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金曜日, 5月 27, 2022

愛知県のものづくり企業が挑む、デジタルシフトによる社会の課題解決とは

愛知県では、愛知県内の優れたモノづくり技術を持つ企業と全国のスタートアップとのオープンイノベーションを推進している。その一環として、愛知県企業とエントリーしたスタートアップが直接ディスカッションや商談ができるビジネスマッチングプログラム「Aichi Matching 2019」が、2020年2月14日に東京で開催された。イベントに参加した愛知県の企業の1社が、1969年に創業したものづくり企業、ユーアイ精機だ。同社は現在2社との協業をスタートさせており、新しい事業への展開を目指している。どのような企業とどのようなコラボレーションをしているのか、代表取締役社長の水野一路氏に話を聞いた。

世代ギャップのある中で、技能伝承にデジタル化は避けられない

―ユーアイ精機の事業内容と、どんなことに課題を感じてビジネスマッチングプログラムに参加したのかを教えてください。

ユーアイ精機は自動車関係のプレス試作品製作を主に行なっている試作メーカーです。研究開発にも力を入れていて、お客様のやりたいことや課題を長年解決してきました。

感じていた課題は2つあり、1つはデジタル化等によってこの10年くらいの間に商習慣は徐々に変化し、ビジネスモデルの変革を迫られるようになったこと。

昔は、お客様である大手メーカーが、私たちのような下請企業を育てる感覚が強く、待っていればたくさんの課題を与えてくれました。それが、課題を待つのではなく、自分たちに付加価値をつけて、お客様に提案・発信することで新たなつながりを構築する必要が出てきたのです。

2つ目の課題は、世代交代における技能伝承問題です。従業員が年配層と若年層に大きく分かれていることもあって、技能伝承の方法を変える必要が出てきました。

手順はマニュアルで教えられても、カンやコツは教えられるものではありません。それに、経験を教えるには同じ経験をしてもらう必要がありますが、10年かけて培ったノウハウを同じように10年かけて培ってもらうのは現実的ではない。

これからの技能伝承にはデジタル化が必要で、スタートアップの先端技術やアイデアとコラボして、若手へスムーズに技能を伝承できる方法を模索したいと考えました。

現場を360度カメラで撮影。VRを教育ツールに活用

―スタートアップとの協業は最初からイメージできていましたか?

いえ、スタートアップにはどんな人がいて、何をしているのかは想像できませんでした。でもイベントへの申し込み時に担当の方から話を聞けたので、これなら技能伝承の課題を解決できるスタートアップと出会えるかもしれないと思いました。直接説明を聞くまでは未知の世界でしたよ。

―今回すでに動き始めている2社の取り組みについて、まずVRを使用する株式会社Nossaの事例から教えてください。

Nossaさんは、360度映像と音声通話を使用して、離れた場所にいる相手とも状況をリアルに共有しながら会話できるVRツールを開発している会社です。

私はVRを体験したことがなかったけれど、実際に見せてもらって話をするうちに、これはまさに現場の育成に使えると思いました。たとえば、商談などでお客様先に直接行ける人は限られていますし、そこで受け取る情報を報告書に書いても伝わりにくいんです。

だけど、現場を360度カメラで撮影すれば、撮る人が見せたいところだけでなく、見る人が見たい場所を選んで見られるんですね。習熟度が違えば知りたいことは違うはずなので、一律に同じテキストで学習するのではなく、個別カスタマイズできるのがすごくいいと思いました。

―技能伝承はもちろん、コロナ禍で行けなくなった学校現場での社会見学などにも活用できそうですね。

まさに、学校で仮想工場見学を実験しました。人によっていろんなところを見ているのがわかったし、何より子どもたちの受け入れ方がスムーズで、すごく面白がって体験してくれたんです。

疑似体験とはいえ体験ができることに価値があるので、社会見学などの教育コンテンツや会社紹介用ツールなどとして、デジタル化が進んでいない領域にも事業展開ができると考えています。

スマートグラスを技能伝承に役立てる

―スマートグラスを使用する株式会社Enhanlaboの事例についても教えてください。

Enhanlabさんは、メガネ型ウェアラブル端末でメガネにディスプレイをつけることで視覚を拡張し、主に生産性向上につなげることを目的としたプロダクトを開発している会社です。

実は約3年前、スマートグラスに先輩職人のお手本画像を映し出せば、若手でも画像を見ながら両手を使って作業ができるのではないかと考えていたのですが、諸事情で実現できなかったんです。

