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デジタルスポーツで健康に資するサービスを

――エアデジタルはどのような事業を展開している会社なのかを教えてください。
前田 エアデジタルは、オンラインとオフラインを融合した運動の機会を創出すべく、国内外からAI基盤のシミュレーション競技ソフトや操作パネル、センサーカメラなどを調達し、リアルに運動可能な体験型スポーツ空間や、競技コンテンツを揃えた大型デジタルスポーツ施設開発を展開している会社です。
しかし、創業した2019年の翌年、新型コロナウイルスによってリアルの場やイベントへの集客が難しい状況になりました。単に「スポーツができる」「楽しい場がある」だけに留まらない、他にないプラスアルファの付加価値の創出が必要となりました。
この時期は当社に限らず、コロナ禍のショッピングモールは空床が増え、モール利用者も減り、ショッピングモールが閑散とする大変な時期でもありました。
結果として、この環境により全国の商業施設から、空きスペースの活用打診の問い合わせが急激に増えました。その中の一つが久喜市のショッピングモール施設「アリオ鷲宮」です。たしかに、ショッピングモールの利用客をターゲットにしたキラーコンテンツを作れたら、エアデジタルの収益にもショッピングモールの集客にもつながる可能性があります。
そこで、楽しいだけのゲームやシミュレーションスポーツに終わらない、もっと満足してもらって多くの人に認めてもらえるような、健康に資するサービスを作れないか、久喜市と一緒に考え始めました。
――そのタイミングでアクセラレーターに応募したのでしょうか。
前田 そうです。久喜市役所とショッピングモールとの関係構築を進めながら、安藤ハザマと一緒に解決策を考えたいと思いました。
――安藤ハザマがエアデジタルを採択した理由を教えてください。
榊原 エアデジタルが考えているデジタルスポーツを健康に生かそうとしている新規性に魅力を感じました。加えて、前田さんは久喜市との連携をすでにお持ちだったので、ぜひ一緒に地方創生につながる具体的な取り組みに挑戦したいと思ったのが採択の理由です。
ショッピングモールの空き空間を利活用。オープンイノベーションで街に新たな価値を創出

――3者での具体的な協業内容を教えてください。
榊原 目指しているのは、デジタルスポーツを活用した、高齢者の健康維持やフレイル予防プログラムの構築です。ショッピングモールの空洞化や高齢人口の増加、子どもの運動機会不足などは、解決すべき社会問題であると認識しています。
これをデジタルスポーツフィールドでスポーツトレーナーや理学療法士の協力も得ながら、運動習慣化プログラムとして構築し展開することで、解決につなげたいと考えました。
前田 具体的には、まずはショッピングモールのお客さんからどんな反応を得られるのかを知るために、自分の筋力等の体の状態を確認できるようなスポーツテストと、デジタルコンテンツでスポーツ体験ができるイベントを開催しました。
ここで分かったのは、平日と土日祝日の客層が違うということ。平日は高齢者が多く、土日祝日はファミリーが多い。しかも、ファミリーや子どもたちは面白がって体験してくれるけれど、フレイル予防プログラムのメインターゲットに置いていた高齢者は予想以上にデジタルスポーツにとっつきにくいという課題が明確になりました。
それと同時に、高齢者は自分の筋力が落ちていることを認識していることもわかったので、まずは理学療法士と協議し、自分の体の状態を知ってもらい、簡単な筋力トレーニングから、楽しく効率的に運動できるデジタルを使ったトレーニングや、ピラティス、ヨガなどを体験してもらうイベントへと進化させ、高齢者も楽しんで参加できるように工夫しました。アリオ鷲宮の協力も得て、参加者が理学療法士と一緒にショッピングセンター内を歩くウォーキングイベントの開催も新たに企画しました。
ファミリー向けには、対戦型の野球やサッカー、アーチェリー、自転車などのコンテンツや、小さなお子さんでも楽しめるデジタルのボールプール、疲れたらパソコンで遊ぶe-スポーツなど、競技ごとにフィールドを区切って空間を制作しました。
イベント内容は開催しながら毎回改善を続けており、現在の利用客は毎月約500人で、その半数がリピーターです。
榊原 そうした取り組みを企画推進するなかで、2023年1月に、デジタルスポーツマシンを活用したフレイル予防プログラムの構築について、久喜市、エアデジタル、当社の3者による連携協定締結にいたりました。とても機動力のある良い官民パートナーシップだと感じています。
金澤 久喜市はスポーツや運動を通じて誰もが健康でいきいきと暮らせる都市を目指して、「健幸(けんこう)・スポーツ都市」を宣言しているので、今回、3者で取り組みを推進できることは本当にありがたいですし、スポーツ庁からも2022年11月に「スポーツ・健康まちづくり優良自治体表彰」を受賞することになりました。
また、この取り組みはスポーツ庁 令和5年度「Sport in Life推進プロジェクト(スポーツ人口拡大に向けた取組モデル創出事業)」にも採択され、現在は補助金を活用しながらさまざまな企画を実施しているところです。
※「安藤ハザマ新規事業共創プログラム2022」についてはこちら
自然発生的なコミュニティが運動継続のきっかけに

