第一回目は次世代型ソーシャルロボットの開発、製造、販売で数々のメディアにも取り上げられているユニロボット株式会社代表 酒井拓さんにリアルタイムで成長しているスタートアップの実体験についてお話を伺いました。
「ユニボ」という次世代型ソーシャルロボットの開発、製造、販売から、音声・会話AIの事業を行っています。2014年の設立以来、今までに9億円弱の資金調達を達成。今現在の従業員数は約20名。主要株主は大手企業7社とVC3社のスタートアップです。「モノと心を通わせる」を当たり前にする」を経営理念に掲げ、コミュニケーションテクノロジー全般を開発するプロットフォーマーとして、マザーズ上場を目指しています。

慶応義塾大学経済学部卒業。住友商事株式会社に入社し、約15年にわたり経営情報や基幹系システム等のプロジェクトマネージャー等を歴任。New York Universityなどにも通い、プロジェクトマネジメネトの資格保持者。次世代型のスマートロボットを開発するユニロボット株式会社を創業し、創業後2015年に アジア最大級のオープンイノベーションの式典「ILS」で500社のベンチャー企業の中から、グローバルイノベーションの分野でTOP10企業に選出。2016年に富士通アクセラレータプログラムで最優秀賞を受賞。2017年にはスタートワールドカップの日本ファイナリストTOP10社に選出され、2年連続で日本経済新聞が選ぶNEXTユニコーン108社に選出される。直近では、GOOD COMMUNICATION ROBOT AWARDにてユニボがコミュニケーションロボットの中で1位を獲得。

1981年生まれ。米国ワシントン州のカレッジ在学中に大学の同期生らと初の起業。その後、フィリピン・セブ島のWebシステム開発会社など、国内外において4社にわたる企業の設立に携わる。2014年からCreww株式会社に参画し、スタートアップ企業と大手企業のオープンイノベーションによる新規事業創出を支援する活動に注力している。
3.11をきっかけに、自分自身の力で社会に直接貢献したいと決意

− 起業にいたった経緯についてお聞かせください。
酒井:もともと大手商社に15年ほど勤めていました。当時も社会課題に対する取り組みとして、ボランティア活動やNPO支援などをしていたのですが、3.11が発生し、社会が変革していく中で、自分自身の力で社会に直接貢献できることをやりたいと考えるようになったんです。
そこから週末に活動をするようになったのですが、本業を抱える中だとなかなか覚悟を決めた活動は難しく、「自分で起業したい」と思うようになりました。たまたま親族がロボット関連の事業をしていたこともあり、ロボットというヒントをもらいました。また、自分でも「次のテクノロジーのトレンドはタブレットやスマホにとどまらず、新しいデバイスが増えていくだろう」と考えていたので、「パートナーロボット」というものにたどり着いたんです。そして「ロボットで起業しよう」と本格的に動き出したのが2014年の暮れです。
起業にたちはだかる壁の乗り越え方とは

