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「しながわ新規事業創出(事業共創)プログラム2022」趣旨について

スピーカー:品川区商業ものづくり課長 遠藤 孝一氏
このプログラムは、品川区内の製造業者とスタートアップ企業の協業を支援し、新規事業の創出と課題解決を目的として実施されています。具体的には、製造事業会社様からの課題提起と、スタートアップからの協業提案をもとに、共創事業をブラッシュアップし、実証実験までトータルで支援しています。
品川区初の取り組みであるため不安もありますが、新しい事業が生まれることを大変期待しています。また、来年度も同じスキームでプログラムを実施する予定です。
ご興味のある事業会社様は、ぜひ次回プログラムへの参加をご検討下さい。
プログラムの行程について

スピーカー:Creww株式会社 田中 健策氏
「しながわ新規事業創出(事業共創)プログラム2022」は、事業会社とスタートアップとの協業支援に特化したプログラムです。スタートアップのアイデアや特徴あるサービスと事業会社の経営リソースを組み合わせて、事業創出を目指しました。
プログラムは、参加する事業会社を決定するフェーズ、スタートアップを募集し、プレゼンテーションを経て実証実験に挑むスタートアップを選定するフェーズ、そして両社の共創による実証実験の実施という3つのフェーズに分かれています。
81件の応募のうち、9社が実証実験に進みました。どちらも製造業を営む事業会社とスタートアップの協業事例となります。初めてオープンイノベーションに取り組む事業会社にとっては、手探りであったかもしれませんが、次回のプログラム参加を検討されている方にとって、どのように活路を見出し、プログラムを推進されたのかという貴重なお話が聞ける機会となることを、期待しております。
「永楽電気株式会社とスタートアップとの協業結果」

プログラム参加の背景
スピーカー:永楽電気株式会社 大西 輝明氏
永楽電気株式会社は、変電所と情報通信設備分野の「保護計測、遠方監視制御、通信システムほかの仕様提案、設計、製造、メンテナンス」を鉄道会社へ提供しています。
本プログラム参加の理由には、社員の高年齢化による技術継承の遅れという課題に加え、変電所において異常音・におい検知による装置の予防安全を行いたい、駅ホームにおいて聴覚が不自由な方へのアシストシステムを構築したいという要望が背景にありました。いずれも、自社のみの技術体制では対応できないことから、今回のプログラムへの参加を決意しました。
【project1】MAIキャピタルとの協業「動画を使用した金具測定と精度の確認」
計測作業のDX化実現を目指して、実証実験を行いました。
現場では、駅のホームに吊下がっている装置の金具の製作は、人に接触したり、他の信号機が見えなくなる等の問題が起きないように、必要な全ての寸法を測り、設計図を書いた上で行われていました。一方で、ミスがないとも限らないことが課題でした。
そこで、動画を撮影し、立体感を出すことで距離を測るという方法を用いた実証実験を行いました。測定方法を変えて、3回実験を行い、結果を検証しています。まだ実証実験の値と実測値とに差がみられることから、今後も、測定方法の検討を重ねる必要があります。
【project2】Hmcommとの協業「AI異音検知による変電所内の故障検出と実現性の確認」
変電所保守作業の自動化・予防保全を目的にしています。現在は、エンドユーザーである鉄道会社からのヒアリングを終えて、実証実験を行う手前の段階です。工程としては、集音端末を設置し、正常音データを取得した後、その環境音を活用して、音響解析を実施し、特微量から捉えられる状態変化量の有無を明らかにしていきます。
ヒアリングからは、「実際の異常は滅多に起こるものではないため、異常音自体を取得する事が困難である」「今回のように、正常音の外れ値探知のみを利用した取り組みは新規性が高い」との声が聞かれました。発生すれば大きな事故に繋がるため、事前の点検業務への検証は、重要であると考えています。
【project3】ユニロボットとの協業「放送内容をスマホへ表示する際の変換精度、遅延時間の実証確認」
駅ホームにおけるダイバーシティ化推進を目的に実証実験を行いました。永楽電気の放送装置に、ユニロボットの装置を付け、放送内容をスマートフォンへ表示させる実験を行いました。
実証実験の結果、放送からスマホ画面の表示までの遅延時間は実用的であり、有益な情報を得ることができました。また、変換精度に関しては、自動放送が音源の場合は概ね良好であったのに対し、マイク放送が音源となる場合の変換精度は、落ちることが分かりました。
今後は、予めの単語登録により、精度を高めることができると想定しております。
「株式会社勝亦電機製作所とスタートアップとの協業結果」