そこで、Enhanlabさんにプロダクトを見せてもらうと、まさにやりたかったことができるとわかったので、現在計画を進めているところです。

ただ難しいのは、作業をしやすい視点に合わせた画像や、習熟度ごとに異なる画像など大量の画像を用意する必要があり、撮影の仕方にも工夫とノウハウが必要であること。加えて、スマートグラスに映し出す画像は小さいので、いかにわかりやすく撮影するかも重要です。

こうした画像に関する課題を解決し、スマートグラス用の撮影ノウハウを蓄積できれば、社内の問題解決だけでなく、社外にも展開できると考えています。

実証実験の場を提供して事例をつくり、オープンイノベーションの輪を広げたい

―スタートアップと協業する中で得られた気づきを教えてください。

最初からやりたいことを決めつけず、発想を固めないよう話を進めていくのが大切だということです。まっさらな状態から取り組まないと、せっかくのアイデアが台無しになりますし、「この使い方ができないなら使いません」という話にもなりかねません。だから、頭の中をフラットにすることに気をつけていました。

また、スタートアップと協業することで勉強になったのは、仕事の進め方がとてもスマートなことです。Webでのミーティングにしても、私も準備はできているつもりでしたが、スタートアップの人たちはもっと先進的で慣れていました。

知らないITツールの使い方を教えてもらいましたし、オンラインとオフラインを組み合わせたコミュニケーションの取り方は、Withコロナ社会で役に立つと思っています。

何より、全く違う業界の若くて熱量の高いスタートアップの人たちと一緒に話していると、問題解決のイメージがどんどん膨らんだし、ワクワクしながら楽しく仕事ができたのが嬉しかったです。

―今回の取り組みが周囲の企業にも伝播すれば、日本のものづくり企業とスタートアップ双方が活性化しますね。

まさに、それがスタートアップと協業している意義です。当社との取り組みで成果を出すことで、スタートアップの顧客が増えないと意味がありません。

スタートアップの実証実験の場を提供することが私の役割であり、その事例を持って他社とのコラボレーションの輪を広げてほしいと思っています。

協業先を増やしながら、社内外の課題解決につなげる

―今後の展開について教えてください。

実はビジネスマッチングプログラムに参加した2月のタイミングでは、新しい取り組みによって社内の問題を解決する展開しか考えていなかったんですね。

それがコロナの影響によってデジタル化やビジネスモデルの変革など、世の中全体で大きな変化が必要になりました。しかもこの状況がまだ続くとなると、きちんと事業化して自社以外の問題も解決しないといけないと考えるようになったんです。

特に技術伝承は当社だけの問題ではなく、従業員の高齢化と労働力人口減少によって、ものづくり企業にとっては解決しないと死活問題になります。

自社だけではできることは限られているから、今後もいろんな業界の人と会い、新しい取り組みを試して事業化し、国内のものづくり企業はもちろん、世界で日本の技術を求める国へ展開したいと考えています。

まずは、Nossaさんとの取り組みを事業化し、学校教育や企業の育成に活用してもらえるような教育ツールを作りたいですね。

―スタートアップとの協業を考える企業に向けて、成功につなげるためのアドバイスをお願いします。

「自社の問題を解決したいから、解決できる人を探す」という考えを持つ企業は一定数いると思います。でも、スタートアップと協業するなら、その考えでは失敗すると思うんですね。

持つべきは、対等な立場で一緒に取り組む考え方。そうしないと、スタートアップが持つ技術やツールを使う・使わないといった判断に陥りがちですし、受発注スタイルで、その会社でしか使えないようなプロダクトを作りこませてしまうと、スタートアップは販路拡大につながりません。

そうではなく、「一緒に課題解決に取り組みましょう」という姿勢で臨めば、きっと成果につながると思いますよ。

社名ユーアイ精機株式会社
設立1969(昭和44)年
所在地愛知県尾張旭市庄中町2-13-12
代表者水野 一路(みずの かずみち)
事業概要自動車向 プレス試作品製作 / 小量品 プレス量産製造
自動車向 順送プレス金型・単発金型 設計製作
金型部品製作
次世代産業向け「製品軽量化への素材加工技術」研究開発
URLhttp://www.yuai-seiki.co.jp/

愛知県企業と全国のスタートアップをつなぐ「AICHI MATCHING」|オープンイノベーションを仕掛ける理由とは

2019年8月20日
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田村 朋美
2000年雪印乳業に入社。その後、広告代理店、個人事業主を経て、2012年ビズリーチに入社。コンテンツ制作に従事。2016年にNewsPicksに入社し、BrandDesignチームの編集者を経て、現在はフリーランスのライター・編集として活動中。

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