− 私たちCrewwも2012年に設立したのですが、当初目指している方向は進めていくと思うようにいかないこともありまして、進路変更を繰り返してきたのですが、酒井さんはいかがでしたか?問題点などは出てきましたか?
酒井:問題点だらけでしたね(笑)。当時はまだディープラーニングやロボットAIに関する情報も乏しく、何も知らないところからスタートしました。そんな「何も知らなかった」ことが問題である一方、結果的には良かった部分ではありました。
何も知らないまま、行動力と情熱や夢で進んでいたのですが、もしAIやディープラーニング、ロボットに関する事情を知りすぎていたら、たぶんやっていなかったと思います(笑)。後に知ったのですが、特にハードウエアは量産において7〜8割が死の谷にぶちあたり、そこで失敗してしまうケースが多いんです。
知らなかったがゆえに、色々な人にヒアリングをして情報を得ながら、資金調達もゼロから進めました。人付き合いからはじめていくので、0→1をする際の気概や情熱が何よりも重要なポイントとなりました。正直、日々失敗が連続して起きるんです。例えるならジェットコースターなみです。
資金調達についても億単位の資本調達が必要なんですが、当然そんな経験はないですし、資本政策を作ったこともなければ、会社も作ったことがない。未経験だらけで壁にぶち当たる日々の中、ともかく重要なのは、どうやって向き合っていくかというマインドセットです。
「やってみなければ、わかならない!」頭で考えるより、動くべし
酒井:正直、本当に何もかもが初めてなので、ともかく全てにおいてつまづくんです。繰り返しになりますが、あまり知りすぎて先入観があると、身動きが取れなくなるリスクが出てくるんです。頭で考えるより、動くことが重要。
私は「ドラえもん」みたいなパートナーロボットを作ろうとしていたので、誰もそんな構想を信じてくれるわけもなく、やれる人が見つかるまで探し続けました。当時は人工知能に関する事業をやっている人も限られていたので、ネットで調べて出会えるまでメッセージを送り続けました。初めて会った人に「AIとはどういうものか」から聞き、どれくらいの資金が必要かを聞き出したりもしました。「出会えるまで、イメージを描き続け、足を運んで繋いできた」という形でした。
− ともかく壁だらけ、とのことですが、中でも一番の壁はどこにありましたか?
酒井:一番苦しかったのは、資金調達とハードウエアの量産化でしたね。
伊地知:ハードウエア系のスタートアップは在庫を抱えるといった点からも、資金調達がしずらいという現状が確かにあるように思いますね。なかなかお金を入れづらい領域ではあるかもしれませんね。
酒井:そうですね。ハードウエア系のスタートアップにはお金が回ってこなくて、ようやく資金調達の流れが始まろうとした2015年も、ディープラーニングのソフトウエア系など、トレンドのスタートアップの方に資金調達は偏っていましたね。いくつかのVCさんとお話しましたが、構想レベルでは誰もお金は出さない、という厳しい現実がありました。そこでVCは無理だと諦めて、資金調達先を事業会社に切り替え、現・USEN-NEXT HOLDINGSのグループ会社アルメックス社と業務資本提携を締結し、本格的に事業会社の方を向いて、資本調達活動をはじめました。
夢はありますが、ロボットはお金がかかりますし、リスクが高いのでリスクテイクができるベンチャーマインドのある事業会社でないと組むのは難しいと思ったので、まずは先輩の紹介のツテでアルメックスさんを訪問したんです。結果、年内に初期資金を調達し、その後1年後にシリーズAでは富士通さんを筆頭に3億数千万をを調達。シリーズBでは4億数千万の資金調達を実施し、現在も追加調達中です。
伊地知:はたから見ると、とんとん拍子で調達してるように見えますが?
酒井:ベンチャーキャピタルは諦めていたので、ロボティクスで興味をもちそうな大企業に絞ってあたっていったことが良かったと思います。そこでは「誰に話にいくべきか!」が非常に重要ですね。なので、役職がついた人に出会う方法をひたすら考えていました。
ユニロボットがスケールしたタイミングとは?