プログラム参加の背景
スピーカー:株式会社勝亦電機製作所 原野 大氏
株式会社勝亦電機製作所は、受配電・監視・制御の総合配電盤メーカーです。
本プログラムへの参加理由は、グローバル化・DX・市場ニーズなど激動の時代における新しい立ち位置を模索したかったからです。最先端のハードウェア・ソフトウェア技術と既存の重要技術の両方に対して、前向きに取り組み、配電盤業界全体にイノベーションを起こしたいと考えています。
本プログラムでは、「配電盤類」×テクノロジーで新しい価値をつくることをテーマに協業案を募集しました。具体的には、①配電盤類に機能追加して新たな価値を作りたい②計測データとAI予測による自動監視制御方式を実現したい③監視/制御技術/製品を他分野に展開したい④テクノロジーを活用し新しいメンテナンス体制を確立したい、という4つのテーマを設定し、スタートアップからの提案を募集しました。
【project1】AltoAirとの協業「盤の状態監視・異常予測」
スピーカー:株式会社勝亦電機製作所 相渡 浩光氏
配電盤類にIoTやAI技術を取り込むことで、新たな価値を模索したいと考え、取り組みを行いました。背景には、配電盤の異常が発生すると、停電・火災など重大な事故に繋がる可能性があるという問題があります。配電盤の異常発生中の警報監視は現在でも行われていますが、異常が発生する前に
AI予測による警報通知を行い、事故発生を未然に防ぐことはできないか。
その中で停電・火災事故につながる可能性の一つとされる「結露」をテーマに設定、AIを活用して実験を行いました。
まずは、AIデバイス・PLC・温度計など各機器間でのデータ授受が可能かどうかの検証を行い、正しいデータが取得されたことを確認しました。次に、実際に結露予測アルゴリズムを用いて、周囲の環境を変化させ、アルゴリズムの妥当性を検証しました。
意図的に結露を発生させた上で、プログラムが意図した動作をするかどうかを確認した結果、結露までの予測を発報できることが確認できました。一方で、実験の精度には、まだ改善の余地があったため、今後は、1年程度の長期間で検証を続け、最適なアルゴリズムにしていく意向です。また、製品化に向けて、デバイスの耐久性も検証していきます。
【project2】SONASとの協業「配電盤類に無線技術を。監視システムにおけるUNISONet活用の実証実験」
スピーカー:株式会社勝亦電機製作所 菊池 謙一氏
配電盤類から監視情報を監視所で取得する場合は、例え1点の情報でも、有線による接続が必須であり、通線工事が発生します。しかし、そこには、敷設ルートがない・通線工事期間が取れないなどの課題が存在しています。そこで、監視・制御の信号線を無線化することを目指して、協業に挑みました。
実際に、社内の工場内で制御盤・分電盤の中に、無線ユニットの設置を行い、実証実験を行なった結果、一般的な利用においては十分な機能を有しており、実現性は高いことが分かりました。
電気工事を減らせることから、コストを削減できるほか、各種盤の移設が発生した場合にも、作業量の削減が見込めます。
一方で、無線ユニットの設置を盤内に限る場合には、データの取得元となる盤の設置場所が、お客様の環境に依存することになります。そのため、安定的な通信品質が不透明であるといった課題も浮き彫りになりました。また、人名に関わる緊急停止や、警報の取得には通信の速度が不向きであることも分かりました。今後は、課題に対して具体的な解決を検討し、UNISOnetの入出力ユニットを用いた監視システムの構築・試験運用に向けて取り組んでいきます。
「株式会社伸光製作所とスタートアップとの協業結果」

プログラム参加の背景
スピーカー:株式会社伸光製作所 松永 夏樹氏
伸光製作所は、プラスチック製品の切削加工事業を行っています。
プログラムに参加した背景には、各部門で先人たちの技術や知見の継承が進んでいないこと、既存事業以外の新たな事業軸を作りたいという強い思いがありました。そこで、人の自動化・技術継承という2つの課題を解決するべく、協業案を募集しました。DX化を推進し、作業の効率化を図ること、60年培ってきた先人の技術を継承する人財の育成を目指し、実証実験を行いました。
【project1】エピソテック株式会社との協業「AR現場支援アプリを活用した作業マニュアルの運用と作業の効率化」
スピーカー:エピソテック株式会社 内藤 優太氏
エピソテックは、技術伝承のトランスフォーメーションをしたい事業者向けに、AR現場支援アプリDiveを提供しています。
スピーカー:株式会社伸光製作所 福田 伸一氏
作業マニュアルの運用と作業の効率化を目指し、「新人や未経験者でもARマニュアルがあれば、新人や未経験者でも経験者と同等の作業ができるか」、「紙のマニュアルとの対比」「ARアプリへの年代別対応力や適応能力」の3点に注視し、実証実験で検証を行いました。
AR内に動画を配置し、その動画に基づいて操作させる実験を実施した結果、「アプリは扱い易く、構想性も独特で、使用者が楽しみながら作業ができた」などの高評価が得られました。一方で、動画が速いという課題も見つかりました。
今後は、ARの良さが生きる新しいケースを模索し、動画ビューア機能の改善を行います。また、iPadからARグラスへとデバイスの変更を目指し、両手を使うマニュアル作りを行うなど、空間認識能力を活かした場面での実証を検討します。
【project2】株式会社pilandとの協業「OCR導入による自動見積システムの開発」
スピーカー:株式会社piland CEO 長野 陸氏
pilandの強みは、AI開発/コンサルティングとソフトウェア開発を一気通貫で提供できることです。今回は、画像をベースとしたOCR技術として、pilandのノウハウを活かし実証実験を実施しています。
スピーカー:株式会社伸光製作所 岩田 駿生氏
自動見積システムの開発に向けた実証実験では、20種類の図面を選定し、文字認識の精度を確認しました。その結果、画質の極端に低いもの・サイズの小さいもの、文字以外の記号等が認識されにくい傾向にあることが分かりました。
特に文字以外の記号に対しては、かなり認識され辛いという課題が見つかりました。そこで、文字以外の記号等の意味を理解させたり、情報を整理をする機能が必要であると分かりました。今後は、AIと自動見積りシステムの親和性を深掘りして、社内で実装に向けて検討していこうと思っています。
2つの協業による実証実験から、培ってきたアナログなノウハウをARで、熟練工の知見をAIにて継承できるよう社内のDXを推進します。
「株式会社吉村とスタートアップとの協業結果」