――実際に利用した方やリピーターからは、どんな反響がありますか?
前田 今のご時世、ボールを使えない公園が増えていますし、自転車を練習する機会も減っていますよね。だから、野球をしてみたいけれどボールを投げられない・打てない、サッカーでボールを蹴れない、自転車に乗れないといったお子さんが本当に多いんです。
その点、誰の目も気にすることなく安全に投げたり打ったりいろんなことができるデジタルスポーツは、お子さん本人や親御さんから大変好評をいただいています。1日中利用される方も少なくなく、サッカーや野球を楽しんで、疲れたらe-スポーツをし、その場で出会った人たちと仲良くなっていく。そんな場面をよく目にします。
高齢者の方も、筋力トレーニングを経験することで筋力の衰えを実感することになり、自転車に乗ってみたりヨガを体験してみたりと、楽しんでもらえていますね。お子さんたちと同様、その場に集まった人たちとお友達になって、疲れたら一緒にお茶を飲みながら休憩している姿を見ると嬉しいです。
――全方位的に健全で良い取り組みですね。
前田 おっしゃる通り、とても健全な取り組みです。ただ、それぞれにサービスを作らないといけない大変さも感じています。
金澤 スポーツの継続や習慣化に大切なのがコミュニティの形成です。エアデジタルのサービスはスポーツに特化したというより、ゲーム性が高く楽しみながら続けられるので、自然発生的にコミュニティが生まれることで、継続して運動するきっかけになるのではと思っています。
課題は、健康に資すると判断できるエビデンスとなるデータの収集

――プロジェクトはとんとん拍子で進んでいるように聞こえますが、3者の協業で大変だったことや壁はありましたか?
前田 協業における壁はありませんが、平日と土日祝日でショッピングモールに来る客層が異なるため、異なる客層に店舗の魅力をどう伝えるかは大きな課題です。高齢者のフレイル予防がテーマですから、高齢者に安心感を与えて呼び込む必要があるのですが、そこに寄せすぎるわけにもいかない。
スペースにも限りがあって全ての希望を取り入れられないなかで、空間の作り込み方やPRの仕方の改善は、まだまだこれからです。
榊原 PR面では、金澤さんが久喜市報にイベント情報を掲載してくれたり、ポスターを制作してくれたりと、多大なご協力をいただいています。さらに利用客に対する安心感をより強く訴求するためには大学にも協力してもらって、健康に資するエビデンスとなるデータが必要とも思っています。エビデンス作りには集客が必要なので、その点により一層注力したいと思っています。
金澤 この取り組みを展開するにあたっては、榊原さんがおっしゃった通り、エビデンスとなるデータが非常に重要と考えます。他には無い先進的な事例だからこそ、きちんとしたデータを得て将来的には全国のモデルケースとなるような事例にしていきたいと感じています。
収益化&自走後、目指すは全国展開

――最後に、今後の展開について教えてください。
前田 この事業は利用者にとってプラスになることばかりであり、全ての世代に健全なサービスを提供できると自負しています。ただ、早いタイミングでの収益化と自走ができなければ、ビジネスとして成り立ちません。そこで必要なのは、自走するためのサービス開発です。
たとえば、土日祝日はファミリー向け、平日の日中は高齢者向け、夕方からの放課後時間は学童や発達障がいのお子さん向けデイサービスのコンテンツといった具合に整備できれば、自走する仕組みが作れるかもしれません。この仕組みを作れたら全国展開をしたいと考えています。
榊原 そうですね。収益化や集客は課題なので、地域の力を借りながら、持続可能なビジネスと地域の健康増進を両立する“久喜市モデル”を作りたい。久喜市から全国に、フレイル予防プログラムや健康に資するプログラムを展開できたらいいなと思っています。
金澤 デジタルスポーツは、利用までのハードルが低く、誰もが楽しめる非常に強力なコンテンツと考えています。考えながら実際に体を動かすという、eスポーツの発展版かと。認知が広がるまでには時間がかかるかもしれませんが、充実したコンテンツとすることで、多くの方に体を動かすきっかけを提供できたらいいなと思っています。

過去10年ほど、外資のゲーム開発メーカーにて、新規ゲーム及び新規事業の立ち上げに従事。
2017年、前社レジェンドベースボール㈱に参画。
スクリーン型野球システム「レジェンドベースボール」の日本国内での事業立上げ、体験型スポーツテーマパークのブランド戦略や企業アライアンス、店舗開発を担当。
レジェンドベースボール㈱の閉業に合わせ、2019年にレジェンドスポーツヒーローズ㈱を創業。
2020年7月に社名を「エアデジタル㈱」に変更、現在に至る。

百貨店勤務を経て2013年久喜市役所入庁。シティプロモーションや広報業務を経て、2022年スポーツ振興課副主幹に着任。企業や地域内での連携によるスポーツ振興をコンセプトに、企業と連携したデジタルマシンを活用したフレイル予防プログラムの構築や、3人制バスケットボール3X3を核とした多世代コミュニティの構築などに取り組んでいる。
『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2023』を受賞
予算ゼロ・前例無しの状況下、市民団体、企業、高校等と連携して、3人制バスケ「3X3高校生イベント」を大成功に導く。企画・出演したクッキーダンス動画は67万回再生!

2006年入社。人事部採用業務、支店管理部門、海外部門ではタイ駐在を経験し、コーポレート部門でキャリアを積む。
スタートアップへの出向、新規事業開拓を経て、現在は出資及びスタートアップ支援業務と地方創生業務を担当。