務局が明確な方向性と意思を提示する必要があります。一方で、関わる人の数とタイプが多種多様だからこそ、いろんな人の意見を聞いて最適解は何かを考える柔軟さが必要。そのバランスを大切にしています。

新しい企業文化を確立させて、新規事業を作りたい

―これから実現させたいことを教えてください。

宮嶋 まずは、今回のアクセラレータープログラムで得られた成果から、結果を残すことです。今はCrewwのプログラムに乗っかることで進められていますが、プログラムが終わった後はいかにして継続して価値を創出できるかが重要と思っています

2020年にプログラムが終わってからが勝負なので、本腰を入れて頑張りたいと思っています。

それから、今回のプログラムは自分が実際に手を動かすものではないとしても、この取り組みが来年以降も続いていくとしたら「新しい企業文化」を作れたということになる。だから、それを実現させたいと思っています。

森川 今回の取り組みを起爆剤に、新規事業を創出することで結果を出したいと思っています。スタートアップとどのようにご一緒するのがベストなのか、会社として最適解を探しながら進めたいですね。

いずれにしても、スタートアップとタッグを組んで成長していくエコシステムに参加できるのは嬉しいことなので、松竹で結果を出しながら、スタートアップをサポートするメンバーとしても頑張っていきたいです。そうすることで、松竹の企業文化を進化させたいです。

―松竹が、若手が中心となって会社を動かしているのは知りませんでした。

宮嶋 考えてみると、入社した頃から若手にいろんなことを任せてくれています。年齢や社歴に関係なく、みんなでセッションする文化がありますよ。

森川 もしかしたら、意識的に若手に役割を与えているのかもしれないです。常にフレッシュな意見や価値観を理解することが、松竹のコンテンツ作りに生かされるのだと思います。そんな根底にある価値観を大切にして、松竹はもちろん、最終的にはエンターテインメントを進化させていきたいですね。

執筆
田村 朋美 
2000年雪印乳業に入社。その後、広告代理店、個人事業主を経て、2012年ビズリーチに入社。コンテンツ制作に従事。2016年にNewsPicksに入社し、BrandDesignチームの編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集として活動中。
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