プログラム参加の背景
スピーカー:株式会社吉村 橋本 隆生氏
株式会社吉村は、食品包装資材、食品/茶器の企画・製造・販売を行っています。
プログラムに参加したのは、未来を作るために、自社独自だけではなく、スタートアップ企業と協業をしていきたいと考えていたからです。
募集にあたっては、「包装資材のポテンシャルをさらに引き出したい」「地球に優しい包装資材の生産や利用サイクルを実現したい」「お茶を通じて地域社会や人々の幸せに貢献したい」「自社・顧客のデジタル化を推進したい」という4つのテーマを掲げて、募集を行いました。
【project1】MAIキャピタルとの協業「LeafTea Cup事業の展開の仕方を模索」
スピーカー:株式会社吉村 企画推進部 大根 実氏
吉村は、紙コップの中にお茶の葉っぱを予め入れ、フィルタを紙コップの途中にセットしておくことで、お湯を入れるだけですぐに美味しい日本茶が飲めるLeafTea Cupという商品を提供しております。このカップが、どの様な業態にハマるのかという点について、MAIキャピタルの石塚さんとともに、仮説を立てて模索してきました。その中から実現の可能性が高いものを3つ紹介します。
1つ目は「シルバーセンターの活用による事業展開」です。シルバー人材の方から、シルバー人材センターと既に取り引きのある企業に向けて、カップの紹介することで、新しい事業が生まれるのではないかと考えました。現在は、スキームを構築しているところです。
2つ目には「介護マーケットでの事業展開」です。介護度が高い方では、紙コップが持てない、粘度の高い飲み物である必要があるといった課題に直面しましたが、介護保険会社のサービスの一環として、日用品のサブスクリプションサービスがあることに注目し、提供実現の可能性について深堀していきます。
最後に、「精神科病院マーケットの事業展開」です。精神科病院に消耗品を提供している会社を紹介していただいたので、今後は課題の抽出を合わせて、商品開発を進めて行くつもりです。
スピーカー:MAIキャピタル 石塚 兼也氏
今後は、産前産後ケアが、国の政策の中心になりそうなので、そちらの市場でも事業展開を図りたいと思います。
【project2】TZEN株式会社との協業「新パッケージ Green Tea Stickの商品開発」
スピーカー:株式会社吉村 橋本 隆生氏
同製品の権利を取得している会社様より、充填加工ができる会社を紹介してもらいましたが、有孔加工は、別途行う必要があることが判明しました。有孔加工メーカーを探し、連絡をとっている所です。プログラム期間は終了しましたが、今後も可能性を模索していけたらと考えています。
プログラム総括 (Creww株式会社 CEO 伊地知 天)

イノベーションの領域は、可能性が無限大に広がっています。一度経験されたからこそ実践できるノウハウがあると思いますので、今後も色々な方との共創に挑戦してほしいと思います。そのことが、事業会社様にとって、一番の価値になると信じております。
また、本日の発表では、雰囲気が硬いかなと感じました。オープンイノベーションに取り組むには、社内外問わず「巻き込み力」が非常に大事になってきます。共創には、結果が不確かなものに対して仲間になってくれる人たちを、どんどん探していく作業が不可欠です。もっと自信を持って、もっと熱量高く話をすることによって、関わりたいと思って下さる人がたくさん出てきます。仲間を増やすには「見せ方」が大事です。
Crewwもよりスムーズに、大きな結果が出るよう、品川区全体を盛り上げていきたいと考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。本日は、ありがとうございました。