− 資金調達を繰り返され成長していく中で、酒井さんご自身が「スケールしはじめたな」と感じたのはどういったタイミングでしたか?
酒井:正直「きた!」という感じは今現在もそんなには感じてはいないんです。初めに出資をいただいた時に試作機を発表したのが国際ロボット展だったのですが、その際に非常に多くのメディアに取り上げて頂いたのが分岐路でしたね。この時のメディア戦略が成功し、話題性が出たことが自分にとっても会社にとっても自信になりました。当時ほとんどのテレビ局で開発してきたことを取り上げていただき、それが大きな起爆剤になって次の資金調達につながっていきました。
話題性が出たので、あとは事業計画の作り方とピッチの内容次第になります。そこで、テクノロジー面では人を集めながらデモができる環境をつくり、デモ機を持ち込み、デモをしながら「この部分が量産できれば、ここまでのことが出来ます」という計画と、資金計画を提出しながら「どれだけの資金があれば、どれくらいの期間で何が実現でき、数年後にIPOを目指せる会社を作れるか。」と言った部分までは説明できるようにしていきました。
ハードウエアの場合は試作機の段階でどこまで周りに認められるかがポイントになってきます。今であるとPOC(実証実験)をやられるケースがほとんどですが、当時私は冒険家だったので、POCを経ずにそのまま一気に行ってしまいました(笑)。海外でもパーソナルロボットが開発されはじめたとの情報も入ってきていたので、スピードが重要だと考えていました。スピード感をもって量産化できるようにアジャイル開発して、いち早く深センでやっていくしかない!ということで、すぐにコーディネーター経由で深センて繋がれる会社を探し最短でいつできるか、というのが当時の最注力話題でした。
本当にPOCは必要なのか?
− 実際POCに関しての必要性について、今はどうお考えですか?
酒井:結論は、POCは必要だと感じています。
当時、私はスティーブジョブスに関する映像ばかり見ていたので「夢をつくって、自分のプロダクトに人がついてくる」という発想に影響を受けていたこともあって、そういう夢のプロダクトをつくれば人はついてくると思っていたのですが、現実はそうはいかなかったですね。そうした経験から、今は実証実験をしっかりとやっていく必要性を強く感じています。
ハードウエアは実物を通じてデモンストレーションがポイントとなってきます。実証実験など実際にフィールドで実験できる機会というは、非常に重要になってきます。特にハードウエアのプロダクトは、Crewwがやっているような機会の提供があることで光っていくと思います。事業会社とのオープンイノベーションの場で、フィードバックをもらってPDCAを回していくことによって、プロダクトが磨かれていきますから。ハードは金型を一度作ってしまうと修正が難しいので、量産をする前に試作機を作り、しっかりと実証実験を繰りかえした上で量産に進めることをおすすめします。
アクセラレータープログラムの活用のコツとは?
− スケールにあたって、いくつものアクセラレーターやアクセラレータープログラムを活用しているかと思われますが、その効果や活用方法などのアドバイスなどを聞かせてください。
酒井:Crewwなどのアクセラレータープログラムの良い点は、事業会社がアクセラレータープラグラムに対して予算を持っている点です。官公庁などから、「実証実験の場を提供します!」といったお声がけをよくいただくのですが、結局のところ、コストは移動費含めすべてこちら負担なので、ただでさえハードウエア自体にコストがかかり、アプリケーション開発にもコストが大きくかかるハードウエア系のスタートアップには、全て手弁当で行うのは正直厳しいんです。
例えばCrewwのアクセラレータープログラムは予算をかけていただき、事業会社と一緒に汗をかきながらプロダクトをブラッシュアップできる点がポイントが高いです。他ですと、大手企業に気に入ってもらえるように、ベンチャー側が足並みを揃えにいかねばならなかったり、下請けのように、大手企業の担当者の顔色をうかがいながらやるケースって、結構あるんじゃないかと思うんです。
これをやり続けると夢はあるもののリソースがないために挫折してしまうパターンに陥ってしまいます。スタートアップはリソースが無いという前提を理解の上で、同じ目線で共創していく概念を持っている事業会社と組むことが重要です。
なので、アクセラレーターに求めることは、共創相手となる事業会社のマインドセットと共に汗をかける場づくりということかと。
特にアーリーステージやシリーズA手前のスタートアップにとっては、全て自社のリソースでやっていくことは厳しいと思います。アクセラレータープログラムの良いところは事業会社と二人三脚で共創していけるところにあるので、そういったアクセラレータープログラムをどんどん活用して成長していけばいいと思います。
アクセラレータープログラムの落とし穴
酒井:もう一つ、アクセラレータープログラムを活用する上で注意することが「スケジュール」です。アクセラレータープログラムによって、それぞれ期限が設定されているのですが、むりやりそのスケジュール内に収めようとして落とし穴にハマった経験が私もあります。
協業する時には、スケジュール面も含め、事業会社とすり合わせをしていくことがポイントです。スケジュールに囚われ、本質を見失うのではなく、中長期を見据えながら、短期でどこまで出来るか、すべきかを落とし込んでいく。そこを事業会社がしっかり理解して動いてくれるのかどうかを見極めることもすごく大事かな、と思います。
ロボットを越えたコミュニケーションプラットフォーム作り
− 今後のビジョンについてどのような世界を思い描いているのか教え。今後、貴社が成し遂げたい目標・叶えたい未来についてお聞かせください。
酒井:最初はロボットから始めたのですが、コミュニケーションプラットフォームを作りたいと思っています。いつか人がモノと心を通わせ、会話ができるような世界を見据えているので、モノに心を宿すコミュニケーションテクノロジーを開発を今、やっています。
ロボットであるユニボの範囲を越え、ユニロボットクラウドエンジンをAPI化して外出しし、さまざまなものに組み込むことでインテリジェンスなサービスを提供していくことを考えています。
伊地知:当初のビジョンから拡充させていってますね。
酒井:そうですね。ビジョンも生き物だと思っているので、一つにこだわり過ぎず、その時々でキャンパスに描いていく訓練をしないとビジョンは磨かれていかないと思っています。
社名 | ユニロボット株式会社 |
設立 | 2017年10月01日 |
所在地 | 東京渋谷区笹塚3-2-15 第Ⅱベルプラザ5F |
代表者 | 酒井 拓 |
事業概要 | コミュニケーションテクノロジーのプラットフォーム事業及び、AIロボットの製造・販売 |
URL | https://creww.me/ja/startup/www.unirobot.com |